1・1 異世界転生と妄想
「いや、佐々木さんそこは、ほら、アレだから……」
「待って待って、今井さん、そんなところに手を入れると、あふっ……」
「あー、須山先生、助けてください女子たちがなんか急に、え、顔、近い、うぐむぐぐぐむぐっ、ぷはっ……」
「何これ、天国なの?オレ死んだの?いや、構わない、死んでて全然構わないので続け給え!よきにはからえ!」
真昼間、建物も人通りもない見渡す限り続く平原に横たわるオレ。
気持ち悪い感じでうねうねと身をよじらせながら、誰かに聞かれたならば平原のエロ殿様と言う通り名を与えられそうな寝言を口にしていた。
もう少しだけ寝言は続く。
「もうオレ何も身に着けてないんでー、えへっ、ちょっと寒くなってきたなぁ」
「エアコン点けようかなー、も、もしくは、みんなの人肌ってやつをー……」
「へっぷしっっ」
やべ、くしゃみの瞬間にちょっと目開いちゃった、全力で夢の中に戻んなきゃ!
「あ……夢?……だよねー、夢ですよねー、知ってましたよ!全然、全然知ってました!」
勢いよく上体を起こして誰も居ない部屋の中で言い訳をするように両腕を広げ声を上げた。
「いや、モテ期はきますよ、いつかね、今じゃなくてもね、これが夢だとしてもいつかはね、まぁ、急には無理かもね、ね、ね……」
「……ってココどこ?外?なんで?」
完全に目ぇ覚めた。クッソ覚めた。
上体を左右に捻りながら360度見渡す。うん、見渡す限り平原、緑、ちらほら地平線。
「ははぁ~ん、このパターンね、分かる分かる、起きたと思ったら実はまだ夢の中でした!の二段夢オチパターンね!」
「そうと分かれば、[平原よりハーレム]っていう先人の教えに従ってさっさと先ほどまでの夢にリターンでしょ、では、おやすみなさい」
目を閉じる、深呼吸、見たい夢を思い浮かべる。
段々意識が遠のいていく、よし、もう一息だな……記憶が途切れ始め……
「へっぷしっ……あ、また目開けちゃった……」
「まぁ気付いてるけどね! [平原よりハーレム]のあたりで怖くて涙が頬伝ってたけどね!」
「……あぁ、異世界じゃん」
「この後ステータスオープンからの自分の能力に驚愕の流れじゃん!」
「別に望んでないけど、しょうがない、元の世界でも友達は少ないけど居たし、家族も健在、モテ期だっていつかくるはずだったのに……」
「まぁ、よしっ、ステータ……」
「あれ、待って、あの下りがないじゃん、死因思い出して、神様出てきてこんにちわのやつ!」
周りをもう一度見渡してみるが、相変わらず人影はない。
冷静に最後の記憶を思い出してみる
「えーっと、寝る前にまとめサイト見てー、飯テロ開いちゃってー、お腹空いてー、下に降りてー、冷蔵庫開けてー、魚肉ソーセージかじってー、寝た。あ、歯磨いてない、てへっ」
無いな、大切な下りが一切記憶にない。
死んでない?チートなスキルもらってない?
怖い怖い怖い、死んでないのは良いとして、無能ジャージマンで異世界は怖い。
「えーい、ままよ! ステータスオープン!」
頭の中に文字が浮かび上がってきた。
ピコンっ
【名前】イセサキ タイト 18歳 Lv.3
【MP】10
「へーレベル1からじゃないんだ、まぁ年齢も元の世界と同じで18歳だしそんなもんかな」
「MP10は基準知らなくても少なめなのは分かるな、HP的なのは無いのかぁ」
「てか情報少な過ぎー、スキルとかないのかなぁ」
ピコンっ
【発動スキル】魔吸収、魔力暴発、異世界ポケット(日本語ver)
【常時スキル】暗黒属性魔法無効、魔力譲渡契約(対象者:???)、MP成長率*666
「チートきた!良かった生き延びた!」
「魔吸収、魔力暴発ってなんだろ、いやいや、それより異世界ポケットって、オレ猫型ロボットに転生してない?」
「暗黒属性魔法無効かぁ、これはいずれピンチを救ってくれそうだ」
「魔力譲渡契約?全くわからんな、一旦保留!」
「お、MP成長率えぐい、嬉しい、けど666って悪魔か? 猫型ロボットじゃなくて悪魔に転生した?」
自分の手を見る、うん、肌色。
頭を触って見る、ツノも猫耳的な位置に耳があるわけでも無い。
一応、尾てい骨も触って見る、うん、尻尾もない。
「人だねぇ、鏡見たいな、イケメンでありますように!」
「あ、魔法、魔法は?まぁMP10しかないからレベルが上がるまで使えなさそうけど」
ピコンっ
【魔法属性】暗黒
【習得魔法】死の宣告、死の舞踏、死の叫び、死の迷霧、死の片鱗
「うん、悪魔だね、確定、帰りたい、今すぐ……」
「人間共に蹂躙されて殺されるくらいならもう帰りたい!」
「いけね、悪魔気分で[人間共]って言っちゃった」
「流れ的には、試しにファイアーボール打ってみるかなってとこなんだろうけど、全部[死の]って付いちゃってるし、どれ使っても悪いことしか起きなさそう……」
「……今はやめとこう、現状で確認できるスキルはこんなもんかぁ、試せそうなのは……」
「異ぃ世界ポケット~ぉ、おっとつい猫型ロボットみたいに言っちゃうなこれ、地味に恥ずかしい」
ヴォンっ
目の前に手のひら大の黒い空間が出現した。
「お、アイテムボックス的なやつね、試しに石でも入れてみるか」
横に転がっていた石を黒い空間に投げ入れた。
ヴォンっ
- [石]で登録しました -
「……天の声みたいなのキタね、しかし登録ってなんだ」
「あぁそうか、取り出すときにその言葉思い浮かべれば取り出せるってことかな」
恐る恐る黒い空間に手を入れ握る動作をしながら頭の中で[石]と思い浮かべる
「うん、さっき入れた石出てきた、便利便利」
「さてと、まずはセオリー通り食料の確保かな、急に街に行ってもこんな怪しい属性がバレたら即処刑もありえるしなぁ、まずは森を探そうかな、どっちに行けばいいかなぁ」
寂しさを紛らわすためコミカルに進む方向を決めることにした。
右手人差し指を突き出して目をつぶってぐるぐる回る。
「人間ルーレットーぉ!」
「テッテッテッテ、ピコーン!」
「こっちー!」
やまびこすらない静寂。
心の中で虚無感との死闘を繰り広げた結果、大敗を喫し、大粒の涙を瞳に溜めながら歩き始めた。