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1・2 期待と緑鱗トカゲオネエ

 起きた場所から二時間ほど歩いたらお目当の森があった。

 疲れは全くと言っていいほど無い、体力は元の世界よりありそうだ。

森の入り口付近をうろうろしながら、[鑑定]とか[索敵]呟いてみるが、

全くそんなスキルは持っていないようだ。


「毒見分けられるとか、毒物耐性とかないとなんでもかんでも口に入れるわけにもいかないじゃん……」


 手元には先ほど見つけた真っ赤な果実がある。

 何度も口に運ぼうと試みるが怖過ぎて躊躇するの繰り返し。

 しかし、もう喉も渇いたし腹も減った、どちらにせよ衰弱必死!


「お父さん、お母さん今まで育ててくれてありがとう……」


 意を決して真っ赤な果実を口に運ぼうとしたその瞬間。

 背後から声が飛んできた。


「その実は食べちゃダメよ!」


 その声が聞こえた方向へと振り向くまでのコンマ数秒のうちに頭がフル回転する、

はい、また来ましたよ、セオリー通り可愛い子と森の中でお知り合いになって低級の魔獣を倒しレベルを上げつつ一緒に街まで行く約束をして、

いざ街まで行ってみると実はその女の子はお姫様か何かでオレがそのお姫様をアレコレと励ました結果一緒に旅をするフラグ!!

 願わくば獣人猫耳!

 そしてこの18年間の人生で一番の爽やかな笑顔を作りながら振り返った。


「その実は人族なら数秒で死ぬほどの猛毒よ!」


……あれ、緑、鱗、巨体

 思考が追い付かずしばしフリーズする。

 引き攣る爽やかな笑顔のまま、その巨体の後ろから小さな女の子が顔を出すのを期待したまま数秒。


「聞こえてる?ねぇ?捨てちゃいなさいそれ」


 確定ですね、巨体緑鱗トカゲが喋ってますねこれ。

 顔を真顔に戻す、手に持っていた果実を捨てる、巨体緑鱗トカゲに一礼をして、立ち去ろうと前を向き直した。


「あなた冒険者?」


 いや、もう立ち去る感じ出しましたよね。

 だが、命の恩人を無視して立ち去るほど人間腐ってない!はず!


「いえ、村人Aです」

「ムラビトエー?何それワクワクしちゃうんだけどぉ♪」


 巨体緑鱗トカゲが両手を顎付近でYの字にしてクネクネする。

 こっちがゾワゾワするんですけどー。

 何だよ何だよ何だよ!異世界最初の出会いが巨体緑鱗トカゲオネエって何だよ!

 もしステータスに運の良さって項目があったとしたらマイナス付いてんじゃねーか!

 あ、待てよ、見た目がトカゲっぽいから分からないけど実は女の子だったりするのか?

 いや、だったとしてもストライクゾーンどころかキャッチーに向けて球投げたつもりなのに消える魔球発動しちゃって行方不明、三年後に実家のお仏壇に供えられてるの見つけたくらいに守備範囲外だわ。


「すいません、急いでるので」


 全然急いでない、何の予定もない。

 何なら人生の目標も見出せてない。


「あらそうなのぉ?残念、さっきブヒノス狩れたから一緒に食べないって誘いたかったのにぃー」


 確かに背中に大きめな豚か猪みたいな魔獣を担いでる。ふむ。


「レディのお誘いとあらば、例え勇者として急ぎで魔王討伐に行く予定が入ってたとしても断れるわけないですね」

「あら勇者なの?」

「いえ、村人Aです」

「ウケるんですけどぉ」


 トカゲの鋭く太い爪がオレの胸のあたりをトンっと突つく。

 ……はっ、あぶねー、今無意識で死の宣告って呟きそうだった。

 やめろおっさんが想像する女子高生みたいな喋り方やめろ!

