伊達政宗と白装束
八郎に伊達政宗が白装束姿で秀吉の前に姿を現わす。
そう言い切ったものの、本当にそうなるのだろうか?
家康上洛の件と言い、歴史は私の頭の中のカンペの内容と少しずつずれてきている気もする。
あんな事を言わなくても、歴史通り小田原城は開城したかも知れないのに、伊達政宗が白装束で現れなかった場合、私の予言が外れた事になり、北条は開城ではなく、決着を付けるための戦に打って出て、大勢の人命が失われる事になるかも知れない。
そんな事を思うと、なんだか胃が痛む。
この解決のため、仁助の手の者を使い、私が描いたネット小説レベルのストーリーに沿って、伊達家の人たちに動いてもらう事にした。
「関白秀吉は小田原を攻め落とした後、奥州に兵を向け、関白の命に従わぬ当家を討ち滅ぼすと申しているようです」
政宗の母 義姫に呼び出された伊達家の重臣 片倉が言った。
「で、小田原の様子は?
北条殿に何か策はあるのですか?」
「北条方の支城は次々に落とされ、小田原城は海上を含め、完全に包囲されており、北条方に動く様子はなく、城に籠ったまま打つ手なしの様子」
「そもそも上方の軍勢は20万を超えると言うではありませんか。
北条殿も討って出るにも出れぬのでしょう。
昨夜、私は北条を滅ぼした上方の大軍勢にこの地が踏み荒らされる夢を見ました。
そうなれば、この地は地獄と化します。
それを救うには、関白の軍勢に加わるしかありません。
政宗を説き伏せてください」
「私もそれが上策と考えてはおりますが、殿にも思うところがあるようで、なかなか首を縦に振ってはくれませぬ」
「ならば、政宗には退いてもらい、弟の小次郎に家督を継いでもらうしかないでしょう。
それもならぬと申すなら、私には政宗と刺し違える覚悟があります。
二人の命を犠牲にすることで、多くの者の命が救われるのであれば、それが私の務め」
「分かりました。
前田利家殿より、小田原城が落ちる前に覚悟を見せて関白殿下に忠誠を誓うなら、話を取次ぐと書状をいただいておりまするゆえ、もう一度、殿を説得してみます」
「頼みましたよ」
「ははっ」
片倉はそう言うと部屋を出て、政宗の下に向かった。
「殿。
少し、よろしいでしょうか?」
そう言った片倉が自分の母に呼び出されていた事を知っていた政宗は、話の内容を想像し、嫌そうな表情を浮かべた。
「母上はわしの首に縄をつけてでも、小田原に引っ張って行けとお前に命じたのか?」
「いえ。
この地が上方の軍勢に踏み荒らされる夢を見られたとかで、そうなる前に小田原に参陣させよと」
「今しがた、北条の使いの忍びが来ておった」
「左様でしたか。
して、北条殿はなんと?」
「うむ。
小田原は上方の軍勢を足止めしておるゆえ、わしに上方勢の背後を衝くようにと要請してきおった」
「で、殿はなんとお答えに?」
「『上方勢は二十万を超える軍勢。数が多いと言う事は兵糧や士気など問題が山積しているに相違なく、戦意に緩みが出たところを突く所存。
北条殿におかれては、敵情を適時お伝えいただきたく』と申しておいた。
正直な所、今、どちらかに付くとならば、秀吉以外あるまいが、北条殿が持ちこたえ、時を稼げば上方の軍勢を蹴散らし、再び天下をこの手に引き寄せる機会はおとずれよう」
「ですが、殿。
もう時間がございませぬ。
東の方様は秀吉の下に参陣せぬのであれば、自ら殿と刺し違え、家督を小次郎様に継がせるとおおせです」
「なるほどのう。
元々、母上はわしを下ろして、小次郎に家督を継がせたいのであるからのう。
そのような理由であれば、わしを討ち、母上お気に入りの小次郎に家督を継がせても、家中の者たちも誰も文句は言わないであろうからな。
ならば、そうはさせぬためにも、小田原に参陣するしかあるまい。
が、秀吉がわしを許すかどうか?」
「殿。
先日、前田利家殿の使いが私の元に参り、小田原城が落ちる前に覚悟を見せて関白殿下に忠誠を誓うなら、話を取次ぐとの事。
前田殿を介して関白とお会いになれば、よろしいかと」
「しかし、覚悟を見せるとな?」
「はっ。
死を覚悟した白装束などがよいのではと申しておりましたゆえ、そこに関しましては、我が殿に対し無礼であろうと、きつく答えておきました」
「いや。それは一興である。
前田利家と言えば、秀吉と若き頃より親しき間がら。その前田殿が申すのであるから、秀吉に受けるに相違あるまい。
白装束か。そうか、そうか」
そう言うと、政宗は大笑いした。




