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reliance  作者: 月陽夢
少年の恋が終わった日
4/10

ジェンとレバンスの関係性

オルトレンとファスラムが立ち去り、残されたジェンとレバンスはようやくホッと安堵の息を吐く事が出来た。というのも、オルトレンは二人からしてみれば、鬼よりも怖い人物なので気を抜く事は勿論出来ない。そして、オルトレンから比べれば遥かに話しやすいが、騎士団長であるファスラムは一般兵である二人からすると、雲の上の存在であり、ある意味ではオルトレンを相手にするより、緊張するのだ。そんな二人を目の前にしていたのだ。ジェンもレバンスもキャパシティを完全にオーバーし、疲れ切っていた。しかも、祝宴パーティーの後には、処罰が待っているのだから尚更である。


レバンスはどんな罰を受けるのかと不安感から、大きな溜め息を吐いた。ジェンはそんな姿を申し訳なさげに見ている。



「……あのさ…………」


「あ? なんだ? 謝んのは無しな?」


「……っ」



謝ろうと口を開いたジェンではあったが、レバンスは先にそれを禁止してしまう。



「お前は俺に取っちゃ弟だ。迷惑だったらじゃんじゃん掛けろ。喜んで引き受けてやる」



胸を張ってそう言い切るレバンスに、ジェンはなんだかむず痒いような気持ちになった。


ジェンとレバンスは孤児である。二人とも同じ孤児院で育ったのだ。孤児院時代から面倒見の良かったレバンスは、年下の子供達から慕われており、ジェンも違わずよく懐いていた。だから、レバンスが12歳の時に、引き取り手が見つかった時は、他の子供達と一緒に大泣きしたものである。


レバンスを引き取りたいと申し出たのは、アルデアで薬屋を営むアヴィエナという女性であった。戦争で夫と子を亡くしたという彼女に、ジェン達はお兄ちゃんを連れて行かないでと泣きついた。そんな子供達に、アヴィエナはアルデアに来ればいつでも大好きなお兄ちゃんと会えると告げ、レバンスを引き取っていった。


その数ヶ月後に、ジェンも引き取り手が見つかった。フォルドナの兵士で、ジェンの父の知り合いだと名乗る中年の男であった。主に城内の警備をしているという男に、ジェンは一も二もなく飛びついた。アルデアに行けば、レバンスに会えると思ったからである。だが、ジェンの予想は大きく外れた。引き取り手である男が、ジェンを城の下働きとして住み込みで働かせ始めたのだ。その男がジェンの父親の知り合いであるという話は本当の事であったが、ジェンを引き取ったのは、あくまでも稼ぎ手が欲しいという理由からであり、ジェンの為等では無かった。しかし、まだ幼いジェンには、男の真意を見抜く程の力は無く、『沢山働けば大好きなお兄ちゃんに会える』という言葉を信じ、不満に思いながらも、男の言うがままに働き続ける事しか出来なかった。


そんなジェンにも転機が訪れる事となる。


それは男に引き取られて一年近く経った頃の事だった。


ジェンはある人物との出会いを切欠として、自らレバンスに会いに行く決意を固めたのだった。その時出会った人物こそ、当時兵士団の守備隊長を務めていたオルトレン・ルーガイア、後の己の上司になる人物であった。出会った時の詳しい経緯は省くが、とにかくその頃から、オルトレンははっきりとした物言いをする真っ直ぐな気性の男だった。己が成したい事は、他人任せにするのではなく、己で成そうとするべきである、話の流れでオルトレンが語ったその言に、ジェンは酷く感銘を受けた。義父がレバンスに会わせてくれないのならば、自分で会いに行けば良いのだと、考えたのだ。その後のジェンの行動は素早く、義父である男には何も告げずに、城を飛び出していた。しかし、やる気があったとしても、その頃のジェンはまだ幼く、城を飛び出したまでは良かったが、結局どこに行けば良いのか分からず、城下町を一時間以上もうろうろとさまよう羽目になった。足も疲れ、どこに行けば良いのかも分からなくなったジェンは最早泣きそうになっていた。そんな折、アヴィエナに見つけられたのである。


