12 二回目の告白
これは、あとから聞いた話だ。
クリスはヘンリエッタが家に帰ったあともキングスフォード造船所の事件を追っていて、実行犯にたどりついたのだという。
その過程でヘンリエッタが狙われていることに気付き、キングスフォード家へ警告に来てくれたらしい。
ちょうどそこに、ヘンリエッタの乗った馬車ごと奪われた御者が命からがら戻った。
急を要すると、クリスが、父キングスフォード伯爵に救出要請を出させ、クリスを慕う強い魔法使いケントを伴って最速で助けに来て──ヘンリエッタは危機一髪のところを救われた。
けれども、後始末には一悶着あったらしい。
ブレンダ曰く。
ヘンリエッタはみずからの意思で遊びに来ていたのに、クリスが貴族の別荘の魔法トラップを破壊して不法侵入し、奪っていったので、クリスを処分しろと。(魔法使いケントが遅れてきたのは、魔法トラップを処理していたからだった)
怪我をした御者や、襲撃を受けた馬車、ヘンリエッタに盛られた毒(子を産ませるつもりだっただけあって後に残るような毒ではなかった)、エドマンドから殴られた傷など、物証を示し、誘拐犯として訴えるぞと父が反論して、ようやくブレンダは引き下がった。
事件は、ブレンダのおかかえ魔法使いが冒した軽微な不正を、視る者協会長官アンダーソン伯爵の指示でクリスが検挙した、という形で決着した。
ただ、軽微な不正ということで、その魔法使いはすぐに釈放された。
このときを境に、ブレンダとマッキンレイは、魔法使いから好かれるクリスがその立場を悪用したら危険だと、やいやい言うようになった。ただ、具体的に悪用例をあげられなかったため、クリスの環境を変える圧力にはならなかった。
ヘンリエッタは、会いたいと、父を通してクリスに打診したが、断られた。
*
赤や黄色の落ち葉が、地面を彩る見事な絨毯になっている。
黒髪の町娘に変装したヘンリエッタは、安全エリアと呼ばれる区域にある公園に来ていた。
一切の魔法が使えず、魔法で襲撃される心配のない、安全エリア。視る者の主要機関が集中し、不審者チェックの厳しい区域でもある。
そんな場所にヘンリエッタが入れたのは、クリスの母エリナの協力があったからだ。
エリナは、昼頃、そこにクリスがいると教えてくれた。
どうやらヘンリエッタを守って手首を切ったあと、クリスも周りから強制的に病院に行かされ、エリナ曰く医者からいい感じに脅されて、昼過ぎは公園で休めという医者の言いつけを守っているらしい。
公園の中心にある池の前で、ヘンリエッタは足を止めた。
水鳥の親子が仲よさそうに泳いでいた。
かさり。
落ち葉をふむ音がして、ふりかえると、クリスがすぐ後ろに立っていた。
クリスはヘンリエッタを認めると、彼にしてはめずらしく、目に見えて動揺した。
「ヘンリエッタ様?」
「こんにちは。少し驚きすぎじゃありません?」
いたずら心でヘンリエッタがそう言うと。
クリスは恥じるように顔をそむけ、
「あなたに似た人がいると思って、つい引き寄せられてみたら、ご本人だったので、驚いただけです」
と、言った。
(引き寄せられてって……!)
自分への好意を示す言葉に、ヘンリエッタの頬は自然とゆるんだ。
「先日は助けてくださって、感謝していますわ」
動揺ついでに、このまま望む展開にもっていけたら、と思いながら、ヘンリエッタは言った。
しかし。
「……キングスフォード家がマッキンレイに呑まれるような事態は、陛下も殿下も望んでいませんから」
クリスはそっけなく言った。
(うぅ、もう平常モードに戻っちゃった)
ヘンリエッタはがっかりした。
(ううん、まだまだ! 今日はふられるための告白をしにきたわけじゃないんだから!)
「本当にありがとう。キングスフォード家を助けてくれて。だけど、うちも完全にマッキンレイに睨まれちゃったし、また手を変えて仕掛けてこられるのは明白だし、そのときに…」
「ヘンリエッタ様」
厳しい声が、ヘンリエッタの弁を遮った。
「キングスフォード伯爵の技量があれば、以前のように、マッキンレイから距離を置いて、生き残っていけるはずです。……これ以上、私と関わりさえしなければ」
「やめて! そんな悲しい言い方しないで!」
自分を不幸の使者のように言うクリスに、ヘンリエッタは叫んだ。
「いいえ。キングスフォード家が私を拾うということは、勝算もなしに、退路を断って正面からマッキンレイに挑むということです。これがどれほどの…」
「やめてってば!」
彼自身を傷付けながらの言葉に、ヘンリエッタはたまらなくなって飛びついた。
「ヘンリエッタ様…!」
クリスは苦しそうに名を呼び、引き離そうと肩に手を置いた。
「いやっ」
反射的に離されまいと、ヘンリエッタはギュッとクリスにしがみついた。
肩に置かれた手が迷うように離れ──次の瞬間、クリスの腕に抱きしめられた。
「好き! あなたのことが好き!」
「私は………っ!」
クリスは言葉をつまらせた。
「………お応え、できません………!」
応えられないと言いながら、抱きしめる腕は力強く、ヘンリエッタを思う気持ちが伝わってきた。
(ああ……どうして、この腕を諦めなきゃならないの……!)
「ヘンリエッタ・キングスフォードでなくても、どんな形でもいいわ! あなたと一緒になりたい!」
気が付いたら、ヘンリエッタはそう叫んでいた。
しかし。
ハッとしたようなクリスに、ヘンリエッタは離された。
「すみません。マッキンレイに呪われたこの身を、私は…」
「少し、いいかね?」
厳格な男性の声が、ふたりの間に割って入った。
クリスが息をのんだ。
ヘンリエッタも、見てすぐにその男性が誰だか分かった。
髪の色も、持っている雰囲気も、クリスによく似ていたから。
男性は、近くに停めてあった馬車に、ふたりを誘った。
「初めまして。ウィルフレッド・アンダーソンです」
「初めまして。ヘンリエッタ・キングスフォードです」
町娘の格好ではあったが、本名を名乗り、令嬢らしく綺麗なお辞儀をした。




