11・2 王族の息子と勇者の息子
「明け方までこの世界の消えゆく生命のために祈りを捧げるってー、んで明日の夜に掛けて、この世界を終わらせるって言ってるー」
ニムルが可愛い声で恐ろしい事を言い出す。
「何それ、誰が言ってるの?」
オレが訪ねるとニムルは嫌いな物を食べた時の子供のような顔で答える。
「運命の聖女ー、だから側近は集合ーって言ってる」
「なに!?行くのか?」
ニムルが魔王の側近としてどのような立場なのかが分からない、魔王の命令には逆らえないのかもしれない。
ニムルがヴァンを見据えながら答える。
「行くー、けど、あたしの王はあいつじゃないからー、魔王の座から引きずり下ろしに行くだけー」
ニムルが自分の前に異空間の亀裂を生み出す。
「おい、一人で行くことはないだろう」
オレがニムルを引き留めようと発した言葉に、ニムルは少し考えてから告げる。
「赤鬼さん、この人借りて行っていい?」
オルタスにスネーテを連れていって良いのか尋ねる。
「いや、それは困る、シヴァテアの仇のあいつは蟲が復活するここに戻ってくるだろうし」
オルタスが答えるとスネーテが割り込む。
「母上、父の仇を消滅させることも大事ですが、まずは世界の消滅を救わないと……父が守ろうとしたこの国とこの世界を」
「……うーん、それもそうだね、いいよ連れて行きな!」
「じゃ借りてくー、もう一人、術使いがいなかったー?」
「ミューダなら一足先に宿で休ませてます」
「じゃ、その子も連れてこー」
「おいおい、なんか策があるならオレ達にも教えてから行ってくれよ」
一人で突っ走りそうなニムルに不安を覚える。
「策なんてないよー、お兄ちゃんの予定は最初から変わっていないから、あいつを倒しに行ってねー」
「え?ニムルも行くんだろ?」
「行くー、けど幾つかやらないといけないことがあるの」
「じゃ、役割の無いあたしとオルタスはここで蟲の番ってことかしら?」
オネエ様の言葉にニムルが頷く。
急に鋭い目つきでネーシャを見据えるニムル。
「おい、必要な時は躊躇なんてするんじゃねーぞ」
素のニムルでネーシャにそれだけ伝えるとスネーテと共に亀裂へと飛び込んだ。
躊躇なんてするなって何だろう、ネーシャにすげー力が眠ってるとかそんなんかな、不謹慎だがワクワクしてしまう。
「って、しまった、魔王を倒しに行くのはいいけど、どこに向かえばいいんだ!」
「確かにな、各国に現れたと言うが、本体はどこかに潜んでるのか、それとも全てが本体なのか」
オレとカインの会話に報告に来た兵士が割り込む。
「あの……ロステリアにも、この城のすぐ外にも魔王が居りまして……」
『居んの!?』
まぁそらそうだわな、各国に居るならこの大国のロステリアが含まれないわけ無いよなぁ、でも心の準備出来てないわぁ。
内心、ホログラム的な何かであれ!と強く念じながら、オネエ様とネーシャと三人で魔王が祈っているというその場所へと向かう。
そこにはカブロの大聖堂で遠くからチラリと見えたあの運命の聖女が神々しいばかりの光を放ちながら跪き祈りを捧げる姿があった。
やべぇ、事情知らずにこの光景を見たら、絶対カブロ教に入信してるわオレ、この人が悪者なんて微塵も疑わない。
『共に祈りましょう』
運命の聖女の口元は微動だにしていないが、どこからかその声が聞こえてくる。
頭がぐあんと揺れる。
精神操作の一種だろうか、よく見ると運命の聖女を遠巻きに囲むように沢山の住人が同じように祈りを捧げている。
跪こうとするネーシャ。
「おいおい、何やってんだ、やめろよ」
オレの声にネーシャはハッとなり立ち上がる。
「なんか、今、清々しい光に誘われて……」
「いや、お前メンタル弱すぎだろ、魔族が清々しい光に誘われんるなよ」
「その清らかな声に身を任せようとしたら、お前の汚い声で目が覚めた、なんだか最悪な気分だ」
「おうおう、救ってやったのに文句か」
なんてやり取りをしてる間に、しっかりと跪き頭を垂れて祈りを捧げてるオネエ様が視界に入ってくる。
もう馬鹿馬鹿、オネエ様の馬鹿!
