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恋愛と空腹

作者: 月 陽介

部活でかつて、恋愛と空腹というテーマで書いた作品です。

ごめんね、重くて。

彼女はそう言って、帰っていった。恐らく、泣いていただろう。瞳の反射がえぐかった。街灯の光を全て吸収して反射しているみたいな。

そんなこと言っている場合じゃない。

彼女の背中は小さくなっていく、このままでいいのか、俺。明日から、彼女の友人達に最低の烙印を押され、冷たい視線がまた数個増えることになるぞ。

いや、そんなんじゃない。

単純に彼女が泣いていることだけが苦しかった。本当に。

俺は走った。そして、無視を覚悟で言った。俺こそ、ひどいこと言ってごめん。

「う、うん」

俺は何も言えなかった。


俺の部屋は広くて静かだった。防音なはずはないのに音は聞こえてこないし、もしかしたら世界には俺一人しかいないのかと思える。反対に、俺以外の人間の多くは集まって楽しく何かしているかもしれない、とも思う。

こういう時は、いっそう動く気がない。俺はベッドの上で石になった。

寂しい。

俺は、とりあえず仲の良い男子数人に「別れた」とLINEした。返事が早いこと早いこと、「まじか」とか「まー気にすんなって」というありきたりなメッセージが返ってくる。普通に嬉しいけど、

何か違う。

俺は連絡先の中から女子を探した。こんな時話を聞いてくれそうな子。1人だけいた。学部も学科も違う。たまたま知り合って、たまに話す。仲良いけど、近くはない。ちょうどいい距離感の子。きっとまだ、俺の悪いところも見えてない。だから、話を聞いてくれる。

ちょっと話聞いてくれない?

そう送った時から、動く気力が湧いてきて、飯も食ったし、風呂にも入れた。さっきはあんなに気力がなかったのに。返事が待ち遠しくて何回もスマホ見たけどね。

返事は約1時間後に来た。

大丈夫?なんかあった?

俺はその言葉に胸を掴まれた気がした。なんだろう。優しくされるってこんなに嬉しいのか。いや、女子だからなのか。分からない。でも、俺は嬉しい。

彼女と別れちゃって…

本当?それはしんどいなー

正直しんどい

話とか愚痴とか聞くよー

彼女の言葉には弾みがあった。心の闇を弾き飛ばすようなリズムがあった。彼女と別れてから数時間しか経っていないのに、俺は彼女に夢中だった。



あ、いた。

あいつ背がでかいから見つけやすいな。彼はまあ、大学では1番仲が良いであろう友人。今から講義だ。

チャイムが鳴り終わると、講師が話し始める。この講義は、別の学部のものだが、受けることができる講義で、俺はこの講義が1番好きだった。

今日までは。

「えぇ、今日のテーマは恋愛です。みなさん、恋愛してますでしょうか。はい、今してる人?」

先生は挙手を要求してきた。いや、上げられるかばかやろー。

テーマは恋愛です。あたりから教室はざわついている。男子よりも特に女子が。そんなに興味があるものだろうか。

「では、聞きます。恋と愛の違いってなんでしょうか。これは課題1です。書き込んでください。」

ざわつきはさらに大きくなった。胸騒ぎも大きくなった。この手の話は嫌な予感がした。何度も何度も恋愛に関する言葉を聞いてきたが、それは俺に対する説教ばかりだった。確かに俺は元カノの人数も多く恋愛をしていない時期の方が少ないような男だ。でも、人を好きになってなにが悪い。好きになってしまうものはしかたがないだろう?

「これ、知ってる!動画で見たことある!」

前の席の女子達が騒ぎ出した。そして、その子の答えを周りの女子が写し始めた。俺も単位のために覗き見した。

恋は自分のため、愛は相手のために。

そう書いてあった。俺は写しながら、自分が否定されている気がした。

また、頭の中でその言葉を受け入れる自分と、否定する自分の戦いが始まった。

お前は何のために彼女を好きになったんだ?自分のためか?相手の幸せのためか?

