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恋愛契約

続き

「私も暇じゃないんだけどな」

その一言がぼくに突き刺さる。

普段ならなんてことなくても、このときばかりはナイフのように心をえぐり取っていく。

ぼくの気持ちを察してか、ふぅと一息おくと、諭すように目を見つめてきた。

「ちゃんと言葉で伝えないと相手は確かめようがないんだよ。大事なことこそ、ね」

それだけで彼女はまた髪を撹上げ静観に戻った。


必死に、何とか言葉を組み立てようとするが全く形にならない。

心臓はドクドクと脈動し、彼女に聞こえてしまいそうなほど音をたてている。

いま傷口を止血している暇はない。

喉を振り絞って、ようやく言葉を紡ぐことができた。

「好きです」

「うん。私も好きだよ。友達だからね」

そうじゃない。いいたいことはもっと違う意味であって。

彼女のいった通り、ちゃんと言葉で伝えないといけないんだ。

「その、特別な一人として、好きです。付き合ってください」

ドッと汗が吹き出すのを感じる。

緊張で目眩までしてきた。

どこからか金属バットの快音や運動部の掛け声は聞こえど、彼女の声はない。

どんな表情をしているのか確かめようにも、よくない考えが頭を掠め、下を向くしかなかった。


リップ音が鳴る。

すぐさま、ぼくは目をつむる。

「その、気持ちは嬉しいけど――」

駄目だったか。そりゃそうだ。ぼくらは友達なんだから。

「うん、ごめん。急に呼び出して悪い。厚かましいけど、これからも仲良くしてくれると嬉しい」

顔を見られないよう後ろを向いてその場を去ろうと足を踏み出した。

が、同時に呼び止める声が聞こえる。

「いったよね、ちゃんと言葉にしてって。それは聞く方だって一緒だよ。最後まで話をさせて」

みられることも厭わす、ぼくは反射的に振り向いた。

「私とあなたじゃ好きの意味が違うと思うの。だから今は気持ちに答えられないと思う。でも、付き合ってみればかわるかも」

「それって――」

「こんな私でよければ、よろしくお願いします」


「――はぁぁ。よかっだぁ」

「あー頑張ったんだねぇ。うんうん」

緊張の糸が完全に切れ、格好をつけようとする気すら保てなくなってしまった。

まあ、彼女も受け入れてくれているみたいだし、しばらく甘えておこう。


ようやく気持ちが落ち着き、改めていまこの瞬間を認識できるところまで持ち直せそうになったとき、また爆弾がとんできた。

「さて、さっきはああいったけど、付き合うにあたって条件がひとつあります。いつかを待つのは私の性分じゃないから、とりあえず付き合うのは1年間限定で。」

「つまり、1年後には別れたいってこと?」

目の前で閃光が散る。視界がまた揺らいできた。

「一年間で好きにさせてみろっていってんの。私も好きになる努力はするから、あんたは好きになってもらう努力をしなさいってこと。付き合うってゴールじゃなくスタートだって理解してる?」

いわれてみれば、彼女の意見ももっとである。よく考えてみれば、ぼくは彼女のことをほとんど知らないし、彼女もぼくのことをあまり知らないだろう。知っているようで知らない。

ただの同級生同士なんてそんな関係だ。

「つまり、一年間付き合ってみて、ライクからラブにさせればいいってこと?」

「あー、うん。それでいいや、分かりやすいし」

彼女はほんの少し眉間にシワを寄せながら答えた。自分では完璧だと思っていたテストが微妙な点数で返ってきた、そんな顔をしている。


「とりあえず、よろしくでいいのかな」

再度確認をとる。

彼女は告白に答えてくれた。

その事実は変わらないと信じて。

「そうだね。これからよろしく」

なにはともあれ、こうしてぼくと彼女の一年間の恋愛契約が始まった。

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