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第3話(1/4) 婚姻届はいらないからっ!

 モヤモヤする。

 モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤするっ!


 全部、陽大(ようだい)が悪い。

 ちょっと美人を見たからって鼻の下を伸ばしちゃって。

 いっつも私のことが好きだって言ってるくせに。


 ……言ってはないか。


 勝手に頭の中の声が聞こえてきてるだけ。

 その声は口から出てくるものとは違って、きっと嘘なんかじゃないってことは分かってる。

 でも、だけど、やっぱり聞きたい。

 ちゃんと私のことを好きだって口に出してほしい。

 分かってるんだよ。


 ――私からその気持ちを伝えたら、陽大が応えてくれるってことは。


 でも嫌だ。

「……大丈夫?」

 何でかは分からないけど、自分から行動を起こしたくなんてない。

 先に陽大が告白してくるべき。そうに決まってる。

「……気分が悪いなら保健室に行く?」

「へっ?」

「あっ、やっと気付いてくれた。ひどい顔してるけど、大丈夫かな?」


 いつからだろう。私の目の前にはクラスメイトの女の子が立っていた。

 ボブカットの黒髪を耳にかけて不安げに私のことを見つめていた。


 たしか……

橋田(はしだ)(りん)さんだったっけ?」

「うん。凛でいいよ」

「そっか。じゃあ私も亜月(あづき)でいいよ。えっと、それで凛ちゃん、どうしたの?」

「どうしたのって、亜月ちゃんが入学式が終わって教室に戻ってきてからずっとうつむいたままだったから。体調でも悪いのかなって心配しちゃった」

「私ってそんなに長い間黙ってた?」

「うん、担任の先生の話も終わって今日は解散ってなったのに、ずっと固まってたよ」

「……うそ?」


 凛ちゃんに言われて周りを眺めてみると、たしかに他の生徒たちは帰り支度を整えていた。早い子たちはもう教室をあとにしている。

 全然気付かなかった。

 それもこれも全部、陽大が悪い。

 チラッと視線を送ってみると、男子生徒と何やら楽しそうに話をしてる。


 人の気も知らずにのんきなもんだねっ!


 ちょっと待ったけど、陽大から返事はなかった。

 まぁ、それは仕方ない。他の人と話している時なんかには、心の声は伝わりにくいから。


「また変な顔してるけど、ほんとに大丈夫? お家の人に迎えに来てもらう?」

 しまった。陽大との会話を試みたせいで、また凛ちゃんのことを放っておいてしまった。

「ううん、大丈夫」

「ほんとに? 無理しない方がいいよ?」


 心細げに私を見つめる凛ちゃん。そんなに心配されると悪いことをしたかなって思ってしまう。

 けどようやく陽大が言ったルールの大切さが分かった気がする。

 こんな風に目の前の人との会話をおろそかにしないためにも、ルールは守らなくっちゃね。


「うん、ほんとに大丈夫。心配してくれてありがとう」

「ううん、何もないならいいけど」

「ほんとにほんと。そろそろ帰ろうか? 凛ちゃんは電車?」

「そうだよ。亜月ちゃんも?」

「そう。じゃあ駅まで一緒に行こうっか?」


 そう言って立ち上がろうとした時、気だるげな声が聞こえてきた。


「あづっちー、このあとちょっと付き合ってくれるー?」


 振り向くとそこに立っていたのは、同じ中学校から進学してきたセアラ。

 入学式だというのに、いつも通り派手な格好をしてる。


「いいでしょー、どうせこのあとも中野っちとイチャイチャするだけなんでしょー?」

「イチャイチャなんてしないしっ!」

「えーっ、いつも二人はくっついてるじゃん」

「えっ、亜月ちゃんと中野くんってそういう関係なの?」

「違うって!」


 セアラと話すノリで思わず凛ちゃんにも声を荒げてしまった。

 ふうと、一つ息を吐いてから凛ちゃんに向き直る。


「別に、私と陽大は何でもないの。ただ幼馴染ってだけ」

「ふーん、そうなんだ。けど中野くんって結構かっこいいよね?」


 凛ちゃんは目を細めて陽大の方を見ている。


「はぁ? あいつが? そんなことないでしょ」

「ほらー、あづっちがボケーっとしてると、中野っち取られちゃうよ?」

「なっ、別にそんな話してないしっ!」

「けど、そうやって慌てるところがあづっちのかわいいところなんだけどなー」

「そうだね」


 顔を赤くして抗議する私を放ってセアラと凛ちゃんは笑っている。

 もうっ。人が何に悩んでいたかも知らずに勝手なもんだね。

 けどこの場はさっさと話を進める方がいい気がする。


「で、セアラ、何なの?」

「そうそう、ちょっと話したいことがあってさー」

「ここで話せばいいじゃない?」

「そうなんだけどー。せっかくだから場所を変えようと思ってさー」


 場所を変えてまでする話って何なんだろう。

 私とセアラの仲なら何でも話せるのに。


 戸惑う私に、

「まぁそういうことだからー。もう一人声かけるから、ちょっと待っててー」

 セアラはそう言って、私を置いていった。

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