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魔眼は夢をみる  作者: 聖堂 天音
第一章 異世界に生まれ落ちて
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第7話 作戦会議と事情説明(2)

 バーツ公爵家の人たちの話を聞いてからずっと不思議に思っていることがある。


 アヴィールに限らず、この世界では市民あるいは平民と呼ばれる一般人の上に貴族がいて、そのさらに上に王族がいて、その王族で一番偉いやつが王となっている異世界お馴染みの身分制度が当たり前に存在する。


 前世の世界のように国民が国の代表を選挙で選ぶのではなく、国土と民を守るだけの実力……分かりやすい例が魔眼だけど、それ以外の分野でも活躍すれば評価されるんだよな。それがこの世界の最大の特徴だと思う。


 とんでもない威力を発揮する、難易度の高い魔法が使えるとか、交渉が誰よりも上手く外交で大活躍とか、そういった「他者より優れた部分がある」ことが大事にされ、その実力が素直に認められやすい。様々な種族が住んでいるこの世界では弱者が政治や国の中枢に関わることができない。


 理由はシンプル。

 この世界には魔法があるから。


 血筋とか政治のバランスとかを優先で魔法を扱えないやつを国の重要職に就けた結果、敵国の刺客の手によってサクッと暗殺される可能性があるのだ。


 重要人物が暗殺されたことによる混乱、国民に与える精神的ダメージはヤバい気がする。


 暗殺され、どうしてそんな無能をその役職に置いたと抗議が集中するはずだろうし、外交問題にもなるかも知れない。


 なので血筋を贔屓にした縁故採用は重要なポジションであればあるほど、不可能になると考えていい。


 前世の世界みたいにコネでなんとかなることは絶対にない。


 今までに聞いた話をまとめると『高位の家柄でありながら魔眼持ちが生まれない状況が長く続き、国の未来をきちんと考えない発言をしており、なおかつ種族差別を平気でする思想に染まった究極の馬鹿』が強い影響力を持っていることになる。


 それは実力主義上等なこの世界の基本と矛盾してないか?


「彼……ヘイグ侯爵が厄介な扱いになっている最大の理由をまだ話してなかったね……」


 養父が暗い表情で口を開いた。


 なるほど。件の貴族はヘイグ侯爵っていうのか。


「今のアヴィール国王は、ヴァンダール王国最後の国王の弟君の子孫にあたる。そしてヘイグ侯爵は初代アヴィール王の子孫なんだよ」


「……へ? ……あれ!?」


 俺は今聞いた話に驚いた。聞いた話をもとに家系図を作り、整理をする。


 ええと、つまり……?


「もしかしてアヴィールの初代国王って、帝国の傀儡として立てられたのか!? 王家の血を引いてない奴が国王になったのか!?」


「アオイ! 落ち着きなさい。……アヴィール初代国王陛下…アンドリュー様は帝国の支援という名の命令を受けてアヴィールを建国し、初代国王として即位なさるも、皇帝を心底嫌っていた御方だった。アンドリュー様は皇帝の命令を守りつつも、その中に抜け穴があるのを見つけ、生き残ったダルジア人たちを密かに保護してくださった。……それでも過酷な状況であることに変わらはなく、その状況をイステンスの英雄に伝えられ、彼女の支援を求めた。英雄の手助けもあり、アヴィールは帝国の支配から自由となった。アンドリュー様は『ダルジア人ではない者がこの地を治めるべきではない』と明言し、帝国崩壊から数年後に退位。アヴィールのために戦う剣であり、民を守る盾となると誓い、後に初代ヘイグ侯爵となった。後継には、ヴァンダール国王最後の国王陛下の弟君で、当時イシュヴァレン伯爵が新たな国王に相応しいと指名して、手にした全てをお譲りになった、素晴らしい御方だよ?」


 養父の説明でいろいろ理解できたものの、ある部分で俺は絶句した。


「……アヴィールの二代目国王がイシュヴァレン伯爵だった……?」


「そうだよ。イシュヴァレン伯爵家はヴァンダール王国時代から存在する、由緒正しき古い家系で、ヴァンダールの長い歴史の中で何度も王族と婚姻を結んでいる家だよ」


「じゃあ、今のイシュヴァレン伯爵家は……」


 俺のその疑問にダニエルが笑顔で答えた。


「アヴィールの二代目国王陛下となられたサリエル様には二人の王子がいたんだ。兄は三代目の国王となり、弟はイシュヴァレン伯爵となった。つまり、今の王家とイシュヴァレン伯爵家は血のつながった親戚だね。ダルジア人であることを馬鹿にする連中はイシュヴァレン伯爵家が大嫌いなんだよ。伯爵家なのに格が高すぎるから」


「待て待て待て! 帝国が作り上げた差別的な思想に、今のヘイグ侯爵が染まってるって、アヴィールの歴史的に不味すぎないか!?」


 初代ヘイグ侯爵はダルジア人を保護し、国の統治者はダルジア人であるべきと言い切っていた以上、子孫がそんな思想に染まり、国を乱すとか、ヤバすぎる!


 単なる醜聞の枠におさまらんだろ!?


