第7話 シロ
「……ネコ?」
目の前に現れた白ネコに対して疑問の声を上げる。
とりあえず注意深く観察してみるが、どこからどう見てもただの白いネコだ。
白ネコの周りから召喚に使用した魔方陣と魔石が消えているので、召喚には成功したんだと思う。
正直、異世界での召喚ということでファンタジーな生き物が召喚されることを期待していた。
ドラゴンやスライム、ケルベロスにグリフォンとか。
他にも変わったところで妖精や精霊。
まあ、スライムが召喚されたら能力的に困ったかもしれないけど、最近はチートなスライムも多いし。
なんにせよ、もっとそれっぽいものが召喚されると思っていた。
でも、結果はネコだ。
何の変哲もない白いネコ。
ツヤのある真っ白な毛並みはとてもきれいだけど、それだけだ。
大きさ的にも元の世界にいたネコと同じくらい。
むしろ子ネコサイズなので小さいくらいじゃないだろうか。
「ニャー。」
召喚された白ネコを見ながら現実逃避気味に考え事をしていると、白ネコが気の抜けたような鳴き声を上げる。
その鳴き声に反応したのか、後ろからギルドマスターの声が聞こえてきた。
「ワイルドキャットのようだな。
白い奴は初めて見たが。」
「かわいい。
ねえ、さわってもいい?」
ギルドマスターの発言をよそに、エミリアさんが僕の横までやってきてそんなことを聞いてくる。
召喚魔法に乗り気だったのは召喚獣が目当てだったのだろうか?
「えっと、これは召喚が成功したってことでいいんですか?」
エミリアさんの発言は無視することにして、ギルドマスターの方を振り返って尋ねる。
「ああ、そのはずだ。
そいつとの魔力のつながりを感じないか?」
そう言われて、何となく自分の手と白ネコを交互に見比べてみる。
……よくわからなかった。
今度は目を閉じて自分の身体と白ネコに意識を集中してみる。
しばらく集中してみると僕の身体を澄んだ空気のような膜が覆っていることが感じられた。
さらにその澄んだ空気に集中してみると、澄んだ空気が白ネコへと細くつながってゆっくりと流れ出ていることが分かる。
流れ出ている量がかなり少なかったので分かりにくかったけど、どうやら詠唱中に違和感として感じていた何かが抜ける感覚と同じみたいだ。
つまり、これが魔力ということなんだろう。
「……つながっているようです。
ちなみにワイルドキャットって強いんですか?」
白ネコとのつながりが確認できたので、気になっていたことを確認する。
この白ネコの強さ次第で今後の行動が変わってくる。
「強くはないな。
単体でEランク程度、お前さんが襲われたワイルドウルフと同じくらいの強さだ。」
ギルドマスターが答える。
どうやらこの白ネコを頼りに無双するような展開にはならないらしい。
「そんなことよりも早く名前を付けてやったらどうだ。
さっきからお前さんのことを見ているぞ。」
言われて白ネコの方に向きなおすと確かにこちらを見ていた。
「……じゃあ、白ネコなので“シロ”で。」
残念ながらかっこいい名前が思いつかなかったので見たままの名前を付ける。
すると頭の中にシロのステータスが表示された。
名前:シロ
種族:ワイルドキャット
性別:メス
年齢:0
レベル:1
称号:マナの召喚獣
スキル:隠密 Lv.1、高速移動 Lv.1、暗視 Lv.1
「……なんか、ステータスが表示されたんですが。」
「そりゃあ、お前さんの召喚獣だからな。」
ギルドマスターがあっさりと返してくる。
どうやら召喚獣であれば普通らしい。
まあ、何ができるのかがわかるのはありがたい。
しかし、“暗視”はともかく“隠密”と“高速移動”のスキルは強いのではなかろうか?
それともネコなのだから、ワイルドキャットという種族として標準装備なのだろうか?
「そんなことより、シロちゃんにさわらしてもらってもいい?いいわよね?」
シロのステータスについて考えていると、もう我慢できないという感じでエミリアさんが問いかけてきた。
なんというか目つきが少し怖い。
仕方がないのでシロに近寄り、少し撫でた後に向かい合うように抱え上げる。
召喚獣だからか、特に嫌がることはなかった。
シロを近くでよく見てみるとオッドアイのようだ。
右目が黄色で左目が青色となっている。
腕で抱えるように抱きなおして背中をなでる。
短いさらさらの毛が気持ちいい。
そのままの状態でエミリアさんの方へ向かう。
と、シロを奪い取られてしまった。
呆然としつつエミリアさんを見つめる。
きれいな人がネコをあやしているのは絵になる気がするんだけど、夢中でなでているその姿はすごく残念な気がする。
そのまま呆然と眺めていると、近くまで来たギルドマスターに肩をたたかれて頭を振られる。
あきらめろということらしい。
結局、それからアメリアさんも加わり、シロはしばらく解放されなかった。