信勝謀反の動き
ことわざによると、「良薬は口に苦し」と言うものらしく、本当にためになる忠告は聞き入れづらいものだとか。それを避けてばかりいると、病や誤りは治らないばかりか、遠ざけられ続けた良薬は腐り、毒になって返ってくるとか。それは私が付け加えた説だけど。でも、それが真実である証拠に、今、良薬だったはずの柴田勝家は信勝にとって、命を縮める毒になろうとしていた。
「勝家。その話は真であろうな」
「はい」
「しかし、信勝付きのそちが何故、このわしにそのような話を持ってきたのじゃ?」
「私は信長様の力を見誤っておりました。
先日の稲生の戦いにて、私はその事に気づきました。
信勝様には何度も信長様に従うように申し上げたのですが、聞き入れられず、最近では私は話すらまともに聞いてもらえないばかりか、此度の謀反の企て。
もはや、信長様と信勝様、お二人で尾張を治めていただく事は夢と消え去りました。
もし、信勝様が信長様の不意を突き、信長様に害を成す事になれば、いずれ尾張は美濃の斎藤義龍や駿河の今川義元の軍門に下る事は火を見るより明らか。
あるまじき行為と知りつつ、全ては尾張のため、信長様に子細を報告に来させていただきました次第」
ちょうど、信長様、帰蝶様と話をしているところに柴田勝家がやって来たため、私と帰蝶様は清須城の広間に隣接する部屋で、信長様と柴田勝家の話を聞いている。
ついに信勝討伐の時が来たらしい。
麒麟が〇るでもやっていたけど、お約束の柴田勝家寝返りのシーンだ。
「勝家、わしに従う性根、殊勝なり。
話はあい分かった故、本日は戻るがよい」
「はっ!」
そう言うと、柴田殿は退出していった。
「お濃、ねね。
聞いての通りじゃ」
信長様がそう言いながら、私達が控えていた部屋にやって来た。
「今の話、どう思う?
勝家の話、信じるに足ると思うか?」
「信長様。確かに策略と言う可能性は捨てきれませぬが、今までの話から行きますと、柴田殿はそのような策略向きの方とは思えませぬ。
もし、信長様をはめようと信勝様がお考えなのでしたら、もっと気の利いた者をよこしたのではないでしょうか?」
「なるほど。
ねねはどう思う?」
「私も帰蝶様と同じ意見です」
そう。私はそもそもこの答えを知っている。そして、信勝様の結末も。
「ならば、止むなしと言ったところか。
となると、方法じゃな。
信勝相手に兵を無駄に失う訳にもいかぬ」
「謀殺」
「謀殺」
信長様と帰蝶様の声が揃った。
二人がにんまりと微笑み合った。
道三が義龍に殺された時、嫌な時代だと嘆いてみせた帰蝶様。その帰蝶様が、兄が弟を手にかけようと言うのに、微笑んでいる事に私は違和感があった。
この人の本心はどちらなんだろうかと。
「あかめ!」
帰蝶様があかめさんを呼んだ。
「町中に信長様が倒れて、明日をも知れぬ病になったと広めてまいれ」
「待て、お濃、あかめ。
しかし、それでは斎藤義龍や今川が好機と勘違いする可能性があるのではないか」
「信長様。
さればこそです。
これが信勝様を呼び寄せるための罠とは信勝様も思いますまい」
私が帰蝶様の考えに賛同を示した。これが私の知っている歴史どおりだから。
「ねねも賛同するのなら、それで行こう。
あかめ。信勝が早めにわしの見舞いに来るよう仕組んでくれ」
「承知しました」
あかめはそう言うと姿を消した。
「ねね。しばらくはここには来るな。
わしは病で床に臥すからな」
信長様はそう言って、部屋を出て行った。
「ねね。
そう言う事じゃ。
しばらくは出入りを控えてもらおう。
それと、分かっていると思うが、これは内密にな」
「はい」
「しかし、親子や兄弟で殺し合うとは本当に嫌な時代よのぅ」
やはり帰蝶様の本音は人が殺し合う世を忌み嫌っている。私はそう感じた。
「いつかは霊獣の麒麟が現れるようにしたいですね」
「大陸の古代神話に現れる麒麟の事か?」
「はい。
きっと、信長様がそんな世を築いてくれますよ」
「信長様にできるであろうか」
帰蝶様はまだ信長様の実力を信じ切れていない?
その言葉を私はそんな風に感じ取っていた。
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