その言葉が正しい証拠なんてない。好きという気持ちはひとつだ。なにも恥じることはない。

ひどく座っているのが苦痛になって、体のゆすりも止まらなくなって、ただただムカついた。自分にも、先生にも、その言葉にも、その言葉を言った人にも、分かったような態度を取る前の席の女子も、隣に座る俺の気持ちがわかりそうもない背の高いイケメン男にも。

俺は用もないのにトイレに行った。少しスマホをいじって席に戻った。

終わりのチャイムまで一切話を聞かなかった。

「お前、どうしたんだよ、なんか顔が怖かったぞ」

「嫌なことがあってさ、ムカついてたわ」

「へー。そういや、お前、別れたって言ってたよな、やっぱりきついか?」

合っていないようで合っている。あれから俺は散々だ。まぁねと生返事した。

「今度の土曜、暇?」

その言葉で俺は分かった。さっきの授業の最終レポートを一緒にやろうって誘いだ。俺は暇だよ、とだけ言って次の授業に向かった。


もう決まった?

俺は料理を決めるのがひどく遅い。食べたいものがふたつ以上、出てきてしまう。

よし、決まった。

俺はメニューを閉じた。もう迷わないように。

彼女は可愛かった。バッチリ決まった化粧。まつ毛は関数で表せそうな美しい曲線を描き、俺の焦点はしばらくずれなかった。それにチークって言うのか?ほっぺがいい感じに赤い。主張しすぎるでもなく、でも、はっきりと見える赤は、この女の子を何倍も可愛くした。俺はにやけを抑えることに必死で…料理が決まらないのもそれのせいか。

俺は好きなのか。分からない。でも、考えれば考えるほど彼女は可愛く、美しく見える。どうしよう。彼女と楽しくデートすることが頭に浮かんで、はっきりと映像化して、俺の脳を映画館にして、チケットを売り出している。そのチケットを買うか買わないかは俺次第なんだけど、買ったら後戻りはできない。買ったら、映画を観終わるまで、出られない。ついさっき、映画を観終わったばかりなのに。また観るの?と声がする。

「どう?まだショック受けてる?」

ま、まあね。俺は気のない返事をした。それどころじゃないんだよね。ショックとかじゃないんだよね。

「そーだよねー、振られちゃったんだもんね。今日はたくさん食べな」

にこってするなー、それは反則。

そのあと、料理が来て、話しながら食べた。これおいしーとか、言ってはしゃいでた。こんな笑顔見たことないよ。俺は途中から元カノと彼女は違うタイプだと気づいた。

話していくうちに俺は元気を取り戻していった。いや、元々元気だったのか。もう何してるんだ俺は。

「ていうか、めっちゃ食べたね!お腹すいてたんだね!」

そうか、俺は空腹だったのか。


ここまででいいよ

家まで送ると言って、付いていったが、ここでお別れのようだ。

「あ、分かった。ありがとう、話聞いてくれて。」

「いや、いいって、全然。」

「そーいえばさ、彼氏とかいるの?」

「いや、いないよー。なんで?」

「あ、いやほら、こんなことしてたら誤解されるかもって思って」

俺は甘えた。彼女の優しさに。彼氏いる?なんて狙ってるとしか思えない質問だ。なんとか切り抜けたのか?

「なるほどね。誤解かー。」

彼女の表情は今までとは変わった。なんというか乾いた表情になった。

「寂しさ埋めたかったんでしょ?」

ズバって俺の心は斬られた。ズバって言いたくないことを言われた。

「え、いや、違うよ。なんか、しんどくてさ」

「そっか。じゃ、またね」

彼女には全て見抜かれている。もう、分かる。もう、話せない。もう、気まずい。

俺はもう一度、またしても、失恋をした。


11時から始めたレポートは無駄話もあって半分も終わらずに12時を過ぎた。

腹減ったーと嘆いた。

そうだな、何食べる?

彼は料理をよくすると言っていた。彼の部屋には調理道具がきれいに並べられている。その中に、ピンク色の皿があった。

「これ、お前の?」

「あ、それ、彼女の」

そう、彼には彼女がいる。もっとも付き合ったのは数日前のほやほや。入学当初から気になっていた人と3ヶ月ちょっと経ってようやく付き合った。俺は入学してすぐ出会って付き合って、3ヶ月ちょっとで別れた。対照的にも程がある。

それよりも空腹をなんとかしたい。俺は今すぐ何か食べたかった。

「もう、レトルトの何か食べよーよ」

「おいおい焦るなよ、時間はかかるが、ちゃんと料理した飯はまじでうまいぞ」

俺の心は大きな槍で貫かれた。



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