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伯爵令嬢ヘンリエッタと三番目の求婚者  作者: 野々花
伯爵令嬢と三番目の求婚者
12/52

10 略奪者の求婚

レイプの描写があります。苦手な方はご注意下さい。

「悲しいですね……でも、エリナさんがお元気になってよかったです。クリスさんが頑張って働いたからですよね」


 クリスと父親の心のすれ違いを聞いたヘンリエッタは、クリスの母エリナに言った。


「ええ…。だけど、今でも答えが出ないの。十二歳のあの子に母親の葬式を出させて、無条件に甘えられる存在を奪ったことは間違いじゃなかったのかって」

「間違ってないと思います。エリナさんは、元気になったと言えばまたマッキンレイに狙われるし、ジュニパーさんだからこそ、クリスさんを長屋の子と呼んで、影に日向に支えてこられたんじゃないですか?」

「ありがとう…。いやだわ、涙もろくて」


 涙をふき、笑顔を浮かべ、エリナは言った。


「今日はごめんなさい。クリスさんを休ませてあげたいなんて言って協力していただいたのに、逆に辛い思いをさせてしまったわ…」

「いいのよ、させておけば。あなたのような方に好いていただいたのに、ちゃんと応えることもできなかった大馬鹿者なんて、気にかけていただく価値もないわ」


 エリナはそう言うと、ふわりとヘンリエッタを抱きしめた。


「どうかお元気で」

「はい…!」


 もう一人の母と別れるような気持ちになって、ヘンリエッタは涙ぐんだ。


  *


「ヘンリエッタ。殿方を値踏みするのもいいけど、ほどほどで妥協するのよ」


 実母ナタリーから微妙な別れの言葉をもらい、ヘンリエッタは苦笑した。

 クリスにフラれ、家に戻ってから三週間と少し。

 ヘンリエッタはレテ王国の叔母の元に身を寄せるため、いよいよ出発することになった。


「…本当はわたし一人国外へ出るなんて、したくないのだけれど」

「あなたは保険なの。私たちも簡単に負けないよう頑張るけれど、()()()()はあなたにすべてを託すから……だから、あまり殿方選びに時間をかけないでね」

「分かっているわ、お母様」


 ヘンリエッタは母と抱き合って、別れた。

 レテ王国でヘンリエッタは伴侶を探す。

 キングスフォード家が倒れたとき、造船と貿易の家業を引き継いでくれる力のある人を。

 魔法使いを容認するパパラチア王国は、魔法使いを認めない周辺諸国と基本的に交流がない。

 唯一の架け橋であるキングスフォード家が倒れたら、パパラチア王国は完全に孤立するから。




 馬車に乗ったヘンリエッタは、移りゆく町の景色を眺めた。

 もう二度と戻ることは叶わないかもしれない、生まれ育った町。

 じわりと涙がにじんだ。

 そのとき。


 ガタン!


 馬車が突然止まった。

 御者の叫び声や、争うような物音。


「何事です!」


 ヘンリエッタは馬車を降りようとしたが、扉が開かなかった。


「ここを開けなさい!」


 扉をたたき、叫ぶ。

 しかし、応答は返らない。

 そして。

 馬車が勢いよく走り出した。


「きゃっ」


 車体が大きく揺れ、頭を打ったヘンリエッタは、そこで意識を失った。


  *


 体に突き刺さった鋭い針の痛みに、ヘンリエッタはハッと目を開けた。

 従僕らしき青年にソファに押さえ込まれて、腕に何かを注射されたところだった。


「離しなさい!」


 毅然とヘンリエッタは叫んだ。


「あら、気がついたの?」


 嫌な女の声がヘンリエッタに応えた。

 対面のソファに、家の中とは思えない派手な装いのアンダーソン伯爵夫人ブレンダが座っていた。


「アンダーソン伯爵夫人…! これは一体どういうことですか!」

「まあ、礼儀を知らない子ね。今すぐ直しなさい。マッキンレイの血を受け継ぐ子の母親になるのだから」

「は…?」


 ヘンリエッタは、自分がバカになったのではないかと思うくらい、意味が理解できなかった。

 ブレンダは酷薄な笑みを浮かべた。


「キングスフォード家には、保険と呼ばれる女がいるんですってね?」


(バレた……?!)


 ぐらりと、強い目まいがヘンリエッタを襲った。


(あっ…昔、保険の娘が嫁いだ家で、最近マッキンレイに手酷くつぶされた家があったわ………!)


「今の時代、その女が誰かと考えたら、王太子妃を高望みしたあなた、よね?」


 ズキン、ズキン。

 頭が割れそうに痛い。

 ブレンダの後ろに立つ、彼女の息子エドマンドが下卑た笑いを浮かべている。


「良かったわね。マッキンレイの一員になれて。これからは、わたくしに感謝して、あなたが貿易に励むのよ」

「…、…、…!」


 ふざけるなと叫びたかった。

 ブレンダはヘンリエッタを無理やりエドマンドの嫁にし、キングスフォード家を滅ぼし、今、キングスフォード家が持っているすべてを自分のものにすると言ったのだ。


(冗談じゃないわ…!)


 純潔も、家族も、家業も。

 何ひとつ奪われてたまるものかと、心は強く反発していた。

 しかし。

 体が動かない。

 声も出せない。

 頭痛、吐き気がする。

 世界がぐらぐらと回っている。

 体を押さえつけていた従僕が退いても、盛られた毒のせいで、身じろぎひとつできなかった。

 エドマンドは悠々とヘンリエッタに近付いてきた。


「へへ。従順に腰を振れば子を産んだあとも可愛がってやる」


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