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6・2 妹と馬

「……今井さん、見えてる見えてる!」

「何が?じゃなくてちょっと前屈みすぎて谷間どころの話じゃなくなってるから!」


「いや、佐々木さん対抗しなくて良いから、上より下とかそんなことを言ってるんじゃないって!」


「いや、須山先生違うんです!僕がお願いした訳じゃなくて二人が勝手に!」

「なら、私も勝手だから良いよねって?いや、そりゃ断る理由はありませんが」


「須山先生細いのに意外と……受け持ちが体育だけあって結構筋肉質なんですね、腹筋なんて硬くて、ボコボコしてて、なんか鱗みたいな……」


「タイト起きて……」


 艶っぽい声で目を覚ますと……目の前には緑鱗トカゲオネエ様。


 その緑の鱗を両手で撫で撫でしてるオレ。

 いや、少し恥じらってんじゃねーよ。


「……続きはまた今度ね♪」


 いや、昨日ネーシャから似たようなセリフ聞いたけど、あれだな、破壊力が一桁も二桁も違うな、いや、無いから、続きどころか始まってんじゃねーよ勝手に!


 目の保養が必要だとネーシャを探すが隣には居ない。


「ネーシャはもう起きてるんですか?」

「タイトが一番最後よ、お寝坊さん♪」


 今、天の声で[精神攻撃に対する耐性レベルが上昇しました]って言われても信じるな。


 オルタスの家の広間に出ると、オルタス、オネエ様、ネーシャ、と、見たことのない銀髪の少女が一人。


「こちらは?」

「私の妹だ」


 なぜか0秒で嘘だとわかる嘘を吐くネーシャ。

 魔族に家族は居ねーだろ!


「そ、そうか、よろしく、お名前は?」

 この嘘を掘り下げたところでオレの得になるものは何も発掘できないのは明白。


「ニムルって言うの!よろしくねお兄ちゃん!」

 残念だ、オレが妹大好き属性を持っていれば鼻血の一つでも出してやるところなんだが、申し訳ない、うさ耳と悪魔の尻尾大好き属性でお兄ちゃんは手一杯なのだよ。


「よろしくね、ニムルちゃん」


「では挨拶も済んだところで、状況を説明するぞ」

 オルタスが話し始める。


「いや、待って待って、ニムルちゃんは必要なの?」

「何を言ってる、私の妹だぞ」


 嗚呼、お前こそ何を言ってる。


「どういうことだよ」

「ニムルは私のような腕力はないが魔法が得意で戦闘では役に立つぞ!」


「いや、そんな小さい子を連れて戦闘なんて無理だろ、幾つだよ妹さん」


「に……」

 言いかけたところでニムルがネーシャの太ももを結構強めにつねって止める。


「十歳になったのー」

 うん、明らかに二十歳?、二百歳?、いや、二千歳でも驚かねーよ。


「オルタスさん、オネエ様も十歳の子供連れて行くんですか?」


 顔を見合わせるオルタスとオネエ様。オルタスが口を開く。

「私も初めての戦場はそのくらいの年齢だったぞ?」

「そうよねー、私は八歳で村を出て冒険者になったし、こう言うのは早めの方が良いんじゃない?」


 ピアノ始めるんじゃねーぞ!戦闘特化種族が!

 だが、この世界での常識がおかしいのは明らかにオレなのだろう、ここは素直に引いておこう。


「わかりました、すいません話の腰を折ったみたいで」


「良いのよ、タイトの優しさに感動してネーシャさんも涙目よ」


 ネーシャを見ると確かに涙目だが、さっきつねられた太ももめっちゃさすってるじゃん、どこをどう見て感動したと思った、トカゲ用のメガネ買ったろうか。


「ありがとうお兄ちゃん優しんだね、でもニムルすっごい強いから大丈夫ー!」

「そ、そうなんだね、期待してるよー」


「さてと、状況だが、マズイ事になった」

 オルタスが説明を始める。


 まず、情報を提供してくれるはずであった魔族、オルタスの養父が魔族でその部下らしいのだが、来るはずのそいつが来ない、依って新たな情報が何もないとの事。


「それって敵に偵察がバレて、消された……とかですか?」

「いや、あいつはそんなに弱くはないのだが……」

「そうだよーレブロは脳筋だから、頭は弱いけど戦えばニムルよりちょっと弱いくらいだよー」


 おう、基準がわからんオレにはその情報は無価値だ!


