第3話 冒険者との遭遇
その日、キースとロビンの2人はルインの町からエスポートの町に通じる街道に現れるようになったというワイルドウルフの討伐のため森の中に入っていた。
Bランクの冒険者であるキースとロビンからするとワイルドウルフの討伐はランクの低い依頼だったが、ルインの町には他にEランクパーティーが1組いるだけで、さらにそのパーティーも遠征に出ており、他に受ける冒険者がいなかったのだ。
「なんでまた森の奥に引っ込んでいるはずのワイルドウルフが街道にまで出てきたんだろうな?」
目の前の枝を短剣で払いながら、退屈そうにキースがそう話しかける。
「さてな。
そのあたりのことも調査するようにギルマスから言われただろう。
諦めて奴らの痕跡を探すことに集中しろ。」
あきらかにやる気をなくしている風情の相棒にあきれつつ、ロビンが注意する。
「ぅゎぁぁぁぁぁぁ。」
そんなやり取りをしていた2人の耳に遠くから叫び声が聞こえた。
「おいっ、今の聞こえたか?」
「ああ、街道の方だ。」
2人は顔を見合わせてそう言葉を交わすと街道を目指して森の中を駆けだした。
街道が見える場所にまで来ると、オオカミに追いかけられている人間がいるのが分かった。
「おいっ、やばいぞ。」
キースが焦ったような声を出す。
追いかけられていた人間が足をもつれさせて転んだのだ。
「わかっている。」
そう答えながらロビンは街道への射線が通る位置を探して素早く移動する。
転んだ人間を見ると、どうやら先頭のオオカミからの一撃目は避けられたようだ。
だが、残りの2頭に逃げ道をふさがれてしまっている。
「おいっ、まだかっ。」
キースが再び焦ったような声を出す。
見ると今まさにオオカミが飛びかかろうとしているところだった。
「もう終わる。」
キースとは対照的に落ち着いた声でそう答えると、ロビンは手にしていた矢を射た。
そして、先頭のオオカミがやられたことに慌てている残りの2頭にも立て続けに矢を放っていった。
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「大丈夫か?」
いきなり飛んできた矢に倒れたオオカミたちを見つめて呆然としていると、森の方からそう声をかけられた。
驚いて森の方を振り返ると、森の中から2人の冒険者が出てくるところだった。
「大丈夫か少年。
こちらの言っていることがわかるか?」
呆然としたまま2人を見ていると最初とは別の冒険者に再度問いかけられた。
ハッとして答えを返す。
「大丈夫です。
言っていることもわかりますし。
……その、危ないところを助けていただいてありがとうございました。」
そう答えると冒険者たちは安心したように続けた。
「そいつは良かった。
俺たちはルインの町の冒険者で俺はキースだ。
で、後ろにいるのがロビンだ。」
最初に問いかけてきた冒険者が自分の名前を名乗り、相方の紹介をする。
それを聞いて僕は2人の冒険者の姿をまじまじと見つめた。
キースと名乗った男性は剣士のようだ。
背中に大きな大剣を背負っている。
背はそれほど高くないががっしりした体つきで力がありそうだ。
髪は短く、顎にうっすらと無精ひげを生やした渋めの顔をしている。
年齢は30台であろうか。
もう一人のロビンと紹介された男性が弓使いのようだ。
左手に弓を持ち、背中には矢筒を背負っている。
こちらがオオカミを倒したのだろう。
外見はすらっとしていて背が高い。
やや長く伸ばした髪を無造作に流した2枚目風だ。
こちらも年齢は30台に見える。
「それでワイルドウルフに襲われていたようだが、どうしてこのようなところに一人でいたんだ?
見たところ魔術師見習いのように見えるが。」
ロビンさんが問いかけてくる。
魔術師見習いというのは、僕が羽織っているローブを見ての判断だろう。
「……それがよくわからないんですが、気づいたら草原の中に倒れていたんです。
それで街道を見つけて街か村を探していたらオオカミ、ワイルドウルフに襲われてしまって。」
一瞬どう答えるべきか迷ったが、正直に答えることにした。
この2人が人をだますような人間には見えなかったし、そもそも都合のいい作り話も思いつかなかった。
「そうか、そりゃあ大変だったな。
じゃあこの辺の人間じゃないのか?」
キースさんからさらにそう問われた。
ここまでくれば何もかも正直に話してしまおう。
そう思って答えた。
「はい。
僕は日本という国の人間なんですが、ご存知ですか?」
「いや、聞いたことがない国だ。
もしかしてお前さんは漂流者か?」
「えっ?
……そうですが、漂流者というのはよくいるのですか?」
突然出てきた“漂流者”という言葉に驚きつつ、問い返す。
漂流者が一般的なのであれば帰る方法がわかるかもしれない。
「いや、漂流者は珍しいな。
俺も出会ったのは初めてだ。
まあ、とりあえずルインの町まで連れて行こう。
ギルマスなら何か知っているかもしれないしな。」
「そうですか……。
そういえば名乗っていませんでしたが、僕は黒川マナといいます。
すいませんが、町までよろしくお願いします。」
残念ながら、やはり漂流者は珍しい存在だったようだ。
だが、町までは連れて行ってくれるらしい。
僕は自分の名前を名乗りつつ、2人に町までの案内を頼むのだった。




