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第2話 移動開始

森に向かって歩き出してから20分くらいで、前方に街道らしき道があることに気付いた。


「助かったー。」


思わず安堵の声が出てしまう。

食べ物も飲み物もない状態で歩き続けていることに不安になり始めていたのだ。


たどり着いた街道は土の地面がむき出しになった道だった。

道幅は日本の2車線道路くらいだろうか。

森に沿うように左右へと道が伸び、地面には車輪を持つ何かが通った後と思われる轍が残っている。


街道という、人のいる痕跡を見つけて喜んではみたものの、実は不安が解消されていないことがわかってしまった。

左右どちらを見ても街道の先に街はおろか人の姿さえ見つけることができなかったのだ。

どちらに街があるかわからない状態では進む方向が決められない。

いや、どちらに進んでも街なり村なりにはたどり着くのだろうが、どちらのほうが近いのかが分からなかった。


ある程度の旅支度があればそこまで悩む必要はなかったのかもしれない。

だが、食料はおろか水すら持っていない状態では簡単には決められなかった。



「どうしよう。」


不安から声に出してつぶやいてしまう。


ここは目の前の森から木の枝を拾って方角を決めるべきだろうか?

それとも動かずに誰かが通りかかるのを待つべきだろうか?

はたまた森の中に入って水や食料を確保するべきなのか?


しかし、もし方角を間違えて何日もかかることになったり、誰も通りかからなかったりするかもしれないと考えると踏ん切りがつかなかった。

森の中に入るなんてのはもってのほかだ。


判断材料を探すために、街道に残っている轍を観察してみる。

見たことはないがこれは馬車の轍だろうか?

正直、異世界=馬車みたいな先入観があることは否定しないが、少なくとも自動車のものではないことは確かだ。

しかし、舗装されていない街道や周囲の様子からしても、この世界の文明レベルがファンタジー世界によくあるような中世あたりのものという予想はそう外れていないような気がする。


だが、そうやって文明レベルにあたりをつけてみても、その時代の街道にどの程度の人の行き来があったのかを知らなかったので、結局は何の判断材料にもならなかった。

そんな役に立つのか立たないのかよくわからないようなことをしばらく考えていたが、ふと左手から人の声が聞こえた気がした。


そのかすかな声にうつむいていた顔を上げる。

かすかに聞こえたその音は幻だったのかもしれない。

それでも、きっかけを求めていた僕には天啓のように思えた。


「左に進んでみよう。」


自らを元気づけるように、そう声に出してから街道を左手に進みだした。






街道を左手に向かって歩き出してから1時間ほどが経った。

周囲は代わり映えのしない景色が続き、左側に草原、右側に森という風景が延々と続いている。

もちろんすれ違う人もなく、街や村にたどり着く気配もない。

空を見上げれば、太陽も真上の位置を通過している。

もうすでに正午は回っているのだろう。


「……気のせいだったのか?」


のどの渇きに思わず足を止め、考えないようにしていた一言を声に出してしまう。


「でも、今更やめるわけにもいかないしなあ。

 とりあえずもう少し歩いてみるか。」


そうつぶやき、再び歩き出す。

しかし、その足取りは明らかに先ほどよりも重くなっていた。



飲み物、水がないのはまずいかもしれないと思いつつ進む。

森の中に入れば川や泉などの水場が見つかるかもしれないが、こんな何が出てくるかわからない世界では入りたくなかった。

食べ物についても、地面に生えている草に何か魅かれるものがときおり混じっていたが、あいにく食べられる野草の知識などは持ち合わせていない。

こちらもやはり手に入れるとなると森に入って安全そうな果実などを探さざるを得ないだろう。


だが、森に入るのが怖いといっても、このまま誰にも会わず、街にもたどり着けそうにないとなれば、いつかは決断しなければならない。

日が暮れてしまっては水場や食べ物をうまく探せないかもしれないので、案外決断しなければいけない時は近いのかもしれない。

というか、そうなってしまうと今日は野宿しないといけないことになるのかと不安になる。

現代日本で普通に中学生をやっていた僕には野宿の経験も知識もないのだから。


そんなことを考えていると、後方で森の中から“ガサッ”という音が聞こえた。

その音を聞いて振り返り、ゆっくり後ずさりながら後方を確認する。

何となく嫌な予感がした。


すると100メートルほど後方で灰色の生き物が森から出てくるのが見えた。

その後ろからも同じ灰色の生き物が2頭続いて出てくる。

はっきり確認しようと目を凝らすと一番手前にいた一頭と目があった。

オオカミだ。


「ひっ。」


小さく悲鳴を上げて後ろへと下がる。

だが、それを見たオオカミは良い得物を見つけたと思ったのか、目を輝かせながらこちらに向かって動き出した。


「うわああああああ。」


それを見た瞬間、僕は大きな叫び声を上げてオオカミから逃げ出した。






全速力で街道を走りつづける。

たぶん今までの人生の中で一番の速度だ。

視界に入る森の木々がすごい勢いで後方に流れていく。


自分でもあり得ないと思うほどの速度で走っていることがわかる。

異世界に来たことで身体能力が強化されたのであろうか?

そんなことを考え、これならば追いつかれずに逃げ切れることができるかもしれない。

そう思って肩越しに後ろを振り返った。


そこには、目前にまで迫ったオオカミの姿があった。



淡い期待が裏切られ、今にもオオカミに追いつかれそうになっている状況に驚いて足をもつれさせる。

そして、全速力で駆けていた速度そのままに地面に突っ込んだ。


「いっつぅ。」


勢いよく転んだ衝撃と痛みにうめき声をあげながら、すぐに体を起こそうと地面に手をついて顔を起こす。


目の前に今にも噛みつこうとするオオカミの顔があった。


「うわあっ。」


地面についていた左腕を勢いよく振り払ってオオカミの顔を殴りつける。

しかし、その腕はオオカミにあっさりと躱されてしまった。


地面に座り込んだ状態のまま後ずさる。

周りを見ると、すでに残りの2頭が追いついて街道の前後をふさいでいた。


逃げ場をふさがれたことに気づいて慌てて立ち上がろうとするが、その瞬間、目の前にいたオオカミが飛び掛かってくる。


「くっ。」


僕はせめてもの防御にと、まとっていたローブで身を包み、目をつむって痛みに身構えた。



「ギャッ。」


痛みに身構えていると、恐れていた痛みではなく妙なうめき声が聞こえた。

恐る恐るローブから顔を出して確認してみる。


目の前には、首の横から弓矢を生やしたオオカミが倒れていた。

そのまま残りの2頭を探す。

すると、“ヒュッ”という風を切る音とともにその体に矢を受けて倒れるオオカミの姿が見えた。


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