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帰蝶様と信長様

 耳にした情報では夫婦とは言うものには色んな形があるらしい。

 世間的には仲良く装っているけど、その実は冷めきっている夫婦のことを仮面夫婦と言い、私の世界ではそれなりの割合で存在していると言う話だ。




 那古野の城になぜだか、信長様は私を連れてきた。

 金の鯱、そんな名古屋城とは違い、ただの砦風の城。

 そんな中を信長様はずかずかと私の前を歩いている。


「信長様、どこに行かれるのですか?」


 今の私は童女であり、歩幅が小さい。とてもじゃないけど、信長様に付いて行くにはゆっくりとなんか歩いてはいられない。目いっぱいの速さで、ちょこまかと後をついて行く。

 やがて、一つの部屋の前にたどり着くと、信長様は障子を開けた。


「お濃、入るぞ」


 お濃、濃姫、川口〇奈? 道三の娘 帰蝶様で、信長様の正室。でも、二人の仲はよく分かっていない。その関係を私は知る事ができる!


「これは信長様。

 いかがされましたか?」


 信長様に続いて、私も部屋の中に入った。

 そこには煌びやかな着物を着た、髪の長いきれいな十代後半と思われる女の人が座っていた。整った目鼻立ちに知性を感じさせる目元。これが帰蝶様。


「わしとの話は退屈じゃと申しておったであろう。

 良い話相手を見つけたものでな」

「それが、その童女と言う事ですか?

 つまり、私の話は子供の話と言う事ですね」


 そう言った帰蝶様の目には怒りとも蔑みともとれる危なげな感情が浮かんでいるように見える。


「そうではない。

 この者は今川義元が上洛戦を挑んで来れば、このわしが今川義元を葬ると申しておるのじゃ。

 しかも、そなたがなんの役にも立たぬと申しておった鉄砲の意外な使い方を考えておるしなぁ」

「左様ですか。

 ですが、信長様。

 その前にわが父との面会をしのがねばなりませぬが」


 帰蝶様はそう言うと冷たい目を向け、「ほほほほほ」と笑った。

 どうやら、この二人は仲が悪い?

 確かに、このきれいな身なりの姫から見れば、泥と汗にまみれた信長様は……。


「あ、あ、あのう。

 私は帰らせていただきましょうか?」

「いや、かまわぬ。

 ねねもここに」


 信長様はそう言うと帰蝶様の対面に信長様は座り、そこから少し下がった場所を指さした。


「ねねは知っておるか?

 美濃の斎藤道三殿を」

「はい。承知しております。

 美濃の国主であり、帰蝶様のお父上様。

 蝮の道三と恐れられているお方です」

「娘の前で、蝮とはよう言うた」


 ちょっときつい口調で帰蝶様が言った。


「す、す、すみません」


 言ってはいけない事をついつい言ってしまった。


「で、その蝮と信長様は近々お会いになられるのですが、さて生きて帰れるのやら」

「それは帰蝶様が砂金とか大枚はたいて、雑賀衆とか傭兵を用意されるんじゃないのですか?」

「はぁ?

 この子、何を言っているの?

 どうして、私が信長様のためにそんな事をしなければならないのですか」

「麒麟が〇るではそんな感じだったもので、ついつい」

「お前、頭は大丈夫か?

 そもそも、私は信長様が生きて戻られても、父上の手にかかってもどちらでも構わないのですよ」

「でも、信長様が討たれたら、帰蝶様も危ないのではないのですか?」

「私の父の事とか知ってはいても、まだ子供だから知らないのね。

 この尾張って国は一つにまとまっていないのよ。ふふふ」


 帰蝶様は不敵に笑った。


「でしたら、私がきっと道三様を屈服させる策を考えてみせます。

 私の頭の中には、その策があります!」

「あら、子供が大きく出ましたね。

 楽しみにしていますよ」

「はい」


 そう言って、私は頭を下げた。

 私には自信がある。元の世界で手に入れた歴史の知識があるのだから。

 この世界に来てしまった以上、カンペという汚い手であろうと使って、必ず天下を盗る。まあ、女の私が盗る訳じゃないんだけどね。



 そして、その策とやらを聞いてみたいと信長様が言うので、今、別の部屋で二人で向き合っている。


「さて、ねね。

 先ほどの策とやらじゃが、わしとて無策ではない。

 道三殿は隙あらば、わしの首をとるやもしれぬ。

 それゆえ、武装した兵たちを引き連れていく気ではおるのだが、ねねはどのように考えておるのだ?

 先ほどの鉄砲の話のように、ねねの子供らしい奇想天外な発想を聞いてみたい」

「すみません。全然奇想天外ではありません。

 信長様のお考えと同じです」

「なんじゃ。そうか。

 なら、相談じゃ。

 どの程度の兵を連れて行ったものかのう。

 特に鉄砲隊の数じゃな。

 全てを引き連れて行けば、わしが持っておる鉄砲の数がばれてしまうしのう」

「いえ。ここは全力を見せつけましょう。

 これは戦と同じですよ。

 戦力の逐次投入は失敗のもとです」

「そちは本当に子供なのか?

 逐次投入などと言う言葉が子供から出るものなのか?」

「子供です。

 胸も無いでしょ」


 無い胸を張って言った。


「左様か。

 確かに、どう見ても子供よのう。

 しかし、これも戦であるか」

「しかも、道三殿はきっと正徳寺に向かう信長様の様子を隠れて盗み見するはずです」

「なぜ、そのような事が分かる?」

「私の頭の中のカンペによると……」

「かんぺ?」

「あ、それは忘れてください。

 ともかく、信長様は多くの鉄砲で武装した軍勢を見せつけてやればよろしいかと。

 しかも信長様ご自身は正装ではなく、普段のお姿で」

「お濃の父上に会うのに、それはまずいであろう」

「いえ、正徳寺に着いてから、着替えればよろしいかと」

「なるほど。この小汚いいでたちで現れると思うておった蝮めは驚くであろうな」


 小汚いと自覚してたんかい!!

 そう言った信長様の目はいたずらっ子のような輝きを放っていた。

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