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3・2 縁と破天荒

「……と言う訳でお主をこちらの世界に転生させたんじゃよ」


 軽く小一時間聞かされた爺様の話を要約するとこうだ。

 ・魔族の中にこの世を混沌に陥れようとする輩がいる、そいつはべらぼうに強い。

 ・15年前にその魔族は休戦協定を破り人族の勇者と聖女に攻撃を仕掛けた。

 ・そいつを抑えるには膨大な魔力が必要なので魔力値上昇の素養がある者を召喚。

 ・それがオレ、だが召喚は不完全でオレ出現まで15年の歳月が掛かった。


 まぁ要はすげー話をぼかされてる、多分、嘘とまではいかないけど都合の良い言い方をしてそうだ、それにしてもオレの魔力成長率x666は自前なんかいっ、元の世界では何の役にも立たなかったであろう無駄チートを持ってたのか。


「で、オレはこれから魔王に食われて魔力を吸い取られて出番終了ってことですかね?」

 爺様は苦笑いで答えた。

「それで終わるならそうさせて貰うところなんじゃが、そうもいかんでな」

いや、そうされたくはないんですが、本人目の前に言うかね、さすが魔族。


「まず一つ、今のお主の魔力はこの世界の最弱の魔獣程度でしかない」


MP10だもんなぁそらそうだわ。

「次に、魔力は食う食わないで取り込めるようなものでもない」


「じゃぁどうやって魔王に魔力を……あ、この魔力譲渡契約って能力がそれってこと?」

「いや、それとはまたちょっと違ってなぁ、なんというかのぉ……」


 また見え見えのはぐらかしだ、嘘で騙そうって気はないようで好感は持てるが、隠されると気になるが問い詰めて答えるような相手でもないだろう。


「それとは別に縁の力というものがあっての、正確には縁を繋ぐ者(ネクタイル)の加護を受けた者だけが使える能力(スキル)により連結された者同士はその絆に依って力を共有できる」


「絆に依って?」

「そうじゃ、縁の力を持つ者、力を与える者、力を利用する者のそれぞれの繋がりの深さにより利用できる力が変動する」


「厄介な仕様だな……まぁ魔王ともその能力者とも仲良くすれば良いわけね」


「そういうことじゃ、難しく考えんことじゃ、お主には向いておろう」

「まぁ向いてるかどうかは分からないけど、ようやくこの世界に来た使命が分かったんだからやってみるよ」


 まさかほんとに魔族に召喚されたなんて考えてもみなかったけど、人族を皆殺しにしろとかそういう類じゃないだけマシかな。


 ちなみに魔力成長率と異世界ポケット以外の魔法や能力は転生と同時に魔王直々に付与されたらしい、通りで禍々しい能力ばかりなわけだ、異世界ポケットについては爺様は何も分からないとのこと、やっぱ覚えてないだけで女神的なのに会ってるんかな?


「で、まずは何をすれば良い?魔王と友達になる?それとも能力者と?」

「そうじゃな、まずは魔力量を増やしてもらわんことには話が進まんでな」


 レベル上げか!オレがロールプレイングゲームで一番好きな要素じゃん、最初の町でしこたまレベルを上げて、ボスを無双する快感のためだけにゲームをしてると言っても過言じゃない!


「よしっ、少しテンション上がって来た!じゃぁどこか弱い魔獣がわんさか居るとこへ連れてってくれますか?」

「やる気で何よりじゃが、あまり時間もないもんでな、ネーシャを連れて効率的に力をつけて来てくれるかの」

ほう、パーティー組んでオレは後ろから可愛い尻尾を愛でてるだけでガンガンレベルが上がるパターンですね!


 爺様は魔法でネーシャの眠りを解いて、改めて発情を抑える魔法を施す。

 いや、そこはそのままでも良かったんだけど、いや、マジで。


 爺様がネーシャに一言二言掛けるとネーシャは[この命に代えても]的な返事をしたあと、オレを小脇に抱えた。いや、だから、移動手段!なんかないのかよっ!