 何だ言語はどうなってんだこの異世界、勝手にオレの頭が翻訳してんのか、だとしたら無能なオレの頭爆発しろ。


 その後、女子高生に憧れる巨体緑鱗トカゲオネエ様がブヒノスとやらを自らの爪一つで器用に解体するショーを数分見た後、オレが集めて来た薪にさも当たり前のように口から出した炎で着火、パチパチと肉の脂が弾ける音を聴きながら空腹とオネエ様からの熱い視線と戦っていた。


「あなた人族よね?名前は?」

「タイトです」

「あたしはゴラグリュース、よろしくね。あ、でもみんなはランちゃんって呼んでくれるわ、タイトもそう呼んでいいからね」

「はい、ゴラグリュースさん」

「……ランちゃんって呼んでいいわよ」


 うわ、目めっちゃ怖い、猫みたいにめっちゃ瞳孔細くなりましたけど。

 機嫌損ねたか。


「……ラ、ランちゃんは、彼氏とかいるのかな?」


 うわ、興味ない、何で聞いたオレ、死亡フラグだろ完全な!

 恐怖で思考回路が停止してたとしてももっとマシな質問あっただろ!


「もう、ヤダァ、タイト積極的ぃ~、居ないって答えちゃおうかなぁ~」

「すみません、無粋な質問でしたね」


 とりあえず笑って誤魔化す。


「あ、そろそろ焼けたみたい、はいどうぞ」

「ありがとうございます!」


 激しい空腹の焦りを極力抑えつつマンガ肉みたいなそいつに食らいつく。

 あ、うまい、身が適度に締まっているけど硬くはなく脂身も甘くてとろける。

 ほんとは異世界の食事一発目なので恍惚顔でもっと大げさにリアクション取りたいところだが、今はそれどころじゃない、この後さりげなくこの場から離脱するという大事なミッションが残っている。

 しかし食事中に有意義な情報をいくつかオネエ様から聞くことができた。


 まずこの近くにはトリニアという小規模な町があること、自分の見た目がこっちの世界でも違和感なく通用すること、先ほどの赤い果実は食用ではなく毒薬生成用に町で買い取ってもらえること、但し買い取ってもらうには冒険者ギルドへの登録が必要なこと、ただトリニアには冒険者ギルドが無いらしい。


「一番近くの冒険者ギルドはどこになりますか?」

「うーん、そうねここからなら数時間歩いたあたりにロステリアという城下町があってそこなら登録できるわよ」

「そうですか、ではロステリアに向かいたいと思います、今日は色々とありがとうございました」


 すっと立ち上がりナチュラルにこの場を離れようと試みる。


「今からだとちょっとロステリアまでは無理かな?」

「あ、魔獣とか出たりしますか?」

「そうね特に夜になると凶暴な魔獣も増えるから、今日はトリニアに行って明日朝早く出発するのがいいわね」

「そうですかー、うーん」


 しょうがない、今日はトリニアで野宿して明日城下町に向かおう。


「タイトの様子だと宿代もなかったりするかしら」

「恥ずかしながら、いやでも、大丈夫です、町の片隅の魔獣が来なさそうなところで野宿します」

「でも夜は冷えるし、あ、そうだ!うちに泊まってい……」

「大丈夫です」


 しまった、無意識にだいぶ食い気味に断ってしまった。

 うわ、ほら、また、瞳孔細くなってる……、

だが貞操の危機、どんなに恐ろしくてもここは譲れない。


「……泊まっていけば良いじゃない?」

「本当に嬉しいんですがこれ以上ランちゃんに迷惑掛けるのも悪くて」

「大丈夫よ、迷惑なんてこれぽっちも思ってないわよ、困った時はお互い様♪」

「でも……」

「そうね、今ちょうど知り合いのエリンって獣人の子がお使いで来てて今日はあたしの家に泊まってちょうど明日ロステリアに帰る予定なの、だから明日一緒にロステリアまで送ってもらえるわよ」


 お待たせしましたオレ、来ましたね、オレの運命のお相手はエリンちゃんだったんですね、よかったよほんとよかった、いやランちゃんも親切で素敵なオネエ様ですが、獣耳願わくば猫耳の前では筋骨隆々な緑の鱗も霞んでしまう。


「お邪魔させてもらいます!」

「あらそう、よかったわ、なんか一瞬嫌な感じであたしを見た気がしたけど気にしないわ、じゃぁ暗くならないうちに帰りましょ」


 またスーっとオネエ様の瞳孔が細くなったのは全力で気付かないフリをした。

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