「……だからこそ、取り返しがつかない事態になる前に潰す」


 養父の険しい表情に、どれだけヤバいぐらい切羽詰まってるのかを理解した。

 アヴィールと国境を接する北の大国が不穏な空気に包まれているのだ。今、国が乱れることは許してはいけないのだろう。


「アオイ、これで大体の事情はわかったかな?」


「おう!」


 親指を立て笑顔でうなずくと、イシュヴァレン伯爵は小さな笑みを浮かべた。


「話はまとまったな? 次はイステンスの使者殿と会わせねばならんな」


「そういや、外国も巻き込んで潰すんだっけ?」


「イステンスでもあの国は警戒されてるからね。下手をすれば第二の帝国が生まれるかも知れないから……。まぁ、もともとアヴィールとイステンスの関係強化の取り決めのためにアヴィールにお越しになる予定だったけれどね?」


「国内の恥を潰すのに協力とか、どうなってんだよ……」


「いやぁ、これはおまけの話なんだけど、ヘイグ侯爵はイステンス産のワインが大好きでね? イステンスで最高級と言われている、とあるワインを権力と血筋を振りかざして無理矢理買ったらしいんだよ。……イステンスの王太子殿下が手に入れるはずだった最後の一本を……」


「……念のために聞くけど、外交問題には……?」


「なったとも! 対応は父とイシュヴァレン伯爵が直接イステンスに赴き、イステンス国王陛下と王太子殿下に謝罪することで一応解決したよ」


 また養父の顔に影がさす。相当な修羅場だったようだ。


「で、使者殿はその騒動を直接見てきた御方でね? ダニエル君とアオイが婚約すると伝えたら、ぜひ祝福させてくれ、と」


 つまり、その時の怒りをぶつけるための参加表明ですか?


「ヘイグ侯爵を潰すとしても、家を完全に潰したいわけじゃないんだろ?」


「もちろん。侯爵の子はなかなか見込みがある子だし、なんだかんだでアヴィールの歴史を考えれば、当主は嫌いでも、家を潰すことに反対する者はたくさんいる。元凶である当主が政治の中心から離れ、屋敷で静養すればいいだけだ」


 はっきりと養父が言い切ると、イシュヴァレン伯爵は深くうなずく。

 ダニエルはそんな大人二人のやり取りを面白そうに見ていた。


「レギウス様、ウヅキ・リード様がお越しになりました」


 ウヅキだと!?


 ロバートが口にした、なんだか妙に日本人っぽい名前にびっくりした。


「ああ、もうそんな時間か。使者殿をこちらに案内してくれ」


「はっ!」


 ロバートが丁寧に一礼し、部屋を出ていく。

 そしてすぐに眼鏡を掛けた青年を連れて戻ってきた。


「はじめまして、君がレギウス様が引き取ったという子だね? 僕はウヅキ・リード。爵位は無い、イステンスの小役人だ」


 にっこりと笑う顔はとても優しい。差し出された手を握りつつ、俺はかなり焦っていた。


 名前の意味、聞いちゃダメかな?


 今まで会った人は皆、いかにもヨーロッパの人、みたいな名前だった。

 俺みたいに日本人風の名前に一人も出会わなかった。

 だからこそ、名前を付けられないで捨てられ、保護された時にアオイと名付けられた時はかなり驚いた。


「あの……」


「うん? なにかな?」


「変わったお名前ですね」


 とりあえず猫をかぶった、ちょっと丁寧な口調で聞いてみることにした。


「ああ、僕は東方の移民の子なんです。リードは父がイステンスの人だったので使ってますが、移民は本来、姓を持ちません。また、名前もかなり独特なんです」


「じゃあ、もしかして……!」


「アオイ、という響きから察するに君は移民の子かと。外見も彼らに似てますし。君は生まれてすぐに捨てられていたのを町の警らに保護されたと聞いています。……君が捨てられた理由も心当たりがありますよ」


 ウヅキのその言葉に養父が反応した。


「それは本当か?」


「ええ、移民である母や、母の親戚から聞いた話を元にした推測になりますが……」


 そう言うと、小さなため息をつき、しっかりと俺の目を見ながら話し始めた。


「移民の彼らは魔眼に関してかなり無知なんです。祖国で平民でも受けられる教育すら受ける余裕が無く、子供を働かせ、今日を無事に生きるための金を得るのに必死だったからです。しかし、必死に働いても抜け出せない貧しさに耐えられず、より良い生活を求め、祖国より豊かな国に移り住もうとします。ですが、イステンスやアヴィールでは簡単な読み書きや計算が出来なければ、ちゃんとした仕事に就けないことが多く、そのせいでずっと貧しい生活となります。移民である彼らが就ける仕事の選択肢が狭すぎるせいで、魔眼持ちの子が生まれれば金持ちになれる可能性自体を知らず、『妙な見た目の子を産んだ』と思い込んでしまいます。また、幼いうちは暴走することもあるため、化け物ではないかとも考えてしまい、我が子でありながら捨ててしまうんです。悲しいことに」


 俺が昔、施設にいた頃に考えていた以上の酷い推測に開いた口がふさがらなかった。


 前世でも発展途上国の貧困と、それ故の無知からくる悲劇はテレビで知っていた。だが、それが自分の身に降りかかるとは思ってもなかった。


 だが、考えてみればこの世界にはテレビもインターネットも無いのだ。余裕の無い生活をする者がまともな情報を得る機会はかなり低いに決まってる。


「テレビもネットも無いって、こんなにヤバかったのか……?」


 思ったことをついうっかり口に出してしまった。慌てて誤魔化すように笑うが、しっかり聞いてしまったらしいウヅキはかなり驚いた様子だった。


「そんな……まさか……転生者……!?」


 彼の呟きにギクッとなる。なんで、その発想が出るんだ!?


 え? 前世の記憶を持ったまま、転生するのはわりと知られてんの!?

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