あかめへの仕置き
「死ね!」
あかめさんはそう言って、手にしていた短刀で私に襲い掛かって来た。
私にはずっと隠していた力がある。
どうして、そんな力があるのか分からない。
意識が時間を遡って、戦国時代に移って来た事と関連があるのかも知れない。
「止まれ!」
指パッチンは不要。
そう念じるだけでしばらくの間、時を止める事ができる。
神木〇之介くんの一君のように、一度に長い間止めておくことはできないけど、目の前にある危機から逃げる事はもちろん、その間に少しの作業を行う事くらいならできる。
私はこの場所であかめさんと話をしたのは考えあっての事。
まずはあかめさんの着物の帯をほどいて、両腕ごと縛りなおして動きを拘束した状態で通りの横に転がす。そして、少し離れた場所に置いてあるのを見つけた鍬を手に入れ、通りの横の土を掘る。
「なんじゃこれは?」
一瞬戻ってしまった時の流れ。
自分が帯で縛られて、道端に転がれている事に気づいたあかめさんの声がした。
「止まれ!」
もう一度、心の中で念じて、時を止める。
あかめさんの事にはかかわらず、ひたすら穴を掘る。
そして、再び時間の動きが元に戻ると、すぐにまた止めて土を掘ると言う事を何度か繰り返し、人一人を埋める事ができる深さまで掘り下げると、その穴にあかめさんを引きずり込み、掘った土で埋め戻した。
あかめさんの首だけが出た状態まで埋め戻すと、埋め戻されてまだ柔らかい土の上を踏み固めていく。
そして、その横に高札を掲げた。
私の時を止める能力はずっと止め続ける事ができないだけでなく、かなり体力を消耗すると言うもう一つの欠点がある。何度も時を止めた事と、穴を掘って人を埋めると言う力仕事をした事で、私はへとへとになっていて、あかめさんの首の近くにへたり込んだ。
時が再び動き始めると、あかめさんは唯一動かす事ができる首だけを振って、自分が置かれている状況を確かめている。
「ねね!
なんじゃ、これは?
何をした?」
「あー、待って。ちょっと息が切れてるの」
「お前は何じゃ?
何をしたのじゃ」
「あー、もうしんどいのに、面倒くさいなぁ。
言ったよね、私。
あんたに殺されるかどうかは分からないって」
「おぬし、もしや妖なのか?」
「いやあ、人間は人間なんだけどね。
スペッ〇ホルダーって奴かな。
ちょっと違う気もするけど」
「何を訳の分からぬ事を申しておる。
ここから出せ」
「いやあ。
自分を殺そうとした人を助けるって無くない?」
「なら、この私をどうする気じゃ」
「うーん。私としては人を殺す気はないしぃ。
て言うか、血がどばって噴出すのなんて、怖いじゃない。
それに、あかめさんたちがやった信長様殺害が間違っていたなんて決めつける権限も私には無い訳だし。
だから、みんなに決めてもらおうかなって」
「どう言う事じゃ?」
「あれ!」
体力も戻って来たので、私は立ちあがり、あかめさんの背後に立てている高札を指さした。
「背後なので、あかめさんには見えないでしょうけど、高札立てたの。
高札は見えないけど、これは見えるでしょ」
そう言って、あかめさんの横に置いてあった鍬とのこぎりを指さした。
「それをどうするのじゃ?」
「高札にはね。こう書いているの。
『この者、本能寺にて明智光秀が織田信長様を襲うよう仕組んだ張本人。
この者の行いが正しかったと思う者は、この鍬で土を一掻きして助けるのを手伝ってやって欲しい。
この者の行いが間違っていたと思う者は、この鋸でこの者の首を一切りして欲しい。
この者が死するが早いか、助かるが早いかはこの者の行い次第』ってね」
そう言って、にこりと微笑んで小首を傾げて見せた。
「ねね。お前は鬼か。
先ほど私に言った言葉返してやるわい。
若い頃のねねであればかわいかったかも知れぬが、今そんな仕草されてものう。
ましてや、言っている内容が人の言葉とは思えぬ内容じゃし、怖いんじゃが」
「ありがとう。
何人も人を殺し、私も殺そうとした人に同情するほど、私甘くないので」
そう言って、再びあかめさんに微笑むと、別れの挨拶を言った。
「助かるといいね。
でも、今度私に襲い掛かって来たら、容赦しないからね。
じゃあ、さようなら」
なんて言って立ち去ろうとしていると、通りをやって来た農民があかめさんの前で立ち止まった。
「お前さん。どうしたんじゃ?
この高札にはなんて書かれているんじゃ?」
「あ、おじさん。
読んであげるね」
「これはこれは」
身なりから言って、高貴な婦人。そう感じたそのおじさんが言った。
「この者、本能寺にて……」
高札の内容を読み上げた。
「なんじゃと!
この者が明智様を唆して、織田様を襲わせたと言うのですか!」
「みたいだね。
どうされます?」
「決まっておりましょう。
織田様のお陰で世は平和になったんじゃ。
しかも、織田様の軍勢はわしらに手荒な事もせぬ。
再び戦乱の世になれば、わしらはまた地獄のような日々になる。
この者は悪人じゃ!」
「だったら、こっちだね」
そう言って、鋸を指さした。
「ねねぇぇぇ。
この鬼がぁぁぁぁ」
あかめさんが私を睨み付けた。
「おじさん。
私はここを立ち去らないといけないので、この高札読めない人が来たら、さっきの話をしてあげてくれないかな?」
そう言って、私は懐から小銭を取り出して、おじさんに渡した。
「おお!
ありがたや、ありがたや」
「読んであげるだけでいいからね。
この者を助けるかどうかはその人に任せてあげてね」
「分かりました」
「おぬし、私を助けてくれ。
金か、金なら、助けてくれたら、思う存分くれてやる!」
私はそう言うあかめさんの言葉を背中で聞きながら、姫路に向かって歩き始めた。
「助けてくれ、助けてくれ。
それは、それは止めてくれ。
ぎゃあぁぁ。
痛い、痛い、痛いではないかぁぁぁ」
私が最後に聞いたあかめさんの言葉はそれだった。




