表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/133

姫路出陣

「私、言いましたよね!」


 別の間で、向き合っている官兵衛と仁助に言った。


「何の件でしょうか?」


 分かっているはずの官兵衛が白々しく言った。


「上様を援軍に呼ばないようにって」

「されど、上様なしで毛利に勝ってしまえば、後々当家に難儀が降りかかって来ましょう」

「当家には上様のお子 秀勝がおるであろうが」

「左様でしたな。

 されど、万全を期すが最上かと」

「ならば、なぜ信忠様まで援軍をお願いした」

「甲州征伐には総大将として信忠様が立たれました。

 此度も同様。そう思うたまで」

「仁助。今度はそなたにたずねる。

 上様に援軍を要請するような事があれば、私に教えるようにって言ってたよね?

 なぜ、私に報告しなかった?」

「私は秀吉様に仕える身。

 ねね殿はなにやら思いを秘めておられるように見受けられましたゆえ、殿にとって最良の選択として、ねね殿に報告する事を控えたまで」


 信長様に人としての問題があったのは確か。

 でも、その後の事は私が原因?

 私の反応から謀反を光秀が起こすと読んだ者たちが、光秀を謀反に向かうよう企み、私の反応から京に信長様と信忠様を呼びよせると謀反が起きると読んだ者たちが、二人が京に集うよう援軍を要請した?

 これらがうまく組み合わさって、本能寺の変が???

 ない、ない!

 それはない。

 元々本能寺の変は起きてたんだから、私が原因なんてことはない。

 そう信じ、前に進むしかない。


「では、二人に聞きます。

 この後、どうする気ですか?」

「もちろん、殿に天下を盗っていただきまする」


 官兵衛が戸惑も見せずに答えた。

 まあ、ここまで来てしまった以上、元の歴史通り秀吉に天下を盗ってもらう以外にはない。


「で、その策は?」

「時が経てば、明智につく者が増えていく可能性がありまするゆえ、我らは明日にでもここを出立し、明智討伐に向かいます。

 その間、畿内の諸将には上様 本能寺より無事脱出の書状を殿の名にて送りつけております。上様がご存命の可能性あらば、みな明智にはつけませぬ故」

「しかし、中国から駆け戻って来た兵は疲労困憊であろう。

 このまま明智勢と激突するのは不利ではないか」

「左様ですな。

 殿は城にある米と金を全て雑兵にまで分け与えると申しておりまする故、士気は高まりましょうが、身体的な疲労はそう簡単にはとれませぬからなぁ」

「まずは畿内の諸将を固めましょう。

 高山右近はバテレンを使えばよろしい。

 丹羽殿と信孝殿にも使者を送り、合流を依頼してください」

「承知。

 ねね殿、はっきりさせていただきたいのですが。

 先の事が見えておられますね?」

「少しはね」


 そう。私の知識なんて全てじゃない。

 戦国の歴史のほんのちょびっと。


「では敵方ですが、筒井順慶、細川藤孝は明智に与しますか?」

「いいえ。しません」

「なるほど。

 で、決戦の地はいずこに?」

「決戦の地は山﨑です」

「承知しました。

 では、われら、殿を天下人にするため準備にとりかかります」


 そう言って、二人は私の前から立ち去って行った。

 そして、秀吉は言葉通り城にある米と金を雑兵に至るまで、全ての者ちに分け与えた。


「よいか。

 これはわしに付いてきてくれた褒美じゃ」


 秀吉が言った。


「皆の者。

 此度の戦、上様の敵討ちじゃ。

 これに勝つと言う事の意味が分っておるであろうな。

 褒美はまだまだ思いのままじゃ」


 官兵衛が言った。言外に秀吉が天下人になる戦と言っている。

 その事を何人が理解していたかは分からないが、大きな喚声が上がった。


「おぉぉぉぉぉ!」


 今にも進軍開始。そんな時だった。

 水を差す声が上がった。


「殿。本日は出陣を取りやめなされ」


 吉凶を占う坊主が進み出てきて言った。


「本日出立いたさば、二度とこの地に戻って来れぬと出ております」

「はっはっはっはははは」


 その言葉を大きな声で笑い飛ばしたのは秀吉だ。


「御坊、見ておらなんだか?

 この城の米も金も全てみなに分け与えたであろう。

 この城はもう籠ることのできる城ではない。

 つまり、わしはここに元々二度と戻って来るつもりはないのじゃ」


 それだけ言って、秀吉は隣に立っている秀長に目配せをした。


「われらがこれより立つ地は、この国の都 京である!」


 天下人を目指す。その言葉を自分ではなく弟に言わせた。


「おぉぉぉぉぉぉ!」


 さっき以上の大歓声が沸き起こった。秀吉が天下人になれば褒美だけでなく、自分の地位も上がる可能性がある。みな、その夢を実現しようと心の奥と体に力を込めた。

 勝利のオーラ。

 そんなものを漂わせ、意気揚々として姫路を出立する秀吉の軍勢を私は見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