8・2 消滅と交代
上空に浮かぶ魔王がお手頃サイズな魔力破弾を連発し始めると、それを片っ端から同じく魔力破弾で相殺するニムルとネイト。
「まだまだだねー、俺は64発相殺したのに、たった60発しか相殺出来てないじゃーん」
「あん? たった4発の差で偉そうにしてんじゃねーぞ、外道上司がっ」
ニムルが一度に三十発ほどの魔力破弾を生み出し、放り投げる。
ドドドドドっ! ドドドドドっ!
その全てが魔王の放った黒い球体とぶつかり消滅する。
「これであたしのが上ー!」
「やるねー、じゃ、立場の違いというのを見せてあげるー!」
ネイトの周りに百発近い魔力破弾が生み出される。
そしてネイトが吠える!
「この世の形在るもの全て土に還してくれるわっ!」
パコっ。
後頭部をニムルにグーで殴られるネイト。
「お前が終わらせてどーする!」
「調子乗ってみただけじゃーん」
ニムルはネイトが作り出した魔力破弾を指で弾き魔王のそれを相殺してゆく。
「ええー、それは俺が作ったやつなのにー!」
「黙れちゃんと仕事しろ最後くらい!」
口をあんぐりと開けてその様子を見ていたオレ。
「すげー、ニムルも銀髪兄ちゃんも魔王レベルかよ」
「感心しとる暇はないぞ」
パラムの爺様がこの後の手順を説明し始める。
まずはニムルとネイトが事前に用意した行動不能の結界へと魔王を誘導する。
魔王が行動不能になったところで転生の方術を行うため、エリンがパラム、オレ、ネイト、ニムルを魂魄連結する。
魔王が行動不能の結界から出る事がないようにオネエ様、オルタス、カインが食い止める役割となるが、食い止めることが不可能な場合は魂魄連結にカインを呼び込み、聖属性の剣で魔王が消滅しないギリギリまで体力を削る。
「それから改めて転生の術を行う」
「え、カイン、魔王に勝てちゃうの?」
「何を言っておる、勇者の息子じゃぞ? 遥か昔は魔王を倒すためだけに存在していたと言っても過言ではない存在じゃて、魔王に対する専用の能力も受け継いでおる」
「え、じゃぁ、その能力で魔王になったイクスも……」
「当てることが可能であればな、だが危険な賭けじゃて、お主も確率変動のおかさしは見ておろう」
ま、確かにそらそうだ。
まぁどうしても全てがうまくいかなかった時はカインのその能力に頼ろう。
『拘束!』
ニムルとネイトのハモる声が聞こえて目を向けると、ネーシャのそれとは比べ物にならない程大きく太い拘束の黒い輪が魔王を締め付けていた。
だが、魔王が力を込めるとその拘束の輪は今にもはち切れそうな音を立てた。
「ダッシャーーーーーっ!」
なんて言ってるかよくわからない掛け声と共に、さっき見た映像に出てきていた巨体のおっさんが魔王にタックルをかます。
魔王はそのまま行動不能の結界が張られた地面へと叩きつけられた。
考えたらフラグが立ちそうで考えたくないが、これ、いけんじゃね?
結界内に眩い光の筋が幾つも湧き上がり、魔王を拘束するように絡み合ってゆく。
さっきのラバンドと合わせて魔王は完全に行動を抑制された状態になった。
『魂魄連結!』
ベストと思えるタイミングでエリンがオレ達の魂を繋ぐ。
よし、オレの出番だな!
内心オレの役割が充電池的なのは気になるが、だがそれで世界が救えるのであれば構わん、MMOでは常に盾役だったしな、大した違いはない!
「エクス……プ……」
え、待って待って。
なんかおかしい。
確かにふざける場面でもないけどみんな顔が神妙過ぎない?
パラムの後方に控えてるネーシャはいつの間にか目を覚ましていて、最敬礼するかのように跪いて深々と頭下げちゃてるし、さっきまでなんだかんだ言い合いしてた二人なのにニムルはネイトの服の裾をつまんで泣きそうな顔してるし、急に現れた巨体はオルタスを覆うように熱烈に抱擁してるし。
魔王の消滅を悲しんでる?
いや、なんか違う気がする、何かオレ聞き漏らしてる?
「お主の番じゃぞ!」
パラムの爺様がオレに檄を飛ばす。
いや、分かってんだけど。
「爺様、一つ聞くけど、魔王が消滅すると、魔王の側近ってどうなるの?」
「……なんじゃ、気付いたか」
あ、やっぱり。
「次の魔王に選ばれた者以外は消滅する、それだけじゃ」
それだけじゃって言われても、クッソ強い味方が三人も消えるわけですよね?
魔王が転生してからが大変だというのに?
それ以上に、パラムの爺様を祖父と重ねてたオレ、泣いちゃうよ?
ー 愚かな! ー
その禍々しい声に頭を抱えると同時に破裂音がこだまする。
バァァァンっ!
