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伯爵令嬢ヘンリエッタと三番目の求婚者  作者: 野々花
伯爵令嬢と三番目の求婚者
13/52

11 残酷なヒーロー

前回に引き続き、レイプの描写があります。

苦手な方はご注意下さい。

「へへ。従順に腰を振れば子を産んだあとも可愛がってやる」


 ヘンリエッタを寝かせたソファの前に立ち、エドマンドは言った。

 全身に悪寒が走った。


(どう、して………!)


 毒で動かない自分の体に、ヘンリエッタは猛烈に腹が立った。

 こんな奴になす術もなく好き放題にされるなんて、許せなかった。

 頭がガンガンして吐き気がする。

 それ以上にエドマンドが気持ち悪い。

 ただただ気持ちの悪い、おぞましい手が伸びてくる。


 パシン!


「なっ」


 エドマンドが驚愕の声をあげた。

 動けるはずのないヘンリエッタが彼の手を払いのけたから。

 目だけは強く、ヘンリエッタはエドマンドを睨んだ。


「こいつ……………!」


 バシッ!


 激昂したエドマンドは力一杯ヘンリエッタの頬を殴った。

 ヘンリエッタの手首をきつくつかみ、のしかかってくる。


(嫌っ……! 助けて……!)


 心の中でヘンリエッタが助けを求めたとき。


「ヘンリエッタ様!」


 部屋の扉が開き、クリスの声がした。


(うそ…………っ!)


「おまえは──!」


 ソファから腰を上げたブレンダは、扉の方をふりかえり、憎々しげに言った。


「汚らわしい! おまえごときが足を踏み入れてよい場所ではないわ! 誰か!」


 ブレンダは金切り声をあげたが、クリスは動じなかった。

 彼に立ち向かっていった従僕をあっさり倒すと。


「父の別荘に来ただけで、そのように言われるのは心外ですね」


 自分はアンダーソン伯爵の息子だと反論した。


「それに今来たのは、キングスフォード伯爵から誘拐された令嬢を取り戻して欲しいと依頼を受けたからです」

「誘拐ですって? とんだ言いがかりね。彼女は望んでここに来て、望んでエドマンドに足を開いているのよ」


 ブレンダはしゃあしゃあと嘘をつく。


「分かったら下がりなさい。キングスフォード伯爵にも、そう伝えるのね」


 嘘よ!

 ヘンリエッタは叫びたかったが、体の自由を奪う毒のせいで、口もまわない。

 ただ、一生懸命にクリスを見て、訴えるだけ。


「アンダーソン伯爵夫人。あなたの行為は誘拐です。キングスフォード伯爵が訴えれば、咎は避けられませんよ」


 クリスは冷静に言った。

 チッとブレンダは舌打ちした。

 そして。


「そんなに言うなら返してあげる。ただし、可愛いエドマンドの胤をたっぷり注ぎこんでからね! 純潔を失った伯爵令嬢なんて、他所へ嫁がせられるはずないわ!」


 ブレンダの合図で、バリバリッと透明な魔法の壁が出現した。

 どうやらヘンリエッタからは見えない背後に、魔法使いもいたらしい。

 ブレンダとエドマンドとヘンリエッタと魔法使いの四人が、壁の内側に。

 クリスは外側に。


「へへへ」


 クリスの登場から固まっていたエドマンドは、急に元気を取り戻した。

 ヘンリエッタの上でカチャカチャとベルトを外し始める。

 さっきまで以上の絶望がヘンリエッタを襲った。


「………い………や………………!」


 出せるはずのない声がこぼれる。

 クリスの前でエドマンドに踏みにじられるなんて耐えられなかった。

 エドマンドは嗜虐的な笑みを浮かべた。


「そうそう、そういう顔してりゃいいんだよ」


 エドマンドも、透明な魔法の壁の向こう側のクリスも、とても見ることができなくて、ヘンリエッタは目を閉じた。

 そのとき。


「残念です」


 ひどく冷静で、それなのに強い感情のこもった声が響いた。


「あなたがたには私が何者か、いまだ認識いただけていなかったようですね」


 思わず目をあけたヘンリエッタの前で、クリスは胸元から小瓶を取り出して呷った。

 それからナイフで手首を切ると、自分の血のついたナイフを持ち直し、今度は魔法の壁に向かって斬りつけた。


 パリン!


 魔法の壁が砕け散った。

 ヘンリエッタは、遠い昔の、パパラチア王国建国前の伝承を思い出した。

 魔法使いたちを打ち負かし、視る者を魔法使いの上に立たせた技。

 メープル酒と呼ばれる特殊な酒を飲んだ視る者の血で、魔法使いの魔法を無効にするというもの。

 壁を壊したクリスは、あっというまにヘンリエッタの前まで来て、エドマンドを床に引き倒し、彼の喉元にナイフをつきつけた。


「きゃあああああっ」


 ブレンダが悲鳴をあげる。


「先に言っておきます。私に魔法攻撃してもあなたに返るだけです」


 ヘンリエッタの背後にいるらしい魔法使いに向かって、クリスが言った。


「クリス!」


 そこに、クリスを慕う強い魔法使いケントが現れ、すべてが決した。

 クリスはエドマンドを解放すると、自分で手首の止血をし、ヘンリエッタを抱きあげた。


(あ……クリスさんの腕……クリスさんの胸……クリスさんの体温………)


 助けられたことを実感したら、限界まで緊張していたものが緩んだ。

 そして、ふわっと急速に薄れていく意識の中で、ヘンリエッタは、ダメだ、と思った。

 意識を手放せば、次に目を覚ます前に彼は姿を消してしまう。


(こんなふうに助けてくれるくせに、わたしの想いを受け止めてくれない、ひどい人………)




 次にヘンリエッタが目を覚ましたのは自室のベッドの上で、クリスはもういなかった。


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