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第4話 ルインの町と冒険者ギルド

ルインの町はキースさんたちに助けられた場所から1時間ほど歩いたところにあった。

高い壁に囲まれた〝要塞”、それがルインの町を見た僕の感想だ。

しかし、キースさんが言うにはこちらの世界ではこの程度の壁に囲まれている町は珍しくないらしい。


町に入るときに門番の人に確認されたが、キースさんたちが僕のことを漂流者だと説明すると、特に問題なく通してもらえた。

漂流者は珍しいみたいだけど、漂流者のことについては知られているみたいだ。

まあ、門番の人だったからかもしれないけど。


大きな門を抜けるとすぐに、ルインの町の町並みが目に飛び込んできた。

門から延びる道沿いに建つ家々は木と煉瓦で作られた建物のようで、漠然と想像していたよりもずっとしっかりしたつくりの建物だった。

というか、僕が召喚魔法の実験をしていた家の物置と似ている気がする。

家に限らず、人が作るようなものは世界が違っても似たようなものになるものなんだろうか。


初めて見る異世界の町並みに目を奪われながらも、僕はキースさんたちに連れられてまっすぐに冒険者ギルドへと向かう。

到着した冒険者ギルドはルインの町の中心にあり、まわりの家に比べてひときわ大きな3階建ての建物だった。



キースさんたちに続いて冒険者ギルドの中に入る。

何となく異世界ものにおける冒険者ギルドのテンプレを思い出しながら建物の中を見回したが、予想に反して内部には人がほとんどいなかった。

キースさんたちが話しかけている受付の女性しか目に見える範囲に人がいなかったのである。

物語の中の冒険者ギルドのイメージにあるような喧騒を予想していただけに、何となく肩透かしを食ったような気分だ。


キースさんたちの話をなんとなしに聞いていると、どうやらすぐにギルドマスターに引き合わせてもらえるらしい。

このまま3階のマスタールームまでついてきてほしいと言われた。

もちろん僕に断る理由はないので素直に従い、キースさんたちの後に続いてマスタールームへと向かう。

というか、受付の人に案内してもらっているけど、1階から人がいなくなっているのは大丈夫なんだろうか。



マスタールームに入ると、そこには2人の人物がいた。

部屋の奥にある執務机に座ったスキンヘッドの大柄な男性とその隣に立っている茶色の髪を肩まで伸ばしたきれいな女性だ。

立ち位置などを考えると男性がギルドマスターで女性はその秘書といったところだろうか。

そんなことを考えていると、スキンヘッドの男性が立ち上がってこちらに歩いてきた。


「俺がこのルインの町のギルドマスターをしているドミニクだ。

 坊主が漂流者でいいのか?」


「はっ、はい、そうです。

 黒川マナといいます。」


問いかけられたので答えを返そうとして顔をまっすぐに見てしまい答えに詰まってしまった。

先ほどは顔がよく見えなかったが、ギルドマスターの顔には無数の傷が刻まれており、けっこうな強面だったのだ。


「ちょっとお父さん、その子が怖がっているじゃない。

 初対面の人には優しく話しかけてっていつも言っているでしょ。」


隣にいた秘書風の女性がギルドマスターを注意する。

どうやら彼女はギルドマスターの娘さんだったようだ。


「ごめんなさいね。

 顔はこんなんだけど悪い人ではないから。

 私はサブギルドマスターのエミリアよ。

 よろしくね。」


エミリアさんがそう謝りながら微笑みかけてくる。

どうやら秘書ではなくサブギルドマスターだったらしい。


「はい。

 よろしくお願いします。」


きれいな女性の微笑みに、何となく照れそうになりながらそう返した。


「それでは、繰り返しになりますが、確認のためにもう一度説明していただけますか。

 キースさん。」


エミリアさんにそう言われ、キースさんが僕を助けてくれたときの話を最初から説明する。

僕も改めて間違いがないか注意しながら聞いていたが、特に訂正が必要そうなところはなかった。



「そうか。

 じゃあ、お前さんは草原に身一つで放り出されていたんだな。

 ところで、ステータスを確認したようだが何かスキルは持っていなかったのか?」


キースさんの話を聞き終わったギルドマスターが問いかけてくる。


「えっと、“自動翻訳”と“召喚魔法”のスキルがありました。」


「ほう、“召喚魔法”か。」


僕が答えるとギルドマスターは意外そうにつぶやいた。


「“自動翻訳”は漂流者、というか異世界から召喚されたり紛れ込んだりした人間が全員持つスキルだな。

 なんで、“召喚魔法”がお前さん固有のスキルということになるんだが、珍しいものを持っているな。」


「珍しいんですか?」


「まあ、漂流者ほどではないがな。

 召喚魔法持ちは国に数人、2桁もいれば多いくらいだろう。」


「そうなんですか。

 ちなみにどうやれば召喚魔法が使えるんでしょう?」


スキルを確認してからずっと気になっていたことを確認してみる。

だが、ギルドマスターからの回答は思いもよらないものだった。


「あん?使い方がわからんのか?

 悪いが召喚魔法の術式は個々人によって異なるらしくてな、他の人間にはわからんぞ。」


「なっ。

 ……じゃあ、僕は召喚魔法を使えないんですか?」


「うーん。

 そういえば、召喚魔法の術式は術者の頭に思い浮かんだものを使うと聞いたことがあるのだけど、思い当たるものはないのかしら。」


ショックを受けつつ聞き返した僕に対して、顎に手を当て何かを思い出すようにエミリアさんがつぶやく。

その言葉を聞いて、僕はハッとしてローブのポケットから例の古い羊皮紙を取り出した。


「思い当たるとしたらこの魔方陣なんですが。」


僕は不安に思いつつもそうに答える。

異世界に来ることになった原因と思われるものだ。

正直、あまりいい気はしない。


「あるんじゃないの。

 じゃあ、それで決まりよ。

 早速試してみましょう。

 構わないでしょう、お父さん?」


不安に思っている僕をよそに、エミリアさんはなぜか乗り気でそんなことを言う。


「構わんが、ここではやるなよ。

 何が出るかわからんからな。」


「もちろんよ。

 ところで、その魔方陣を使った召喚には何が必要なのかしら。

 その魔方陣だけでいいの?」


ギルドマスターからの注意に軽くうなずきつつ、僕に確認してくる。

どうやら、本気で確認をさせたいらしい。


「えっと、儀式にはこの魔方陣ではなく別の紙に書いた魔方陣を使います。

 後は各属性の魔石も必要になります。」


「そう。

 じゃあ、魔法紙と魔法インク、各属性の魔石を用意すればいいのね?

 アメリアさん、ギルドの備品に残っていたかしら?」


エミリアさんは僕の答えを聞いて必要なものを挙げていく。

アメリアさんとはギルドの受付の人の名前で、エミリアさんよりも年上に見える30歳前後のこちらもきれいな女性だ。


「魔法紙と魔法インクはありませんね。

 魔法ギルドへ行って買ってきましょうか?」


「ええ、お願いします。」


どうやら、僕が召喚魔法を試すことは確定しているようだ。

エミリアさんは躊躇なくアメリアさんに買い出しを頼んでいた。


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