第14話 冒険者としての初日
ランチタイムの手伝いを終え、薬草採集へと向かう。
初めての依頼ということで気合を入れて出てきたのに、少し歩いたところで薬草の見た目を知らないことに気づいたときには焦った。
慌てて戻って、アメリアさんから薬草の見分け方を教わったから、今はもう問題なしだ。
ただ、“魔素を蓄えている草が薬草”という見分け方はどうなんだろう。
普通の草木が空気中の魔素を蓄えて変化したものが薬草らしいからその通りなんだろうけど、なんとなく不安だ。
一応、見本となる薬草も見せてもらったけど、少し見た程度では覚えることができなかったし。
まあ、今日は初日だし、しばらく依頼をこなしながら覚えていくしかないのかもしれない。
門を抜けて草原へと出る。
ルインの町は東西南北すべての方角に門が作られているらしいけど、今出てきたのは東門だ。
この門は港町へと続く街道へとつながっていて、街道の左側が森、右側が草原となっている。
キースさん達に初めてこの町に連れてきてもらったときに通ったのもこの東門だ。
残りについては、北門と西門が森につながる門になっていて、北は王都、西は遺跡へと続く道がつながっているらしい。
最後の南門については直接草原へと出る門になるんだけど、南の草原には何もなく、人手も足りないことから現在は閉じられているそうだ。
ダンジョンが正常だったころも大して人の出入りはなかったらしいけど、人手を理由に門が閉じられるようになるというのは、なんというか、この町が本当にやばいんだという気がして心配になる。
「ニャー。」
門の状態から町の暗い未来を想像していると、前を歩いていたシロが急かすように声をかけてきた。
どうやら早く先へと進みたいらしい。
そういえば、町を出る前から心なし嬉しそうに歩いていた気がする。
何がそんなに嬉しいのかと思ったけれど、よくよく考えてみるとシロは町の外に出たことがないんだった。
冒険者ギルドの訓練場で初めて召喚して、その後は僕とずっと一緒にいる。
これまでの僕は基本的に冒険者ギルドの中で過ごしていたし、たまに出かけたとしても近くの雑貨屋に買い物に行くくらいだった。
うん、それは嬉しいだろうね。
シロも僕と一緒に訓練のときに動いたりはしていたけれど、外を自由に歩くのとは違うだろうし。
なんとなくネコといえば自由気ままに散歩しているようなイメージもある。
そう考えると、もう少し色々なところに出歩けばよかったかもしれない。
借金のこととか訓練のこととかで、思ったよりも余裕がなかったみたいだ。
うん、冒険者としての仕事もできるようになったし、これからはシロと色んなところに出かけるようにしよう。
町からある程度離れたところで、街道沿いに歩いていた進路を変え、街道から離れるように草原へと入った。
ここまでも地面を見ながら歩いてきたけど、今のところ薬草と思われる草は見つかっていない。
街道の近くには薬草が生えにくいのだろうか?
街道から離れてから1時間、草原の中を探し続けたけれど薬草がほとんど見つからない。
悲しいことに現在の成果は3本だけだ。
さらに言うと他の生き物も見かけていない。
ワイルドラビットでも見かければ、訓練の成果を試すためにも狩ってみようと思っていたのに。
さすがに町が見える範囲の草原で簡単に依頼が達成できるほど甘くはないらしい。
でも、あまり町から離れたところまで薬草採集に出かけると今度は食堂の手伝いの時間までに戻ってこれなくなる。
森の中に入れば町から近いところでも薬草が採集できるのかもしれないけど、正直まだ森には入りたくない。
キースさんたちの話によると、この世界に来た日に襲われたワイルドウルフは普段は森の奥にいてそうそう出会うものではないらしい。
だけど、あの時の恐怖をまだ覚えているので積極的に森に入りたいとは思わない。
それにギルドマスターとの訓練で弓や短剣などのスキルは取得できたけれど、僕のレベルは上がっていない。
レベルを上げるには相手を倒す必要があるらしく、訓練では上げることができなかったのだ。
そういう理由があるので、まだ僕は森に入るつもりはない。
借金の返済を考えると、いずれは森に入らないといけない日が来るとは思うけれど、まずは比較的安全な草原でレベルを上げてからだと考えている。
……なんだけれど、満足に依頼が達成できないようでは考えを改める必要があるかもしれない。
あるいは、エミリアさんにお願いしてランチタイムの手伝いを免除してもらうかだろうか。
幸いこの世界にも魔法道具という形で安価に時計が存在しているので時間を管理することはできる。
けれど、時間を管理できてもそもそもの時間が足りないのでは話にならない。
結局、食堂の手伝いに間に合うギリギリまで薬草を探してみたけれど、追加で薬草を2本見つけただけで依頼の達成とはならなかった。
薬草採集は特に期限が設けられているわけではないので1日で10本の薬草を揃えなければいけないということはない。
それでも採集してからの日数は短い方が良いので短期間での採集が推奨されている。
というか、普通は1件以上の依頼を達成してその残りが翌日以降に持ち越される感じだ。
ただの薬草採集の依頼を何日もかけてこなすようでは話にならない。
町へと帰った僕はそのまま食堂の手伝いへと向かい、憂鬱な気分を抱えたまま冒険者としての初日を終えることとなった。