ぼくと彼女と
初投稿です。
気まぐれで更新する予定です。
「――それで、話って?」
髪を撹上ながら彼女はぼくに問う。
対してぼくは、なにもいえずに呆然と立ち尽くし固まっていた。
――ぼくは彼女に恋をしている。
それはいつからだと問われると、気がついたらとしか答えようがない。
彼女を目で追いかけるようになっていたり、通学路で出会える時間に登校するようになっていたりと、なんとなく彼女のことを考える時間が増えていったのは確かだ。
ただ、昔のぼくは――それが恋心と――まだその感情に名前を付けていなかった。
自分のなかで育っていた萌芽を、はっきりと自覚したのは高1の冬だろう。
その頃の自分といえば、毎日を消費するように生きていただけだった。
授業は半分寝ていたし、部活にも塾にも行っておらず、特にすることもなかった。
放課後はてきとうに友達と駄弁り、気が向いたら家路につく。
当たり障りのない生活サイクルを繰り返すだけの日々。
そんななか、唯一の楽しみが彼女と時間だった。
彼女とは、中学のとき同じ趣味を持つ同士の集まりで出会った。
その頃は同じ楽しみを共有できる数少ない友人のうちの一人としてしか見ていなかった――と思う。
だが、環境が変われば自ずと人は変わってしまうものだ。
進学してもまた同じように過ごせると漠然と考えていた自分に、落雷のごとく災難が降りかかった。
やれクラスは違うだの、やれ課外活動があるだの、やれ塾に行くだの、一つ一つはよくある話で、そんなものかとも思えることだが、それが一度にとなればまた話が変わってくる。
要するに時間が合わなくなったのだ。
仲間がそれぞれ新しい環境で、新しいコミュニティを築いていった。
受け身で生きてきたぼくは、その変化についていくことができずに取り残されていった。不幸中の幸いだったのは、変わらないものもあったことと少ないが新しい友人ができたこと。
居心地の良かったコミュニティは人を変え細々とながら続いていった。
しかし、彼女についても例に漏れず、気がつけば離れ離れになっていった。
それでも学校という枠に所属している限り、全く彼女と会わないことはなかった。
下駄箱や廊下ですれ違ったり、合同授業で一緒になったりと、声をかける機会は危惧していたよりも断然あった。
その緩急がいい肥料になったかもしれない。
「おはよう」の一言が堪らなく嬉しく感じたし、登下校の時間が被った日なんてそれはもう大変だ。
今のぼくからすれば、それはもう恋以外の何者でもないと断言するが、そのときのぼくといえば……。
そんなぼくにも転機が訪れた。
進級に伴うクラス編成の時期。
特にやりたいこともなかったので、就職かあるいは資格を取るために専門学校への進学か、そのどちらかで考えていた。
新しくできた周りの友達もだいたいが同じような話をしてたので、来年度も今の友人たちと同じクラスになれそうなことにホッとした。
が、よく考えてみると――はじめから予見できていたことだ――就職組と大学進学組に別れてしまうといっているようなもの。
つまり、彼女と同じクラスになることはなく、今まで以上に関係が希薄になることが目に見えていた。そこではじめて焦りを感じたぼくは、何とか関係を維持出来ないかあれこれ対策を練ってみた。塾に通えないか、今から進学組に希望を変えられないか等。
そこまで思い至り、なぜ自分はこんなことをしているのだろうと、当然の疑問が生じた。
ここまでぼくを突き動かす彼女は何者で、ここまでぼくを駆り立てる感情は何物なんだろうか。
様々な思考が濁流のように脳内を駆け巡り、すべてがきれいさっぱり流された跡には「恋」の一文字が残った。
そこからは早かった。
恋人になって、さもすれば離れることはないと予想すれば、恋人になるために気持ちを伝えなければとなり、告白するために彼女を呼び出したところまではいいが緊張で頭が真っ白になり――今に至る。