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星界の邪神再臨させんとす 1話

良識のある人間が見たならば、思わず眉をひそめるような扇情的な格好の女が荒廃した街路を歩いていた。一糸纏わぬ裸体を晒すよりもいやらしいと思える格好をしていながら、その足取りに迷いはなく実に堂々とした態度だった。


下半身にまとうホットパンツは、豊満な尻のラインを浮かび上がらせていた。上半身はチューブトップしか身につけていない。しかも布地の面積は明らかに足りず、豊かな双丘の上半分がほぼ露わになっていた。


男性の劣情を刺激する格好だが、不思議といやらしさはない。きめ細やかなショートヘアの金髪が女神を思わせるからだろう。


格好からすると娼婦を思わせるが、この女性は娼婦ではない。そもそもこの街の娼婦なら遥かに卑猥な格好をしている。


外気に晒されている腹筋は、しなやかでいながら程よく引き締まっていた。体を過酷なまでに鍛えている証だ。


ホットパンツの横に仕立てられた穴を通して、鞘に収まった日本刀を携えている。模造刀ではない。

まごうことなき真剣だ。


娼婦とは程遠い、戦いを生業とする女性であることは明らかだった。本来ならば格好のみならず、隠すことなく日本刀を携行しているため警察の手で拘束されていなければおかしい。その結果が善良な警察官が物言わぬ骸に変わるものだとしても。


それが起こらないのは、この場所が尋常な街ではないからだ。警察も市当局も市民の武装所持にいちいち目くじらをたてることはない。


尋常な街でない証拠は、すぐに現れた。悠然と街路を進む彼女の視界の片隅に道端にうずくまる巨大な影が映る。


野犬だ。肉を咀嚼する嫌な音が耳朶を打つ。鼻先から顔をうずめ、肉を噛み、暖かい血潮に舌鼓をうち、野犬は食事を満喫していた。


不幸にも餌となったのは、まだ年若い男性だ。死体となってから時間は経っていないようだが、それを見ても彼女が動じることはない。


美味い食事にありつけた喜びからか、野犬が顔を上げ雄叫びをあげた。その時に野犬の異常が露わとなった。


巨大な顎から臓物や鮮血が起きるが、その異常はそれが気にならないほどの衝撃を伴っていた。


その野犬は頭が一つではなく、双頭だった。しかも一つは犬の顔なのに、もう一つは人間の中年男性の顔をしていた。餌にありつけた嬉しさからか、どちらの頭も舌を突き出しながら、息を荒げているが、犬ならともかく人間の顔でやられると醜悪なことこの上ない。


まさしく悪夢にしかでてこないような生物だった。それだけでこの街の異常がわかる。


ふと野犬は、露出過多な女性の顔を一瞥した。途端に脱兎のごとく、野犬は駆け出しその場から離れた。


獰猛な存在であるだろうに、キャインと可愛らしい声さえ恐怖のあまりかあげていた。野生の本能が生物としての格ーーー女性と自らの戦闘能力が著しく隔たっていることを察知したのだ。


この街では、奇怪な野犬よりも武装したとはいえ女性が遥かな強者であることも珍しくはない。


ここは、悪徳はこびる魔都グヘンナ。あらゆる邪な欲望に満ち溢れ、人外や異能の力を駆使する人間が跳梁跋扈する異界。あまりの無法地帯ぶりゆえに日本政府から見捨てられた哀れな都市。


彼女もまたグヘンナに数多く存在するわわ人外の領域に達したと言われる猛者の1人。オリガーーー魔剣士の異名を持つ美姫である。


名前からするとスラブ系だが、過去を知る者はいない。じつは人間でないかもしれず、はたまたグヘンナに満ちる瘴気が人の形を成したもののかもしれない。


職業は、探偵。暴力のからむ依頼を専門とし、専門とする依頼の成功率はほぼ100パーセント。

グヘンナ出身でない依頼人からは、殺人を犯しはしても善よりの人間ではないかと捉えられることもあるが、非好意的な人間からは殺人を求めて探偵をやっていると皮肉られるのが常だ。


いずれにせよ、この付近でまもなく鮮血の雨が降るのは間違いない。彼女が街路を歩いているのは、依頼によるものなのだから。

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