7.敗北
7.敗北
燃え盛る縄の熱気にあおられ、ハヤトの体から噴き出した血は驚くほど早く乾いていく。
ぴくりとも動かなくなったハヤトの死体を見て、ミホは慟哭する。
守りたい人だった。
守らなければいけない人だった。
一緒にこの世界で仲間だからではない。ミホにとって、ハヤトは自分の命に換えても守るべき存在だった。恋心とも違う。それよりも遥かに強い、自分の存在の根源に近い何か。それがミホのハヤトを守る意志を形作っていた。
「君は、何者なんだ。かつてこの世界には僕と彼しかいなかった。君が現れてから、この世界はおかしくなったんだ。どうして君は僕の邪魔をする?」
仮面をつけた少年はミホにいう。ミホは涙を拭い、憎悪の炎をともした目で少年を睨む。
「許さない……。絶対に……!」
ミホは刀を構えて少年に斬りかかる。少年は一切動じることなくその斬撃を受けた。
しかしミホの刀は何の抵抗もなく少年の体をすり抜ける。ミホは何事かと目を見開いた。
「この世界で僕に歯向かうなんて不可能だ。外から勝手に人の領土に入ってきた君なんかには、僕に傷一つつけることすらできないだろうさ」
ミホは手を広げて、そこに現れた黒いバラの花をふわりと刀の上に落とす。先ほどと同じように刀はバラの花びらと蒼い炎をまといはじめる。
この攻撃はかなり強烈に生命力を消費する。立て続けに二発も撃てば、確実に生きてはいられないだろう。
しかし、それでいい。
ハヤトを殺したこの憎い男を、殺せるならば。
ミホは距離をとって刀を振るう。蒼い炎の奔流が少年に向かっていき、直撃した。
だが。
「無駄だよ。僕に攻撃できる存在は、そこの死体の男を除いてこの世界に存在しないんだ」
少年の体には傷一つついていなかった。少年は先ほどハヤトに突き刺した刀を手に取り、ミホに一瞬で接近し、そしてその胸を貫いた。
「さて、これでまた最初からやりなおし。苦しみの続きってわけだ。だけど時間を戻すと君も復活してしいまうんだよね。まったく。厄介なもんだ」