第6話 召喚
エミリアさんがアメリアさんから受け取った荷物を確認する。
「あら?
魔石も持ってきてくれたんですね。」
「ええ。
この場で必要になるとは思いませんが、すぐに必要になるみたいでしたから、ついでに用意しておきました。」
どうやら、買出しに出た魔法紙と魔法インクだけでなく、ギルドの備品から各属性の魔石も持ってきてくれたようだ。
魔石が入った皮袋を見せてもらうと、中には6色のきれいな丸い石が入っていた。
何となくイメージしていた魔石よりも大きく、こぶし大くらいの大きさがある。
「そういえば聞いていなかったんですが、この世界の属性は何があるんですか?
この中には6種類の魔石が入っているみたいですけど。」
「この世界の基本属性は、“火”、“水”、“風”、“土”、“光”、“闇”の6種類よ。
もしかして、召喚魔法に必要な属性と違ったりする?」
「いえ、一緒みたいです。
ちなみに、どの色がどの属性なんですか?」
エミリアさんに確認してみると、この世界の基本属性も召喚魔法に必要な属性と同じで“火”、“水”、“風”、“土”、“光”、“闇”の6種類らしい。
さらに各属性の魔石の色も、元の世界で試したものと同じだった。
つまり、“火”は“赤”、“水”は“青”、“風”は“緑”、“土”は“黄”、“光”は“白”、“闇”は“黒”だ。
幸いと言っていいのか、どうやら元の世界で試したのと同じように召喚魔法の儀式を行えそうである。
しかし、マスタールームにある応接机は魔方陣を描くのに向いていなさそうだったので、皆で1階に降りることになった。
さすがのエミリアさんも、ギルドマスターの執務机を使えとは言わなかった。
1階に移動すると、僕はギルドの受付で魔方陣を描くことになった。
やはり、ここの冒険者ギルドには人がいないみたいで、3つある受付には職員の人も含めて誰もいなかった。
これでこのギルドは大丈夫なのだろうか?
そんなことを考えつつ、エミリアさんから受け取った魔法紙に向き合う。
魔法紙や魔法インクというのは、魔素を含んだ素材から作った紙やインクのことで、通常のものよりも魔法との相性が良いそうだ。
魔法紙と一緒に魔法インクを用意したときに“生贄の血を使う”という記載を思い出したが、魔法インクのほうが効果が高そうなのでそのまま用意してもらったものを使うことにした。
というか、生贄の血なんてものを使いたくない。
そもそも気持ち悪いし、成功しても良くないものが召喚されそうな気がする。
ペンに赤い魔法インクを付け、慎重に魔方陣を描きはじめる。
まずは2重に重なる2つ円の内側の円を。
次にその円の縁に沿うように三角形を2つ描いて六芒星を作り、外側の円を描き加える。
そして最後に六芒星の各頂点がある円と円の間にラテン語で各属性の名前を書き足す。
「ふーっ。」
息をついて完成した魔方陣を見ると、羊皮紙に描かれた魔方陣がきれいに写し取られていた。
下書きをしていないにもかかわらず、歪みひとつなくきれいに描けているのは、やはりスキルのおかげなのだろうか。
「完成しました。」
完成した魔方陣の出来に内心驚きつつ、魔方陣が出来たことをギルドマスターたちに告げる。
「そうか。
なら、召喚には裏の訓練場を使ってくれ。」
「じゃ、行きましょう。
ついてきて。」
そう言ったエミリアさんを先頭に、再び皆で連れ立って移動する。
召喚場所に指定された訓練場は、ギルドの裏に建てられた質素な建物だった。
固く固められた土の地面に壁と屋根を付けただけの場所、そんな印象だ。
ただ壁は分厚く補強されているようで、かなりの強度がありそうだ。
「さっそく召喚をしてみましょう。」
訓練場に入ってすぐのところから内部を観察していると、エミリアさんにそう声をかけられる。
ここまで来てしまえば今更なので、軽くうなずき返して召喚の準備を始めることにする。
何が召喚されるか分からないのでゆっくりと訓練場の中ほどまで進み、先ほど用意した魔方陣を地面に広げる。
丁寧に魔方陣が描かれた魔法紙を伸ばし、六芒星の各頂点に対応する魔石を時計回りに置いていく。
“光”には“白”、“火”には“赤”、“風”には“緑”、“闇”には“黒”、“水”には“青”、“土”には“黄”の魔石だ。
魔石を置き終わると最後にもう一度羊皮紙の魔方陣を確認し、間違いがないことを確かめる。
うん、問題はないようだ。
「準備ができました。
始めてもいいですか?」
「ええ、始めてちょうだい。」
準備を終えて確認をとると、エミリアさんが期待のこもったまなざしとともにそう返してくる。
僕は1度深呼吸をして心を落ち着けると、魔方陣に手をかざして詠唱を始めた。
「あまねく世界に在りし魂よ、我が呼び声、我が望みに応じ、我とともに在ることを望むのであれば応えよ。」
前回と同じようにゆっくりと詠唱を行う。
すると詠唱開始とともに体から何かが抜けていくのを感じた。
これが魔力だろうか?
そんな疑問を浮かべつつ、体から何かが抜ける違和感を無視して詠唱を続ける。
そして詠唱が完了すると同時に、前回と同じように閉じた瞼越しに強烈な光を感じた。
「おぉっ。」
後ろからキースさんたちが驚いたような声を上げているのが聞こえる。
また別の世界に召喚されるようなことにならないといいな、などと思いながら光が収まるのを待つ。
数秒後、光が収まったのを感じて目を開くと、そこには1匹の白いネコがいた。