最初は城に連れ戻されるかと警戒していたジェンであったが、アヴィエナにどうしたのかと、優しく声を掛けられた事で、張り詰めた糸が切れたかの様に大声で泣き始めた。支離滅裂な事を色々と訴えながらも、伝える事が出来たのは、お兄ちゃんに会いたいという事だった。アヴィエナはそんなジェンの話を微笑みながら、ずっと聞いていてくれた。そして、会いたいなら会いに行きましょうと、立ち上がり手を差し出したくれた。ジェンはそんな彼女に母親の面影を見たのだった……。











――――――――――――――――――――――――――――――











レバンスと再会したジェンは、義父が嘘を吐いていた事を知り、義父の下へ戻る事を拒絶した。悲しみよりも、怒りを覚えた為である。アヴィエナはそんな少年の意を汲み、義父との縁を切らせてくれた。第三者である彼女が、ジェンとその義父の縁を切るのは容易ではなかった筈だ。成長したジェンはどうやったのかをよく聞いてみるのだが、17歳になった今でも教えて貰う事が出来ていない。


義父との縁を切る事が出来たジェンは、アヴィエナに引き取られる事になり、本来ならば直ぐに下働きを辞める筈だった。だが、一年近く働いている内に仲良くなった者達に、寂しくなると悲しい顔をされた為に、アヴィエナの家からの通いで、働き続ける事を決めたのである。これは実は何の見返りも無しにレバンスだけでなく、自分の事まで引き取ってくれたアヴィエナに対して、少しでもお金を稼いで恩を返したいという思いからの決断でもあったのだが、この時下働きを辞めなかった事が、ジェンの人生を大きく動かす出会いへと繋がっていく事になるのだった。


更にそこから二年程経ったある日の事…………仲良くなった兵士見習いの子達に勧められ、剣を振るう機会があった。見習いの子達とは違って、きちんとした型を習った訳では無い為、剣の扱いは無茶苦茶であったが、それを見ていた者がいた。その人物こそ、後にフォルドナの英雄と呼ばれるようになる男、ファスラム・グルーガ、その人だったのだ。剣の腕を見出されたジェンは、ファスラムからの推薦で、あれよあれよという言う間に、兵士見習いとして兵士団に入隊する事になった。本人も訳が分からない内の事だった。それを不安に思ったレバンスも、追い掛けるようにして、入隊を果たす。この時、ジェンは12歳、レバンスは15歳になっていた。


入隊時期が同時期という事もあり、二人は寄宿舎では同じ部屋に割り振られた。それにはジェンだけでなく、レバンスも諸手を振るって喜んだ。ジェンが彼を兄のように慕っているように、レバンスもまた、彼を弟のように思っているのである。それは少年から青年へと成長を遂げた現在(イマ)も変わってはいない。二人は実の兄弟も同然なのだ。


月日が経ち、ジェンはレバンスをお兄ちゃんとは呼ばなくなった。照れくさいが故である。だから、レバンスが堂々と自分を弟と言った事に対し、ジェンは気恥ずかしくて堪らなくなった。一方のレバンスはジェンのそんな微妙な気持ち等、全くお構いなしなのだが。



「あれ~? 微妙に顔赤くなってるぞ~」


「赤くないっ!!」



頬がうっすらと赤みを帯びている事を揶揄され、ジェンは顔を背け、歩き出した。クックッと笑いを溢し、レバンスも後を追いかける。空は徐々に陽が傾き、茜色になりかける頃であった。











