九州に呼び出された私
家康が曲がりなりにも秀吉に膝を屈した事で高まった秀吉の威光も、まだ九州には届いていなかった。
九州統一を目論む島津は秀吉の停戦命令にも従わず、戦火の拡大を続け、その強大な軍事力の前に龍造寺は敗れ去り、大友宗麟も滅亡の時を待つのみとなっていた。
その九州を平定するため、秀吉は九州に兵力を向けた。
手始めに送った毛利勢、四国勢により、一時期の勢いを失った島津との決着を付けるため、年が明けると秀長、そして秀吉自身も九州に出陣して行った。
そして、そんな秀吉の九州平定が終わるの大坂城で待っている私に、九州まで来てほしいと言って来たのは石田三成であった。
正直、私の頭の中のカンペにねねが九州に行ったなんてイベントは無い。それは知らないだけなのか、すでに歴史がずれているのか、私には分からない。
ただ、私は今、九州までやって来ていた。
「北政所様、此度ははるばるお越し下さり、ありがとうございます」
九州の八幡宮までやって来た私の前で平伏しているのは三成である。
「三成の言う事、この目で見てきました」
私が三成に呼ばれたのは、バテレンやキリシタン大名たちの手によって九州で行われている神社仏閣の破壊や庶民への改宗の強制、そして奴隷として民を売り払っている事に対して、手を打つためである。
「して、この事を殿下はご存じなのか?」
「はい。
ですが、官兵衛に言いくるめられ、何も手を打とうとしません。
それで、北政所様のお力をお借りいたしたく」
「なるほど。そう言う事ですか。
三成が私に力を貸して欲しいなんて、変な話だと思いました」
「何か私に対して誤解があるようですが、それはさておき、今は時間がありません。
実はキリシタン大名の大村純忠とバテレンのガスパール・コエリョが間もなくやって来て、殿下に謁見いたします。
その際、この件をお話しいただけませんでしょうか?」
「分かりました。
殿下の下に向かいましょう」
そして、私が向かった秀吉の下には、すでにコエリョたちが到着していた。
奥に座る秀吉、対面には異人の男と侍風の男。これがコエリョと大村なんだろう。
横に控えているのは官兵衛だ。
「ねね!
三成から、ねねを同席させたいとは聞いていたが、間に合ったか」
「はい」
そう言って、私は秀吉の隣に座り、三成が官兵衛の隣に座った。
官兵衛が少し不機嫌そうなのは、私が三成と共にバテレンを追求するのを予感しているからだろう。
「これは北政所様。
お初にお目にかかります。
私、大村純忠と申します。
そして、彼はバテレンのガスパール・コエリョです」
「女王様。
私はガスパール・コエリョと申します。
殿下に布教のさらなる支援をお願いしていたところです」
「お二方に申し上げます。
そのような事は、殿下だけでなく、北政所様のお許しも必要です」
三成が言った。
「三成。それは言い過ぎではないか?」
官兵衛が三成をたしなめた。
「官兵衛。出過ぎです」
官兵衛にそう言うと、視線を秀吉に向けた。
「殿下。この件は私にも関わらせていただくと言う事でよろしいですよね?」
「もちろんじゃ」
「官兵衛。と言う事です。
さて、大村殿、コエリョ殿。
聞きたいことがございます」
そう言って、視線を二人に移す。
「大村殿の領内では神社仏閣の廃却を行っておられるとか?」
「それはキリストの教えに真理を見出した民自らが、神仏は何の役にも立たないと破却しているのであって、我らが行っているわけではありません」
「北政所様。まさしく、そのとおりでございます。
民自らが目覚め、不要な物を打ち壊し、新しき世を造ろうとしているのであります」
官兵衛が口を挟んできた。
「官兵衛。
なら、改宗に応じぬ民を異国に奴隷として売り飛ばしている事はなんとする?
この国の多くの民は仏の教えを信じておるであろうが。
みなを奴隷として異国に売り飛ばすのをよしとするのか?」
「それは極論でございます。
南蛮との円滑な関係は我が国にとって、色々と利益となります」
「まことにそうか?
大筒や兵器を購入するための資金の担保として差し出した領地はすでに、異国同然となっておるではないか!
結局は国を盗られておることに気づかぬのか!」
「官兵衛。領地を盗られておると言うのはまことか?」
食いついて来たのは秀吉である。
ずっと秀吉を見てきた私は感じていた。秀吉は必要であれば大金を使うことにも躊躇しないが、土地というものには敏感なのだ。
「相違ございませぬ。
私はこの目で異国のものと化した地の悲惨な現状を見てきました。それは此度、北政所様にもご覧いただきました」
そう言ったのは三成である。
「大村!
神社仏閣の廃却を咎めるつもりは無かった。民を奴隷として売り飛ばし、領地を異国に渡すとは何事じゃ!」
秀吉の語気には激しい怒気が含まれている。
「全て取り消せ。
異国に領地を渡す事は許さぬ。
民を売買する事も、神社仏閣を廃却する事も許さぬ!
分かったな!」
「殿下。それでは我が国が許しませぬ」
そう言ったのはコエリョで、さらに言葉を続けた。
「我が手には東洋の艦隊がありまする。
左様な勝手を申されますと、われらも力を用いなければならなくなりまする」
「ついに本性を現しましたね。
あなた方はそうやって、世界各地を植民地にしてきているのでしょう?
最終的な目的が明国だと言うことも知っていますよ。
そのためにも、我が国を使いたいのでしょう?
ですが、この国はあなた方の思い通りにはならないですよ。
木で出来た船でいくら押し寄せて来ても、あなた方はこの国の兵には勝てない!
そんな事くらい分からないのですか?
ともかく、この国で勝手な事は許しません!」
「ねねの言うとおりじゃ!
その方ら、下がれ。
我が手の者に子細を調べさせ、場合によっては手を打つ!」
秀吉のその言葉に、官兵衛が顔をしかめていた。




