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進言 信長暗殺

「長政殿。此度は残念でござったなぁ」


 そう言ったのは馬上の信長様だ。


「確かに話し合いで済めば、それに越したことはございませなんだが、六角が話に乗らぬ以上、兄上様と力を合わせて討つまででございますれば、上様上洛に問題は何もありませぬ」


 そう答えたのは信長様の横で馬を並べる浅井長政である。

 二人は浅井領にある佐和山城を拠点に、南近江の六角義賢に対し、足利義昭上洛への協力を取り付けるための交渉を行っていたのである。

 が、所詮尾張の田舎大名程度にしか認識していない信長様と因縁ある浅井に与するより、三好と組んだ方に利ありと考えた六角は病気と称し、信長様たちの使者と会う事すらしなかった。このため、六角を取り込むことを諦めた二人は佐和山城を立ち、それぞれの居城に戻る途中であった。


「兄上様。

 では、これにて。

 本日は柏原にてお泊り頂く手筈を整えております」


 長政が小谷城への分かれ道となるすりはり峠にて、別れの挨拶をした。


「うむ。では、上様上洛の際にまたお会いいたそう。

 楽しみにしておる」

「はい。兄上様。

 その際には、必ずやお役に立ってみせます」


 信長様は長政に頷いてみせた。


 北に向かう長政と別れると、信長様は浅井家の接待役 遠藤直経と共に美濃と近江の国境に近い柏原に向かった。

 この地で信長様のために用意された宿泊先は成菩提院と言う天台宗の寺院だった。

 この寺院に入ったのは信長様とその近習 十数名でしかなく、他国とは言え同盟している国、義弟の国と言うこともあって、信長様は数百の馬回り衆たちを町中に留めたのだった。




「それを見た遠藤は顔色を変えました。

 明らかに予想外の出来事に驚いたようでした。

 そして、慌てたように遠藤が単騎で寺を出ましたので、これは何かあると思い、私も信長様に馬を借りて後を追いました」


 六角の動きを探るため、信長様が連れて行っていたあかめさんが帰蝶様に、佐和山城からの帰路の顛末を報告している。


「遠藤が小谷城に駆け込み、長政様に信長様暗殺を進言した時は正直驚きました」


 そう言って、あかめさんが小谷城での会話を話し始めた。




「織田信長様。此度、実際に間近で接するに恐るべき将とお見受けしました。

 しかも、人に対する扱いに疑念を抱かざるを得ず、やがては当家の敵となる事は必定。

 現在、信長様は殿の領地ゆえ、供の馬回り衆を留め置き、近習のみを従えて成菩提院に入っております。

 討つなら、今でございます。

 ここで討たねば、当家にとって悔やんでも悔やみきれぬ事となりましょう」

「兄上様を討ってどうする気じゃ?」

「そのまま美濃、尾張と攻め込めば、二か国を手に入れるは容易な事。

 その兵を以って、六角を討ち払い、義昭様を上洛させれば天下は殿のものとなりましょう」

「たわけた事を申すな。

 同盟を結び、信をもって近づいてきている者を討つははかりごとではなく、不義なり。

 さような事を行った者に誰が従うものか。

 さような策、決して許さぬ。

 分かったか」

「致し方ありませぬ。

 主命とあらば、信長様暗殺は諦め、全身全霊をもって、信長様を接待いたしましょう。

 されど、いずれ信長様が敵となったおり、わが言葉を思い出される事にあいなりましょう」




「と言う訳で、信長様暗殺は長政様がお止めになりました」

「あかめ。その話を信長様にされたのですか?」

「はい。

 遠藤より早く帰還し、報告させていただきました」

「で、信長様はなんと?」

「で、あるか。

 と一言申され、笑っておりました。

 長政様は見所ありと感心されたのではと」

「さようか。

 その遠藤と言う者の言葉が現実にならねばよいのじゃが。

 ねねは、どう思う?」


 帰蝶様は何やら先の出来事の話を私に振って来る事が多くなった気がしてならない。

 この答えは知っている。でも、本当の事を言える訳もない。


「いつまでも同盟は続くのではないでしょうか」

「さようか。

 ねね、目が寄っておるぞ」

「はい?」


 帰蝶様の言葉の意味がよく分からなかった。

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