――――――――――――――――――――――――――――――











ここでアルデアの城について説明をしよう。


菱形の形状で、周囲を水路に囲まれており、それぞれ東、西、南、北に塔が配置されている事は前に説明したので知っているであろう。


まずは南側、塔の一階部分が入口になっており、門扉の前に橋が掛けられている。この橋は南塔の二階にあるレバーで上げ下げ可能であり、基本的には下ろされている事が多いが、有事の際には上げられ、外敵の侵入を防ぐように出来ている。二人がオルトレンに捕まったのは、この橋の上での出来事だ。


二階が詰め所、三階が鍛錬場となっている。これは南側に街がある為、いざという時に直ぐ駆けつけられるようにする為である。


そして、四方にある塔の中で、南塔にのみ地下があり、そこには囚人達を収監する牢獄が存在する。因みにここの警備は兵士達の間では頗る不評だ。不衛生な上に囚人達の詰りが酷く、ノイローゼになった兵士もいるとかいないとか……


東塔は一、二階は兵士、騎士、下働き等、城で働く者達の寄宿舎で、騎士は二階、兵士と下働きは一階の部屋を割り当てられる。因みに部屋を与えられるのは、住み込みで働いている者だけである。三階は全部屋が客室で、客人は基本こちらで寝泊まりする事になっている。城に住み込みで働いている者の知り合いの場合は、その者の部屋に泊まるという場合も多々ある訳だが。


西塔一階には大食堂と会議場が存在する。大食堂は兵士や下働き等の城で働く者だけでなく、国王陛下や王女も利用している。最も、陛下や王女と食事を共にする事を許されている者は殆どいない訳なのだが。一般兵であるジェンやレバンスは当たり前の如く、兵士長であるオルトレンすら許された事はない。今のところ許されているのは、騎士団長であるファスラムと、一部の大臣だけであるようだ。


会議場は国政を話し合う際に集まる場所であるが、普段は使われる事がない。というのも、今の陛下になってからは、会議が長引く事がないので、わざわざ会議場まで移動する必要性がない為である。会議場まで移動する時間すら惜しいというのは、陛下の弁だ。


二階は大広間で、パーティーが催される場合は、必ずここで行われる。三階部分が丸々くり抜かれた高い天井には美しい女神の絵が描かれ、優に300人は収容出来るのではないかと思われるような広さである。シャンデリアや、絨毯は豪奢で、城の中でも一際贅を尽くした場所であるだろう。今回のパーティーも例に漏れず、この大広間で開催される。


因みに二人は外壁上部と中庭の警備を任されたので、参加は不可能である。というか、あんな騒ぎを起こしておいて、素知らぬ顔で参加等したら白い目で見られる事請け合いだろう。だからオルトレンは二人に、北東側の城壁上部と中庭という、余り人の寄り付かないような場所の警備を任せたのだ。


北塔は一階と二階が書庫、三階が宝物庫となっている。ここには鍵が掛けられており、普段は誰も立ち入る事を許されない。陛下の許しが得られた場合のみ、開かれるのだ。但し、一般兵や下働きに許可が下される事は決してない。宝物庫は言わずもがな、書庫にある本は城下の図書館にある物とは違い、禁書が多く、外に持ち出される事を危惧しての事だ。


そして、玉座のある中央塔。南塔を中庭側に抜けて、直ぐ目の前にある階段を上る事で中央塔の内部……謁見の間へと足を踏み入れる事が出来る。実はこの階段には大掛かりな仕掛けが施されており、中央塔内部からの操作でなくす事が可能である。それを知っているのは、極一部の人間のみであり、勿論ジェンやレバンスはそんな仕掛けがある等とは知る由もない。


二階が陛下、一階が王女の居室。恐らく今夜からはグレヴァルドも、王女と同じ部屋を使うのであろう。二人は夫婦となったのだから……。


そして東塔一階の一番端側……そこにジェンとレバンスの部屋はある。北向きの部屋なので日当たりは悪いが、五年近く住んでいるこの部屋を二人はなかなかに気に入っていた。男の二人部屋なので決して綺麗とは言い難いものの。



