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9.誕生①
9.誕生①
「生まれた……。生まれたんだ。俺たちの息子が……っ!」
男は泣きじゃくりながら生まれたばかりの赤ん坊を抱え上げる。そしてベットに横たわる妻に向けて何度も何度も「ありがとう」と言い続ける。
「あなた。この子の名前。もう考えてる?」
妻は男に問うた。男は「ああ、もちろんさ」と言いながら、下手な毛筆で書かれた紙を妻に見せた。
『颯人』男の持つ紙には、そう記されていた。
「この子を授かる寸前に夢で見たんだ。そしてこの子の名前は、この文字しかないって思った」
「えっと、なんて読むんだっけ」
「普通に読むとハヤト、だな」
「ハヤト……。いい名前ね」
「そうだろう。ハヤトー。俺たちがパパとママだぞー」
男は赤ん坊を妻に返しながら、涙を拭いて少し鼻をすすった。