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雨の夜
轟々と雨が降りしきる日の事だった。
真夜中と言える時間帯、一人の黒衣を纏った女がふらふらとした足取りで街中を歩いている。
その女の存在に最初に気付いたのは、帰宅途中、急に雨に降られた事で、民家の軒下で雨宿りをしていた騎士であった。
覚束ない足取りの女に、胡乱な眼差しを送っていた騎士であったが、その人が眼前で崩れ落ちるようにして倒れた事で表情を一変させる。
騎士はすぐさま駆け寄り、跪いて女を抱き寄せた。
それと同時に目を見開く。
色味のない顔に青紫色に変色した唇、脆弱な吐息は女が酷く弱っている事を指し示していた。
鎧に包まれた騎士には判断がつかないが、恐らく身体は氷のように冷え切っている事であろう。
騎士は自分の他に人がいないか、周囲を見回す。
しかし、既に時間帯は深夜、周囲に人気は無く、活動しているのは、騎士一人だけであった。
騎士は幾許か逡巡した後、迷いを振り切るように首を振ると女を抱え上げ、立ち上がった。
そして騎士は走り始めた。
唯、その女を救う為だけに騎士は医者の元へと走った……