「あ~肩凝った~」



部屋に入るなり、鎧を脱ぎ捨て、レバンスは肩をこきこきと鳴らした。二人の着用しているものは一般兵用のものなので、余り重量のあるものではないが、それでも鎧は鎧。身につけていると身体が締めつけられるので、窮屈なのだ。しかも、今回は鎧のまま、全力疾走したので尚更である。



「風呂どうするよ?」



レバンスが未だモタモタと鎧を脱いでいる最中のジェンに問い掛ける。



「おれは後で良い。レバンスが最初に入って来いよ」


「良いのか?」


「ん~、色々と迷惑掛けたし? それのお詫びみたいな……」



ようやく鎧を脱いだジェンは、眉を下げつつレバンスに返答を返した。



「まだ気にしてんのかよ……ま、でも、そういうことならお言葉に甘えますか」



呆れたような素振りを見せながらも、身体の気持ち悪さが勝ったのか、レバンスはタンスから服を無造作に引っ張り出し、風呂場にさっさと向かってしまう。床に脱ぎ捨てた鎧はそのままで。因みにジェンもそれを気を利かせて片付けるような男ではない。


ジェンもまた、レバンスと同様に床に鎧を投げ捨てる。そして、そのまま二段ベッドの上にゴロンと横になった。こんな調子であるから、二人の部屋は汚いのである。


一応酷すぎる時は二人で片付けるので、最悪な状態にはなっていないが、綺麗好きな人が足を踏み入れたくないと思う程には散らかっている。最もジェンとレバンスはこれを汚いとは思っていない訳なのだが。


ジェンはベッドに仰向けに寝転び、天井に埋め込まれた電灯をボーッと見つめ、思考を巡らせる。静寂に包まれた部屋の中で思い出すのは、やはりアーシャの事であった。初めて会った時から、現在までのアーシャとの思い出が脳内を凄まじい勢いで駆け巡っていく。


幼い頃はこんなにも恋い焦がれる等とは、思いも寄らなかった。自分の事ばかりに必死だった少年が、国を背負うべき王女と恋に落ちる等と誰が想像しただろうか? 増して、その恋が悲恋に終わる等と……



「………………苦しいな…………」



身体を縮こまらせ、ジェンは一人ごちた。











――――――――――――――――――――――――――――――














「……ろ、な……きろ……起きろって!!」


「うわぁ!!」



耳元で叫ばれた大きな声と乱暴に揺さぶられる感覚で、ジェンは目を覚ました。勢い良く飛び起き、辺りを見回すと、呆れ顔のレバンスが腰に手を当てベッド脇に立っていた。



「ようやく起きたか……」



どうやらジェンはいつのまにやら眠っていたらしい。寝汗で身体がぐっしょりと濡れていた。そんなジェンとは違い、レバンスは既にガッチリと鎧を着込み、準備万端といった装いをしている。



「お前全然起きねぇんだもん。殴ってやろうかと思ったぜ」


「あ~、ごめん」



頭をポリポリと掻き、ジェンは素直に謝る。



「謝るのは良いから、風呂入って来いよ。パーティー始まるぞ?」


「え? 今何時?」



首を傾げるジェンにレバンスは次の瞬間、恐ろしい台詞を言い放った。



「5時30分」


「は?」



口をポカンと空け、ジェンは固まった。



「あ、違う。正確には5時31分だな」


「!!!!!!!!!!!!!!」



レバンスの違うと言う言葉に、一瞬安堵したジェンであったが、その後に続いた台詞に驚愕の表情を浮かべる。



「~~~~~~!! 風呂~~~~!!」



ドタドタと忙しなく風呂場に、走っていくジェンは忘れていた。



「…………あいつ、着替え用意してねぇじゃん」



そして、優しいレバンスは、ジェンが風呂に入っている間に、着替えを脱衣所に置いておいてあげるのだった。

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