 爺様は笑みを浮かべながら、手をひらひらと振ってオレを抱え走り出すネーシャを見送った。



 ガラクタだらけの部屋、足の踏み場もない一角で、

 銀色の短い髪に細身の体の男が休日の父親がテレビを見るようなポーズで寝転がっている。

 その部屋に同じく銀髪ボブの齢10才くらいの少女がしかめっ面で入ってくる。

「ネイト様、片付けよーよ、このクッソ汚い部屋!」

「えーどこがー、キレイな方だよーこんなの、オレが生まれた頃のこの辺りなんてこの世の終わりを絵に描いたよう散々たる状態で……」

「ジジイの昔話はいいっすわ」

「えージジイって呼ぶほど年食った見た目じゃなくない?ニムルの見た目と比べられたら確かにお兄さん的ではあると思うけどー」

「用は?」

「ねー、俺って一応魔王の側近なんだけどー、ニムルは配下じゃん、手下じゃん、奴隷みたいなもんじゃん、言い方ってあるじゃん」

「だからネイト様って敬称付けてんだろ、既に耄碌(もうろく)してんなら今すぐこの部屋ごと無に還してその役職代わりましょうか?」

「ニムル野心家ー、でももうちょっとだけ美少女の上司楽しませてよー」

「なら用件をどうぞ」


「例の件、どっちも動き出したみたい、どっちに付くのがいいと思う?」

「ネイト様はどちらをお考えで?」


「どっちでもいいー」


 呆れたように全力で溜息を吐くニムル。

「はぁ~ぁ、パラム様のような老いても威厳があって聡明で優しい上司が良かった」

「それってー、パラム側に付くのが正解ってことー?」

「さっきのが嫌味に聞こえないようなら引退の時期ですよ」

「じゃぁ、運命側に付くってことー?」

「アホか、どう考えても我が王の転覆を狙う逆賊に付く理由なんて皆無やろ!」


「ねー、そゆこと大きい声で言っちゃダメでしょー、政権変わった時に冷遇されちゃうよ」

 ネイトが口に人差し指を当てながら言う。


「まぁいいや、ニムルがそう言うならパラムの手助けしようかな」

「それがよろしいかと、では他に用がなければ帰りまーす」

「あるある、用あるよー」

「昔話なら聞かねーよ?」

「違うしー、転生者が動き出すから当分陰から手助けしてあげて来てよ」

「パラム様の配下がついてるんじゃないですか?」

「付いてるっぽいんだけどさぁ、最近生まれたばかりの淫魔なんだよねー、不安じゃん?」

「え!?淫魔なんて戦いで大した役に立つわけでもないのに……でも、パラム様のことだから何かお考えがあるんでしょうけど……」

「えー、パラムへの信頼の方が厚いってちょっと嫉妬ー」

「我が身を省みてから言えや!まぁとりあえず様子見てきます」

「はーい、よろしくー」


 ニムルがタイトの元へ向かおうとしていると三人の男女が近寄ってくる。

「ねーニムル見て見てー、さっき散歩行った時に龍の爪拾っちゃった!」

「うわー凄いじゃんペリル!何龍様の爪かな、何か効果ついてそう?」

「分かんないけど、使うの勿体無い!部屋に飾って家宝にするんだ!」

「それも良いかもね、私も欲しいなぁ今度一緒に探しに行こう!」

「もちろん、行こう行こう!」


 ニムルが自分と同じくらいの背丈のペリルと呼ばれた少女と話をしてると、背が高く自分の容姿の良さを鼻にかけてそうな男が声をかける。


「おい、ニムル何処へ行くんだ?」

「うっせんだよ、どこでも良いだろ!」

「お、おま、ペリルと話す時と態度違い過ぎだろ……」

「たりめーだろ、美少女とただひょろ長いおっさんとじゃ格が違い過ぎんだろ」

「いや、これでも見た目はだいぶ整ってる方だとは思ってるんだが……」


「しょうがないぞ、ガルロ、ニムルはネイト様に対しても同じような態度だからな」

 年長者っぽい屈強な体格の戦士風の男がガルロを慰めつつ、再度ニムルの行き先を尋ねる。

「で、どこ行くんだニムル?」


「人族の偵察だよ、無能な上司の代わりに私がちゃんと仕事しないとな!」

 ドンと平らな胸を叩いてふんぞり返るニムル。

「偉いねーニムルー!」

 ペリルがニムルの頭を撫でながら褒め称える。


「妙な動きがあれば俺にも教えてくれよ、人族をボッコボコにする大義名分ならいつでも歓迎だ」

「破壊することが生き甲斐のレブロに先に教えたら、俺たちが到着する前に人族が全滅しちゃうから俺に先に教えてくれ」

「なんだと、ひょろ長いお前なんて人族にすぐ捕らえられて一生奴隷として扱われるぞ」

「あん、そこそこやれんだぞ俺だって、筋肉バカと違って知恵があんだよ!」


 レブロとガルロが不毛な言い争いをしてる横でペリルとの女子トークを終えたニムルが冷たく言い放ち立ち去る。

「……幼稚な喧嘩をしないだけネイト様のがちょっとだけお前らよりマシだな……」


 立ち去って行くニムルの背中を見ながら、ガルロが呟く。

「……いや、それ全然嫌味になってねーから……ネイト様どんだけ株下げてるんだ……」


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