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第6話(3/3) 言い訳はいらないんだけど

◆   ◇   ◆   ◇


「もうっ、どうして私の言うことを聞かなかったのよ?」


 試合終了後、勝利を喜び合うクラスメイトたちの輪から離れた陽大(ようだい)亜月(あづき)が憮然とした表情を浮かべてみせる。

 対する陽大もいきなり投げつけられた非難に不機嫌さを隠さずに応じる。


「亜月こそ、途中から俺にアドバイスをするのをやめただろ? 試合見てなかったのか?」

「ちゃんと見てたよ。試合終了間際にもちゃんとドリブルで抜けそうな所を教えてあげたのに、陽大は聞いてくれなかったでしょ?」

「いや、あの場面は何も聞こえなかったぞ」

「そんなはずないっ! あそこでPK取れなかったら、陽大はハットトリックを決められなかったんだよ」

「何言ってるのか分からねえんだけど。そんな風に怒ったふりして、試合を見てなかったことを誤魔化そうとしてるだろ?」


 互いの主張がかみ合わないことに2人はいら立ちを募らせる。


「どうせ陽大はセアラと出掛けたかったんでしょ?」

「なんでそうなるんだよ?」

「だって私の言うことを聞いてれば、簡単にゴールできたはずなのに聞こうとしなかったし」

「だから何も聞こえなかったって言ってるだろっ! 亜月の方こそ俺と一緒に出掛けるのが嫌なんだろ? ほかの人に俺と一緒にいるのを見られたくないんだろ?」

「はあ? 人のせいにするの?」

「誰のせいとかじゃねえよ。俺は事実を言ってるだけだ」

「事実って……。じゃあ陽大は私が嘘をついてると思ってるわけ?」


 亜月は腰に両手を当ててジトっと陽大を睨む。

 陽大もこの場は譲れないと、しっかり亜月の瞳を見つめ返す。

 そうして2人は互いの心の内を行き交う思いに耳を傾ける。


「……嘘はついてないみたいだな」

「陽大もほんとのことを言ってるみたいだね……」

「じゃあ何があったんだよ?」

 陽大がひとり言のように言葉を漏らした時。


「昼間っから仲いいところを見せつけてくれるねー」


 いつものようにスティックの付いたキャンディーをくわえるセアラが2人の間に割って入った。


「どこが仲良く見えるの?」

「だってさー、ちょっと前から見てたけどー、2人で見つめ合ってたじゃーん」

「えっ、私たちはどちらかというと睨み合ってたんだけど?」

「同じことでしょー?」

「違うだろ?」


 口を挟んだ陽大にセアラはにへらと笑う。


「睨んでたのかもしれないけどー、どうせー、『陽大は怒った顔もかっこいいな』とか『亜月はどんな表情でもかわいい』とか思ってたんでしょー?」


 ご丁寧に2人の口真似を交えるセアラに、陽大と亜月はそろって顔を赤くする。

 実際その通りだった。

 そんな思いは当然、互いに筒抜け。

 でも2人とも主張を譲りたくなくて聞き流していたからセアラに指摘されたことが余計に恥ずかしい。


「ほらー、2人とも図星って顔してるよー」

「分かった。分かったから、もうやめてくれ」

「えー、どうしようかなー?」

「セアラ、もういいでしょっ!」


 2人の抗議を聞いてセアラは

「やっぱりこういう時も2人は息がぴったりなんだねー。うんうん、いいねー」

 と満足そうに頷く。

「だけどー残念だなー」

 続けた言葉はどこか棒読み口調で、亜月は首を傾げる。


「何のこと?」

「だってー、これで中野っちとデートに行けるのはあづっちになっちゃったんだよねー」

「デートじゃないでしょ?」

「えー、あーしはデートのつもりだったんだけどなー。ほんとに残念だなー」

 さっきよりも芝居がかった口調のセアラに陽大が訊ねる。


「もしかして俺と亜月の関係を進めるために、スイーツ食べ放題に俺を誘ったのか?」

「はっ? なんであたしがそんなことしないといけないの?」

「だ、だよな。悪い、俺の考えすぎだった」

 鋭い視線を向けられあっさり引き下がる陽大。


 けれど亜月も陽大と同じ疑問を抱いていた。

 互いの心が読めるとはいえ、全然進展しない自分と陽大の関係をセアラは心配してくれたんじゃないだろうか。

 高校に入学して環境が変わったのに、変わらない自分たちのことを不安に思ったんじゃないだろうか。


 だから、

「セアラ、ありがと」

「……別にあーしはお礼を言われることなんてしてないよー」

「うん、それでもありがと」


 感謝の言葉を重ねる亜月を見やって、セアラは金色の髪をそっと撫でつける。

「とにかくー、日曜日は楽しんできてねー」

「なんで日曜日なんだよ? セアラは週末って言ってたから、別に土曜日でもいいんじゃないのか?」

「ダメだよー。絶対に日曜日に行くことっ!」

 キュポンと音を立てて、口にくわえていたキャンディーを取り出すと、陽大にビシッと突きつける。


「……日曜日が何の日なのか分かってるのか?」

「さぁー、何の日なのかなー?」

 目を逸らしながら言うセアラに陽大は苦笑いを浮かべる。

「セアラって嘘つくの下手だな」

「何のことかなー」

「分かったよ。俺からもお礼を言っておく。ありがとう」

「だからあーしはなーんもしてないってばー」


 そう言ってセアラは背を向けて、陽大と亜月から離れていく。

 残された2人は遠ざかっていくセアラをぼんやり眺める。


「ということらしいから、出掛けるのは日曜日でいいか?」

「セアラが言うんだから仕方ないよね。私は大丈夫。陽大は?」

「俺も問題ない。じゃあよろしくな?」

「……うん。こちらこそ」

 ささやくような声で言葉を交わす陽大と亜月。

 横目で表情を窺ってどちらも頬を赤くしていることに気付き、余計に顔が熱くなるのを感じていた。

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