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備中高松城 水攻め

「なんじゃ、官兵衛。

 それに仁助。

 このような夜更けに」


 そう言ったのは備中高松城を水攻めにしている秀吉だ。


「殿のお耳に入れたき儀が」


 そう言って、秀吉に足を引きずりながらにじり寄ったのは官兵衛である。


「上様が京 本能寺にて、明智光秀に討たれました」

「なにぃぃぃぃぃ!」


 驚きの声を上げたかと思うと、続いて涙をぼろぼろと秀吉はこぼし始めた。


「そ、そ、それは真なのか?」

「はい。

 仁助、報告を」

「上様は我らへの援軍の準備を進めつつ、京を訪れていた際、明智光秀謀反により、本能寺にて討ち取られた模様。

 信忠様も同じく京にて滞在しておられ、二条城に立て籠もられましたが、多勢に無勢、明智の手を退ける事かなわず」

「うぉぉぉぉ。

 上様ぁぁぁぁ。

 信忠様ぁぁぁぁ」


 大泣きを始めた秀吉だったが、しばらくすると泣くのを止め、官兵衛をじっと見た。

 その顔にはあからさまな官兵衛への不信が浮かんでいる。


「官兵衛。

 上様はともかく信忠様まで、なぜ京にいたのじゃ?」

「それは知りませぬ」

「信忠様にも援軍をお願いしたため、お二人が京におられたのではあるまいな?」

「殿もご承知のとおり、お方様より禁じられてはおりましたが、毛利討伐の手柄を上様にお譲りになるため、上様の御出陣をお願いは致しました。しかし、信忠様にはお願いはしておりません」

「左様か。

 信忠様まで。

 わしはどうしたらよいのじゃぁぁぁぁぁ」


 再び大泣きをする秀吉の耳元で、官兵衛が囁いた。


「殿。お気をしっかりとなさいませ。

 織田家のお二人が亡くなられた事は殿にとっては幸運。

 天下をおとりなさいませ」


 その言葉を聞くや否や、秀吉は官兵衛を睨み付けた。


「たわけぇぇ。

 何をふざけた事を申しておる。

 上様が、上様が、信忠様がお亡くなりになったんだぞぅぅぅぅ」


 取り乱し、泣きじゃくる秀吉から離れて官兵衛は秀吉の気分が落ち着くのを待つことにした。


 やがて、少し落ち着きを取り戻した秀吉は仁助に命じた。


「上様が討たれた事が毛利に伝わらぬよう、街道、間道、全ての道を押さえ、西に向かう者をことごとく捕らえよ。

 密使であった場合は、即刻斬り捨てよ」

「はっ」

「官兵衛。

 安国寺恵瓊を呼び、至急和議を進めよ。

 そして、三成に命じて撤退準備を進めさせよ」

「承知」


 秀吉の前から、官兵衛、仁助が立ち去って行った。



 仁助は毛利に向かう明智の密書を持った者たちを捕え、官兵衛に呼び出された恵瓊は秀吉との間で、和議を結んだ。

 三成は元々信長様を迎えるため、食料や宿泊場所の用意をしていたため、それを転用した撤退の策を整え始めた。

 

 毛利との和議の条件の一つ。それは高松城 城主 清水宗治の自刃。

 備中高松城を水に沈めた人工湖の堤の上から、小舟に乗った城主 清水宗治が自刃したのを確かめると、秀吉の兵達が勝鬨を上げた。援軍に来ていた毛利の軍勢に対し、自分たちの勝ちを宣言し終えると、毛利が和議を破る気配が無いことを確かめ、秀吉の軍勢は順次撤退を開始した。

 世に言う中国大返しである。


 毛利にも本能寺の変の報が届けられた。

 撤退中の秀吉軍の背後を襲うべき。そう言う論もあったが、安国寺恵瓊と小早川隆景の主張が通り、追撃はしないと言う方針が固まった。


 そして、無事に姫路城にたどり着いた秀吉を待っていたのはねねだった。


「ねねぇぇ。

 心配しておった。

 長浜の城はどうした?」

「城を出て、身を隠すように命じております。

 それより、あれほど言ったのに、上様を援軍に呼んだのですね」

「すまぬ。

 毛利と言う大敵を我が身一つで倒したとなると、後々面倒な事が起きる故、手柄は上様に渡すべきとの進言があってのう。

 それは確かにと思うて、ねねには悪いが、上様に援軍を要請したのじゃ」

「誰が進言したの?」

「それは官兵衛じゃが」

「官兵衛さん、それと仁助さん。

 ちょっと私と話をしましょうか」


 私は官兵衛と仁助を睨み付けながら、言った。

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