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4・3 子役と外道

「うわっ、あいつらマジ馬鹿じゃん、何してんの!?」

 ニムルが観察していた目の前でタイトが巨大な魔力破弾を放った。

「だからあんな生まれたばっかの淫魔にお守りは無理だってー、もぉーパラム様どういうつもりぃ!」


高速計算(スピカラ)!」

「うん、確実にロステリアに着弾するね、これ、どうすんの?私が止めんの?」


「まぁあいつらはもう何もできないだろうしな……」

 視線の先では二人してへたり込んでいるタイトとネーシャ。


「仕方ねーなぁ、頑張ったところで誰も見てない、評価されない、中間管理職の悲しいとこだね!」


空間扉(ゲート)!」

 ニムルの目の前に四角いブラックホールのような空間が現れた。

 おもむろにその空間に飛び込んだニムル、次に姿を現したのはロステリアに向かい飛んでいる魔力破弾の数キロ先の空中。


魔力減衰(ディクリメント)!」

 黒い投網が等間隔で幾重にも重なったようなものがニムルの手から放出される。

 そこへ魔力破弾が突っ込むと少し速度が落ち稲妻を帯びた黒い球体が一回り小さくなる。


「おいおい、どんだけ魔力ぶっ込んだんだよ、全然消えねーじゃん!」

空間扉(ゲート)!」

さらに数キロ先に再び移動するニムル。

魔力減衰(ディクリメント)!」

ゲート、ディクリメント、ゲート、ディクリメント……


「あ、もう、無理……魔力やばい……」

 かなり小さくはなったがまだ消える気配も見せずロステリアの街に向かう黒い球体。

 そして、それを見送るかのように、ゆっくり宙から地上へと降りていくニムル。


「諦めちゃおうかなぁ……」

 あとはもう眺めるだけの状態のニムルの頭に不快な声が響く。


『はいはーい、こちらあなたの親愛なる上司ネイトです!』

「……」

『もっしもーし聞こえてますかー?ニムルさーん?ニムルちゃん?ニャムニャムちゃん?』

「……うるさい……」

『聞こえてますね、えーっと、後々面倒なのでー、その飛んでるヤツでの人族の死傷者ゼロでお願いしまーす』

「私のせいじゃないし」

『もし、死傷者が出たら、あなたの大切なお友達ペリルちゃんを悲惨な方法で消滅させまーす』

「は?なんだお前悪魔かよ」

『似たようなものですー、男に二言はないのでよろしくですー』

「いや、だから私のせいじゃねーし、そもそもペリルはもっと関係ねーだろ!」


 いや、返事しねーし!

 クッソなんだよ、絶対上司間違えたわ!部屋きたねーし、のらりくらりしてるし、私の恋愛対象もうちょっと年上だし!

「あーーーもうっ!人化(イミト)空間扉(ゲート)!」


 ロステリア城下町の細い路地に現れたニムル。

 空間から飛び出すなり広い路地に出て空を見上げる。

「あーぁ、まっすぐ向かってきてるね……高速計算(スピカラ)


 着弾箇所を計算しつつ全力で走り出す。

「あの辺かな……よし、間違いないな……」

 バァン!!

 勢いよく建物のドアを開ける。

 建物の中には食事中の大勢の客が居た。


 すーっ、大きく息を吸い込むニムル。

「ねーみんな聞いて!さっきね、そこでね、偉い神官様にね、ここに災いが起こるからみんなを逃してあげなさいって言われたの!」

「だから、みんなこの建物から早く出て!」


「……あっはっは、嬢ちゃんどうしたんだい?お母さんとはぐれたかな?おじさんがご飯奢ってあげるからこっちおいで!」

 気の良さそうなドワーフのおっさんがニムルに話かける。


「違うの、ほんとなの、みんなすぐに逃げてー!」

「お嬢ちゃん偉いわね、みんなを助けてくれるのね、大きい声出したから喉乾いたでしょ、ベリーのジュースでも飲む?」

 この店の女将がニムルにジュースを差し出す。


 焦るニムル。まずいネイト様ならまじでペリルを消しかねない。

 こうなったら奥の手で……。

「……ひっくっ、ほんとぉーだもぉん、おねがいだがらー、ひっく、うそだったらおこっでもいいがらー、おしりペンペンしてもいいからー、おそとにでてよぉ、えーんっ」

 店の床にへたり込んで大粒の涙を流しながら号泣するニムル。


 すると店の奥から主人が出てきて馬鹿でかい声で叫ぶ。

「オメーラ!女の子がこんなに頼んでるのに信じてやれねーのか!」

「出ろ出ろ!一人残らずこの店から出てけ!」

「メルサ!上の階のお客さんにも声掛けてくるぞ!」


「あんたはほんと可愛い女の子にはすぐエリンを重ねて言いなりになるんだから……」

「うっせ、行くぞ!ほらオメーラも飯なら後でゆっくり食わせてやるから一旦出ろ出ろ!」


 食事中だったお客さんも渋々席を立つ。

「なんか思い出すな、エリンちゃんが小さい頃に[あたしも料理作りたい]って泣きじゃくってたあれ」

「あー、あったな、あの時も女将さんは危ないしお客さんが口にするものだから子供はだめって言ってたのにな」

「そうそう、マスターが[エリンの作った料理が食えねー奴なんて客じゃねー]とか言い出しちゃって」

「ほんと変わんねーな」「だな」

 と、笑いながら店を出ていった。


「おーし、二階の宿屋の客もみんな出たぞ、これでいいのかお嬢ちゃん?」


「ん?メルサ、さっきのお嬢ちゃんはどこ行った?」

「さぁね、外じゃない?一応あたし達も外に出るかい?」

「あたりめーだろ、全員が避難しないとお嬢ちゃんのクエストが終わらねーだろ」

「なんだいそりゃ……」


 女の子の要望を聞けてご満悦のマスターとそんなマスターにちょっと呆れる女将が宿屋の外に出たその直後。

 稲妻を纏った黒い球体が宿に直撃。

 瞬く間に宿だったそれは瓦礫の山へと変貌を遂げた。


「あー……」

 声にならない声を出すマスター。

 ゆっくりと女将さんと顔を見合わせて、抱きしめ合う二人。


「……神の使いだったのかね……さっきの女の子……」

 女将さんが言葉を振り絞る。


「……間違いねーな……」

 呆然としながら答えるマスター。


 その様子を近くの屋根の上からこっそり見ていたニムル。

「まぁ、魔族なんだけどね……」


『ぷぁっはっはっは、幼女作戦とは恐れ入ったよ!ニムルちゃん!』

「……」


『やっぱりあれかい、涙は過去の悲しい出来事を思い出して流すのかい?定番の使い魔(ペット)の最期とかかな?はーっはっはひぁっひ……苦しい……ひゃっひゃひっ』

「……」


『ま、まぁ、何はともあれ、ご苦労様、ペリルちゃんにはボクから何か美味しい物でもご馳走しておくよー、お尻ぺんぺんじゃなくてね、ぷぁっはっはっは』


「……覚えとけよ、魔族一のクズが……」


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