第5話 この世界について
買い出しにまで行かれてしまっては仕方ないので、僕は召喚魔法のことについてはあきらめることにした。
なので、気になっていた他のことについて質問してみる。
「すいません、先ほど自動翻訳のスキルが異世界から来た人全員が持つスキルだと言っていましたが、漂流者以外にもそういう人はいるんですか?」
「他にも、というか漂流者以外だと他には1つだけだな。
この世界で勇者召喚の儀式を行って召喚された“勇者”がそれだ。
そういえば、最近隣のイストレイ王国で勇者召喚の儀式をしたと聞いたな。」
ギルドマスターの答えに初めて国の名前が出てきたので聞き返す。
「イストレイ王国ですか?」
「ええ、イストレイ王国です。
今代の魔王討伐のため、イストレイ王国で勇者召喚が実施されたようです。
1度目の召喚には失敗したようですが、近々2度目の召喚を実施するという噂を聞いています。」
今度は隣からエミリアさんが答えてくれた。
しかし、やっぱり魔王がいて勇者もいるのか。
そんなことを考えながら、気になったことを確認する。
「そういえば、今更なんですがこの国の名前は何とというんですか?
それから、もう少しこの世界のことについていろいろと教えてもらえませんか?」
そう言うと、エミリアさんはハッとしたような顔をして、ばつが悪そうなのをごまかすように苦笑しながら説明してくれた。
いきなり召喚魔法に食いついて色々とすっ飛ばしたことが気まずかったみたいだ。
その説明によるとルインの町があるこの国の名前はファスティリア王国というらしい。
大陸の東の端にある小国でヒトの国だそうだ。
といってもヒト以外の種族も問題なく住めるらしく、森精人や地精人、獣人、鬼人といった人族の種族が暮らしているらしい。
僕は見ていないがこの町にもそれぞれの種族の人がいるとのことだ。
この世界には1つの大きな大陸と2つの大きな島があるらしい。
世界地図を見せてもらうと、大陸の方は横に広い楕円に円の右下を切り取ったものを上から突き刺したような形をしていて、大陸の円の欠けた湾の部分から外海に向かって大きな島が2つ並んでいた。
大陸は北側の欠けた円の部分に人族の国家があり、南の楕円部分に魔族の支配する領域があるそうだ。
2つの島については、大陸に近い島には人族が暮らしており、もうひとつの島はドラゴンが暮らしているらしい。
大陸にある人族の国家は大きな国が5つあるらしく、大陸の東端にここ“ファスティリア王国”、その西に勇者召喚を行った“イストレイ王国”、そして円形部分の上半分近くを占める“ノスプレッド帝国”、円の中心近くの世界樹を中心としたエルフの国“セントウッド王国”、円形の欠けた下半分を占める獣人の国“セリエスト王国”とのことだ。
人の暮らす大きな島の国の名前は“ヤマト”で、ドラゴンの島と魔族領には特に名前が付けられていないらしい。
他にも、先ほどまで当たり前のように話していたが、この世界にはスキルというものがある。
これは先天的にあるいは訓練することで取得することができるらしい。
ただ、魔法のスキルについては魔法ギルドが完全に握っているらしく、普通の人が魔法を取得するのは難しいそうだ。
魔法ギルドに加入して魔法使いに弟子入りするか、高額のスキルスクロールを買うしかないらしい。
しかも、魔法を扱うためには素質がなければスキルスクロールを使っても魔法のスキルを取得できないとのこと。
なお、スキルスクロールとは魔法ギルドの秘伝の技術で魔法のスキルをスクロールに封入したものだ。
これを使えばスクロールを開くだけで魔法のスキルを取得することができるらしい。
非常に便利なものだが、製法は魔法ギルドが握っている上、残念ながら魔法以外のスキルではスキルスクロールが作れないらしい。
なので、魔法以外のスキルを取得するためには訓練するしかないそう。
ただ、魔法のスキルスクロールも便利なばかりではないそうで、作成できるのはスキルレベルが一定以上の限られた人だけで、さらに作れる数にも限りがあるらしい。
というか、スキルスクロールを作りすぎるとスキルレベルが下がってしまうそうで、それ以上は作れなくなるらしい。
なので、スキルスクロールは単に高額というレベルではなく、一般人が手を出せるようなものではないそうだ。
後、称号については世界、あるいは神様に何かを認められると自動的に与えられるものらしい。
なので、僕みたいにイレギュラーでこの世界にやって来た人には“漂流者”の称号が自動的に与えられると。
ただ、これが勇者召喚によって招かれた人になると“漂流者”ではなく“勇者”の称号が与えられるらしい。
“漂流者”と“勇者”。
仕方ないのかもしれないけど、ずいぶんな差だ。
ちなみに、ギルドマスターは“ドラゴンスレイヤー”の称号を持っているらしい。
かつて冒険者として活動していた頃に、仲間とともにドラゴンを討伐してその称号を手に入れたそうだ。
そこまで説明してもらったところで、アメリアさんが買い出しから戻ってきた。
「あら、戻ってきたみたいね。
残りの説明は後にして、先に召喚をやってしまいましょうか。」
エミリアさんは買い出しから戻ってきたアメリアさんに気付くと、そういって僕への説明を打ち切る。
というか、エミリアさんはどんだけ召喚を見たいんだろうか。
なんか不安になってくるんだけど。