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家康 謁見

 その後も家康は自分のあずかり知らぬ事、あくまでも半蔵が勝手に行った事で、自分の命もその息子に狙わしたと言いとおした。もちろん、茶々との関係も否定し、秀吉はその言葉を信じると言いきり、茶々を処罰する事はもちろん、問いただす事さえしないと言った。


 そして次の日、その家康が大坂城の大広間の居並ぶ諸大名の前に姿を現わした。

 信長様の盟友であり、先の長久手の戦いで秀吉の軍勢に打撃を与え、秀吉に対抗してきていた家康がどんな態度をとるのか、諸大名たちが固唾を飲んで見守っていた。


「関白殿下。

 国内の乱れを沈めるのに手間取り、参るのが遅くなった事、お詫びいたします」


 そう言って、家康は平伏した。


「徳川殿。

 まことに遅かったではないか。

 この関白秀吉に従うのは嫌なのか?」

「滅相な事はございませぬ。

 この家康、殿下ため、身を粉にして働く所存。

 つきましては、身につけておられます陣羽織を私にいただけませんでしょうか?」

「なに?

 このわしの陣羽織をとな?

 これはわしが戦の陣中において、必ずや身につけるもの。

 そなたにくれてやるものではない」


 家康の要望を秀吉が拒否した。それで引き下がるのか?

 諸大名の興味はそこに移った。


「ならばなおさらいただきとうございまする」


 秀吉の拒否に引き下がろうとしない家康。その態度に諸大名たちは緊張気味だ。


「わしの命が聞けぬのか?」

「殿下のいかなる命にも従いまするが、こればかりは引き下がれませぬ。

 戦などと言うもので関白殿下の手に汚させる訳にはまいりませぬ。

 殿下に代わり、戦はこの家康にお任せいただきとうございまする」

「なるほど。

 そう言うことであれば、この陣羽織、家康殿に与えようではないか」


 そう言うと秀吉は立ち上がり、家康の前まで進むと、陣羽織を脱ぎ、家康に羽織らせた。


「ありがたき幸せ。

 以後、殿下の手足となり、殿下の天下のため、働く所存!」

「うむ。

 徳川殿、頼んだぞ」


 家康が諸大名たちの前で秀吉から陣羽織を授かり、秀吉への臣従の意思を明確にした瞬間だった。



 そして、その頃私は昨日の事件へのかかわりを問いただすため、茶々と向かい合っていた。


「北政所様。

 そのような事件があったとは驚きです。

 殿下と北政所様がご無事で何よりです。

 で、その話を私にされて、何が言いたいのでしょうか?」

「つまり、あなたが徳川殿と組んで、殿下を亡き者にしようとしたのではないのかって言っているんですよ」

「ほほほほほ。

 北政所様は創造力が豊かですね。いえ、これは妄想でしょうか?

 徳川殿はなんと申されているのですか?」

「徳川殿は殿下と自分の暗殺を逆臣が謀ったものだと言っております」

「でしたら、そう言うことなのではないですか?

 私もその半蔵とか言う忍びの策に利用されただけ。

 私を利用するとは不届きな者ですこと」

「では、一切関りの無い事だと?」

「もちろんです」


 分かっていた事だけど、茶々はしらを切りとおすつもりだ。状況証拠だけで、物証がないのだから仕方ない。


「分かりました。

 ですが、以後行動を慎んでください」


 そう言うのが精一杯だった。




 そんな私の戻りを待っていたのは官兵衛だ。


「ねね殿。茶々様はなんと?」

「知らぬ存ぜぬですよ。

 まあ、想像通りですけどね」

「さようですか。

 先が見えているねね殿にもこの度の事は分からなかったのでしょうか?」

「そうねぇ。

 大筋では違いないんだけど、暗殺を謀るのはちょっと違うかな」

「左様ですか。

 この後も茶々様や家康は殿下のお命を狙うと思われますか?」

「うーん。私が知っている限りではそれは無いんだけどねぇ」

「では、家康は殿下に完全に従うのですね?」

「表向きはね」


 そこまで言って、ちょっと考え込んだ。

 家康を封じ込めるには、所領を今のままにしておいた方がいいはずなんじゃないだろうか?


「官兵衛さん。先の話だけど、家康の所領を関東に移さないでね」

「関東?

 と言う事は北条の領地に家康を移すと言う事ですな」

「そう。それも荒れ地とは言え、広大な領土をね」

「家康に広大なですか。

 そう言えば、私にはどこかの国をいただけるのでしょうか?」

「九州……?」


 九州のどこ?? 私に記憶はない。


「九州をいただけるのですか?」


 官兵衛が嬉しそうに言った。


「ごめん。その中の一国? 10万石くらい?」

「10万石……。

 さようですか」


 官兵衛がちょっと寂しそうにつぶやくように言った。

 確かに、官兵衛の働きを考えると、少なすぎる。私もそう思う。


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