結界の中で、魔王が拘束を破っていた。
行動不能の結界が放つ光も弱々しく今にも消えそうに揺らめき始める。
あ、これ、オレ、完全にやっちゃったパターン?
巨体のおっさん、オルタス、オネエ様が魔王に向かって駆け寄る。
巨体のおっさんが魔王を羽交い締めに、二人は巨大な斧と光の剣を魔王に振り下ろす。
ヴォンっ!
魔王が何をしたわけでもない、気なのかオーラなのかはわからないが魔王を中心に衝撃波が起こり三人は遠くまで吹き飛ばされた。
『魂魄連結』
エリンが連結の輪にカインを呼び込んだ。
「タイトさん、しっかりしてください!」
「この流れ込んでくるタイトさんの感情の意味はわかります、けど、他のみんなの気持ちは初めて会った日に私を守ってくれたタイトさんと同じです!」
「誰も犠牲だなんて思ってません、ただ大切な人を守りたい、それだけです!」
あぁ、そうだな、なんで躊躇しちゃったんだろう。
考えてみればわかる自分が逆の立場であれば、なんとかして生き長らえようなんて考えない。
魔族も人も関係ない、ただ自分の背後にたくさんの命があるなら身を呈してでも守りたいに決まってる。
よしっ。
『魔力暴発!』
オレの体の中で魔力がエンジンのように圧縮されては弾け続ける。
いつもより多めに暴発してやる!
「カイン!出番作ってごめん!」
流れ込む魔力に恍惚とした表情を浮かべているカインに声を掛ける。
「構わんさ、うちの両親はこの魔王が大好きでな、ヴァンちゃんヴァンちゃんと。子供の頃は存分に嫉妬させてもらった。この際だ、ちょっとくらい幼い頃の私の恨みを受けてもらうだけさ!」
うん、よく分かんないけど、オレに気を使ってくれてるのはわかる。
いや、本音かな、まぁどっちでもいい。
ただ、なんだろ、優しいなどいつもこいつも。
「エリン、ありがとう」
「はい!」
「魔王よ!八割程度には加減してやるから、死ぬなよ!」
カインはそう叫ぶと片腕を高く掲げた。
『聖剣降臨!』
カインの腕からまっすぐに伸びる光、オネエ様が使う光の剣と違うのは、その圧倒的な大きさと、見る者全てが心洗われるような高潔な光。
その巨大な聖なる光の剣が、魔王へと振り下ろされる。
ズッシャァァァァァ!
ー ウグガァァァグァァアアっ! ー
その見た目からは想像つかない醜い魔獣のような咆哮を上げる魔王。
割れちゃう割れちゃう、頭が、マジでっ!
だが、次の瞬間に頭の中へ響いてきた声は映像の中の高慢だがどこか人懐っこい魔王の声だった。
ー 面倒を掛けたな パラム、ネイト、ガルド 大儀であった! ー
そしてまた、咆哮がこだまする、が、先ほどより弱々しく。
ー ゥグガァァァグァァアア…… ー
「王よ、次の旅路でも、その御身に幸多からんことを……」
『名も無き輪廻を司る異世界の神よ!』
『我が王に新たな生命と祝福を与えよ』
ー 転生の候補者の転生の準備が整いました ー
ー 事前の取り決めより変更はありますか ー
「無い、遂行されよ」
ー 転生の候補者の生命を断ち、転生を行います ー
……その瞬間、凍り付いたかのようにこの世界の全てが停止した……
・ ・ ・
地上では誰も聞く者の無い天の声が創造神と神を継ぐ者達の為だけに流れ始める。
ー 魔王ヴァンダルクが真聖神龍に推挙された後、その生命を絶たれました ー
ー 魔王ヴァンダルクは真聖神龍に転生する資格を満たしています ー
ー 真聖神龍への転生に対する審査が行われました ー
ー 真聖神龍への転生が神を継ぐ者達に賛成3、反対1で可決されました ー
ー 転生を開始します ー
ー 真聖神龍の成体として転生するために必要な魔力量が足りません ー
ー ヴァンダルクは真聖神龍の幼体として転生されました ー
ー 魔王の座が空席となりましたので新たな魔王が選出されます ー
ー 神を継ぐ者達の投票が終わりました ー
ー イクス2票、ネルト1票、パラム1票 ー
ー 新たな魔王はイクスに決定しました ー
ー 新たな魔王が君臨する為には神を継ぐ者達へ魔力を捧げる必要があります ー
ー 現在の魔力量を加味した上で魔宮殿での眠りは三十年を要します ー
ー 魔王候補のうちイクスを除くゴルド、ネルト、パラムはその役割を終えます ー
ー 魔王候補の魔力を消滅まで減衰させます ー
ー 新たな魔王の側近となる魔族の選出を始めます ー
ー ……が選出されました、……が選出されました ー
ー ……が選出されました、……が選出されました ー
ー 魔王消滅に依る主要役職の再割り当てが全て完了しました ー
それらがどれくらいの時間を要したかを知るのは、天の声を聴けた者のみ。
地上の者達には時間は連続的にそして規則的に流れ続けていた。




