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信長様との出会い

更新は不定期ですし期間が空くかも知れませんけど、必ず完結させますので、よろしくお願いいたします。

 巷の噂によると信長様はもっぱら大うつけとの事だ。

 確かに耳に入る奇行を考えると、そう思ってしまうことも仕方ない事なんだけど……。




 私はどこにでもいる普通の女子高生。だったはず。一か月ほど前までは……。

 今の私は、理由は分からないけど、戦国時代にいて、その姿は童女になってしまっている。

 しかも、名をねねと言い、どうやら私はあのねねらしい。

 これは夢なのではないかと思い込もうともしたけど、確かに五感に伝わる生きている感覚がこれは現実だと私に訴えかけてくる。


 この一か月ほどの間、いつかは戻れるんじゃないかと期待し続けてはみたけど、今のところそんな気配もない。

 だったら、私はこの世界で天下を盗る。それしかないじゃない。

 しかも、黙っていても、秀吉と結婚すれば、悪くても天下を盗れる。でも、やっぱ信長様の天下を見てみたい。

 できれば信長様に取り入って、帰蝶様に取って代わる。まあ、それは無理かも知んないけど。

 そのまず第一歩として、信長様とお近づきになるため、信長様を探しに浜に来てみた。

 理由は簡単。麒麟がくるで信長様が浜辺で魚を売っていたのを見たから。


「うーん。誰もいないじゃんかぁぁぁぁ」


 誰もいない浜辺に佇み、そう叫んでしまった。

 もっとも、あのテレビでやっていた浜はどこの浜なのよ?

 それ、知らなかった。


「あんたどうしたの?

 迷子?」


 その声に振り返ると、十代半ばっぽい女の子が立っていた。


「お姉ちゃんが家を探して連れて行ってあげようか?」

「迷子な訳ないよ」


 そう。見た目は童女でも、私は女子高生なんだから、迷子なんてなる訳ない!


「そう。だったら、いいんだけどね。

 こんなところで、一人で何してるの?」

「の、の、信長様に会いたくて」


 この女の人に言っても仕方ない事と分かっていても、言わずにいられなかった。

 大うつけとみんなが馬鹿にしているけど、信長様ファンだっているって事を言いたかった。


「なんで、信長様に」

「だって、みんな大うつけって言うけど、信長様はみんなは知らないのよ。

 あの人の凄さを」

「そうね。確かにすごいよね」

「あなた、分かってくれるの?」

「みんな分かっているよ。

 だって、あんなに大うつけなんだもん」

「もういい」


 この人は信長様の凄さを理解してくれていたんだなんて、思った私がばかだった。


「あ、待ちなさいよ。

 信長様に会いたいんなら、連れてってあげるよ」

「えっ?

 どこにいるか知っているの?」

「おいで!」


 その女の人は、そう言って私に左手を差し出した。

 とりあえず、ここは童女らしく、その手を自分の小さな右手で掴むと、にこりと微笑んで見せた。

 その女の人は名をあかめと言い、西の方の里から駿府に向かう途中との事だった。


 そして、今は信長様は近くの川辺で取り巻きの悪ガキどもと戦ごっこの途中だそうだ。


「あかめさんは、どうして駿府に行かれるのですか?」

「いずれは今川様の天下。

 私はそう思っているのよね」

「あ、それ無いわぁ。

 上洛しようとすると、尾張を通らないといけない訳だから、信長様に討たれておしまい」

「いやいや、それこそ無いでしょ。

 あなたは子供だから、知らないでしょうけど、今川義元って言うのは、大大名なのよ。

 兵力が違い過ぎるし、信長様は大うつけだし」

「あのねぇ。

 大うつけって言うのは、凡人から見て外れてるって事でしょ。

 つまり、天才なのよ」

「あんた、ねねだっけ?

 面白い事言うわね。

 たしかに、天才とうつけは紙一重かもしんないわね。

 だけど、兵力の差は何ともし難いのよね」

「兵力が少なくても、勝てるわよ。

 作戦次第では」

「例えば?」

「例えば……」


 これから駿府に行こうと言う人に、今川の兵力を分散させ、義元の本陣を急襲し、義元の首をとるとは言えないし……。


「そうね。鉄砲よ、鉄砲」

「鉄砲?

 やっぱり、あなたは子供ね。

 確かにあれは凄い武器だけど、一度撃つと、次の弾を撃つまでに時間がかかるから、戦には使えないのよね」

「ふふん」


 ちょっと鼻で笑ってみせた。


「なに?

 何か言いたそうね」

「それは鉄砲一丁だけを見たからでしょ。

 何丁もそろえて、飛んでいる弾が途切れないくらい、順番に撃ったらどうなるかな」

「……。

 あんた、面白い事言うわね。

 信長様がただのうつけか、天才かは分からないけど、あんた子供にしては頭きれるね。

 いや、子供だからかな、この発想は」


 なんて、あかめって人はそう言い終えると、川辺を指さした。


「ほら、あそこ」


 浅い川の中で、槍に見立てたと思われる竹の竿を持って、戦い合う十人ほどの男たち。

 そして、その光景を土手に座り、干し柿らしきものをかじりながら見つめる一人の男。


「あの座っているのが信長様ですか?」

「そうよ」


 あかめさんは信長様と知り合いらしく、私にそう言ったかと思うと、信長様に声をかけた。


「信長様ぁ」


 そう言って手を振るあかめさんに、信長様も手を振って応えた。


「おう」


 そう言うと信長様は立ち上がり、私のところ、正確にはあかめさんの所に向かって来た。


「あかめ、どうした?」

「信長様、面白い子を見つけたんですけど、その子が信長様に会いたいと言うので、連れてきたんです」

「わしに会いたいじゃと」


 信長様は肖像画のとおり、細面で切れ長の目。でも、今の信長様は肌も少し汚れた感じの薄黒さ、髪はぼさぼさの茶筅まげ。これはこれで、いいじゃない!


「わ、わ、私、浅野の家のねねと申します。

 よ、よ、よろしくお願いいたします」


 緊張のあまり、噛んでしまった。


「わしが信長じゃ」


 それだけ言って、信長様は視線をあかめさんに向けた。


「で、なにが面白いのじゃ?

 いたって、顔つきは普通じゃが」

「信長様は凄い方だって。

 そして、今川義元が上洛しようとしても、信長様が今川様を討つって言ってます」

「わっはっはっは。

 左様か」

「しかも、鉄砲を何丁も揃えて、弾が途切れないように順番に撃っていけばいいと」

「ほぉ。確かに面白い娘じゃな」


 そう言い終えると、信長様が再び私に視線を向けたので、手を差し出した。


「よろしくお願いします」

「妙な奴じゃな」


 そう言いながら、差し出した私の手を握り返してくれた。

 私はあの信長様と握手したのだ!

 こんな名誉な事は無いのだぁぁぁ!

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