大事な時に何を気持ち持ってかれちゃってんの!
「オネエ様! ゴラグリュース! ランちゃん!」
こちらの声は届かない様子。
「何でだよ、ネーシャは簡単に戻ってきたのに」
「私はお前に対して|主≪あるじ≫補正が働いてるからな、軽度の精神操作よりお前の命令が勝ったのだろう」
おぉ、そうだな、そんな設定あったな、その設定を大いに使ってのエチエチな展開は一体いつ来るんだ!
戦ってばっかりで、妄想を捗らせる暇もないぜ!
てか、オネエ様を正気にさせないとヤバいんだよなぁ、これから蟲も現れる予定だってのに。
あ、そうだ、運命の聖女を殴ってみようかな。
なんか隙だらけだし、いや、わざとかもしれないが、試してみる価値はあるんじゃね。
でも、オレにあんな神々しい人を殴れるかな、いや、神々しかろうがなんだろうがこの世界を滅ぼす魔王なわけで、いいんだよな!
「なぁネーシャ、あいつを殴っても大丈夫だと思う?」
「は? 分身体とはいえ、魔王を素手で殴ろうとは、タイトお前頭大丈夫か」
今まで散々魔族に武器は不要とか言って素手で通してきたこいつにそんな反応されたくない。
「だが殴るかどうかは別としても、見た感じあの分身体は魔力の塊だろうから強烈なドレインで吸い取ってしまえば消滅はするかもな、ただ、タイト、お前の存在を運命の聖女に知られる事になるぞ」
言われてみればそうだな、もしオレの存在が切り札になるのであればなるべくこちらの情報は知られたくない、けど、オネエ様の精神操作は本気で困る、だがこの分身体を消したからといって精神操作が解けるのかって疑問も残る。
「うぉぉぉぉっ!」
『|聖剣降臨≪リュミエルサンテ≫!』
ズバァァン!
「えっ!なんだっ?」
運命の聖女の分身体が頭上から降ってきた聖なる光の剣で分断され消滅する。
「つまらん、手応えがなさ過ぎる」
五右衛門かお前は。
こいつ多分、城の上の方から飛んできたぞ、どんな体の構造してるんだ。
カインの手から聖なる光が消えると、住人達も次々と正気を取り戻していく、オネエ様も。
「あら、やだ、あたし、何されたの??」
何故か胸と股間を隠す仕草で言う。
いや誰も、オネエ様にそっちの手出しはしないから。
「精神操作、分身体をカインがズバァ、みんなニコニコ」
三行でオネエ様に説明する。
「容赦ないわねぇカイン、あんなに神々しかったのに」
「聖女を名乗らせておくと母に申し訳ないので」
いや、もうちょっと理性的に動こうよ、みんな!
『何故だ、これから起こる絶望に、死にゆく者を巻き込む必要があるのか』
どこからともなく声が響いてくる。
『終わる者の復活に必要な絶望はもう満ちた、あとは恐れることなく静かにその生命を終わらせてやれるのに、何故、また彼らを絶望が生まれるこの場所に留まらせるのか』
「前提が間違っている! お前のどのような行いも我々は恐れはしない!」
我々はってか、お前はな、カイン。
『今は亡き勇者の息子か……親に似て愚かな考えだ』
「亡き……だと……お前が殺したのか」
鬼の形相で拳を握るカイン。
『つい、先ほどな』
ギリッ。
怒りに正気を奪われないように噛みしめた唇から血が滴る。
『私の目的は不必要な存在を全て消すこと、苦しめることなど望んではいない、私の情けとも言える思考の停止を邪魔するのであれば、お前が死にゆく生命にその身が消えゆくその時までの希望を与えればいい』
「情けだと、死ぬ時は死を恐れる事を乗り越えてこそ穏やかに死ねる、これが人の道理というものだ!」
いや、だからお前はそうなんだろうが、みんながそうだとは限らないぞカイン、オレならどちらにせよ死ぬのであれば気付かぬ内に死にたいに一票入れるぞ。
『来るが良い、勇者の御旗の下、希望を背負い私を消滅させるために、それが哀れな生命が死する時までの安らぎとなるであれば、その儀式に付き合ってやろう』
「御託は沢山だ、姿を現せ!」
『魔大陸、魔王城、その玉座で相見えよう』
カインと魔王の会話が終わった。
オレの出番はなかった。
大事なことなのでもう一度言おう。
オレの出番はなかった。