「となると?」

「寝返った可能性も否定できん」


「レブロ……頭悪ぃからなぁ……」

 ニムルちゃん、ちょっと地が透けちゃってるかなぁ。


「それって、オルタスさんのお養父さんも向こう側って可能性もあるって事ですか?」

「そうだな、無いとは言い切れんが……正直今考えてもどうしようもない話だな、なにせ馬鹿みたい強いからな、敵に回ったのであれば対抗策なんて考えるだけ無駄だ!」


 お、おう、なんで自慢の父親です見たいな顔してんのかはわからんが。

 てかやめよう、これ以上掘り下げると嫌なフラグが立ちそうだ。


「じゃぁこの後の予定は?」

「うむ、まず、ハイルラの確率変動の対策は何とかなりそうだ」


「え?ほんとですか?」

「あぁ、解呪の魔法で無効化出来ることは確認出来たし、事前にもらったこの解呪の水晶玉もまだかなりの数使えるほどの魔力を温存してそうだ」


 よし、今度こそボコボコにしてやる!

 あいつにオレのドレインが効くことはさっき分かったし、魔力を吸収し続ければ死の迷夢が維持できないことも分かってる、よし、いけそうな気がする!


「だが……」

「だが?」


「ニムルの話ではカオンの街に運命の聖女が現れる可能性が高いとのことだ」


 誰だ?名前からするとめっちゃ美人そうで良い匂……良い人そうだけど?


「運命の聖女はねー、ニムルよりだいぶ強いの!」

 うん、だから基準がわからんってば。


「戦力となるのは今ここにいる全員とカオンで合流するカインとシフォンが率いる騎士団だが、その全員で掛かっても、まぁ、近付くことすら無理だろう」


 うわぁ、聞きたくなかった、なんだよ大問題じゃねーか。

 オレの無双ターンいつ来んだよ。


「だが、今回の目的は運命の聖女とやりあうことではなくエリンの救出だからな、戦わずに済むようにするしか方法はない」


「てか、そもそも、エリンはなんで連れ去られたんですか?」


 なぜかオレ以外の全員が顔を見合わせる。

 なんだなんだトップシークレットか?


 オルタスが口を開く。

「私たちが知ってるエリンの情報と、そちらの魔族の二人が知ってる情報が同じとは思えないが、幾らか情報を共有して頂けるだろうか?」


 考え込むニムル、ネーシャはその様子を伺っている。

「ダメー」

 ニムルが腕でバツを作る。


「言えるのはー、そっちのおばちゃんたちは知ってるだろうけど、エリンちゃんは(えにし)の加護を受けてて、本人さえ気付けば魂魄連結(ネクト)っていうすっごい能力が使えるってことまでかなぁ」


 あれ?それって?

 パラムの爺様が言ってた、オレと魔王を繋ぐ能力者の話?


「え、ニムルちゃん、それって……」

 言いかけてやめた。なぜかって?

 あんな怖い目をした少女を知らないからですよ。


「ニムル、おしゃべりなお兄ちゃんは嫌いー」


 いや、取り繕っても、殺すぞボケコラ童貞が!って目は忘れねーよ。

 童貞違うし。いや、まじで、何?基準は何?どこまでを童貞って言うの?

 いや、最後までとか言われちゃうとアレだわ、そこまで言うなら、まぁ童貞っちゃ、童貞かもしれないけど?でも、やっぱり線引きは人それぞれだし、心と心の繋がり?そう、例え最後までしたとしてもハートが繋がってないと?やっぱりそれって、オレから言わせると真の脱童貞とは言えないわけで。


 と、心の中の自分と戦ってるうちに話は進んでいた。


「だからー、運命の聖女の目的もエリンちゃんの魂魄連結だと思うの」

「カオンに集められてる沢山の兵士や傭兵と運命の聖女、それに魂魄連結ねぇ……どう考えても良い予感はしないわね」

「だな、まぁいずれにせよ、エリンを連れ戻す以外のことは後で考えるしかないな。魔族まで協力してくれるのであれば何とかなるだろう」

「するのー」


 外はそろそろ白み始めていた。

「よし、カオンに向かうとするか、馬車なんて悠長なことは言ってられないので、各自馬に乗って向かうぞ」


「え、オレ、馬なんて乗ったことない……」

「あら?じゃぁ私と相乗りしちゃう?」


 一瞬、想像してみた。

 これから数時間、鱗の肌に抱きつきながら揺られる光景を。


「ネ、ネーシャ、乗せてくれないか?」

 今、オネエ様の目を見たら負けだ、ビビってこの後の数時間の人生を失ってしまう。


「大丈夫ー、お兄ちゃんは私と乗るのー」


「そ、そうだな、ニムルは一人だと危ないしな!お兄ちゃんと一緒に乗ろう!」

「うん、一人でも大丈夫だけど、一緒が良いのー」


 助かった!欲を言えばネーシャと二人できゃっきゃうふふと遠征したかったが、背に腹は代えられないと言うしな、オネエ様に押し切られる前に逃げよう。


 そしてオレたちはまだ薄暗い街道をカオンの街へと急いだ。

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