第5話 魔眼の少女(5)
なぜ、こうなった……?
イシュヴァレン伯爵だと名乗った男は養父と挨拶を交わすなり、すぐに広い庭に出て、お互い剣を持って打ち合い始めた。
伯爵は自身が持つ魔眼の魔法は使わず、身の丈を越す大きな剣を振り回している。養父は伯爵の剣の大きさや重さなど一切気にせず、愛用の普通サイズの剣で応じている。
その光景は異世界であっても異常な光景である。
……はっきり言おう。
異世界の脳筋、やべぇ!
呑気に観戦している養母に聞けば、あの二人は会えば必ず挨拶代わりに剣で打ち合うことが習慣になっているらしい。
「普通、挨拶代わりにやり合うなら、武器は同じものを使うんじゃないのか!?」
「普通の剣は父には軽すぎて、扱いづらいんだ」
俺の疑問を伯爵の息子が答えてくれた。
「はじめまして、アオイ。俺はダニエルだ。気軽にダニエルと呼んでくれ」
金髪金眼の美少年が笑顔で手を差し出してくる。乙女ゲームならプレイヤーは悶絶しそうな見た目だ。一応、まだ就学前の年齢だよな?
乙女ゲームなら、メイン攻略対象になりそうなタイプではある。
だが、あいにく俺は乙女ゲームで遊んだことはあるが、どっぷりハマることはなかったわけで。
「おう、よろしく!」
そう言って、差し出された手をしっかりと握った。俺の反応が意外だったのか、ダニエルは目を丸くした。
「どうした?」
「あ……いや……俺に対して、他のご令嬢とは違う態度を取られるとは思わなくて……」
「ん? 普通はどんな反応なんだ?」
俺がそう尋ねるとダニエルは言いにくそうな困った顔になった。
「その……うちが貴族の中でも名が知れた家柄なのと、俺の見た目のせいで……その……」
「もしかして、家柄と顔の良さのせいで、色気づいた女子がすり寄ってきて、疲れているのか?」
「アオイ、はっきり言い過ぎだよ!」
「思春期すら迎えてない子供が色気づいても意味無いだろうに、かわいそうだな」
俺のあまりにもな言葉に後ろで会話を見守っていた養母が絶句しているのが気配でわかった。
うーむ、前世で5歳ぐらいの時、俺はどんな思考回路をしていたっけ?
悩んでいると嫌なことを思い出してしまい、ため息が出た。
気持ちを切り替えようと、なんとなく養父たちの様子を見てみると、剣を打ち合う音に激しさが増し、本格的にヤバい空気になっていた。
「あれ、大丈夫なのか? てか、いつ終わるんだ……?」
「ん? ああ、大丈夫だよ。もうすぐ終わる」
俺が何を気にしているのかを知ったダニエルが苦笑しながら教えてくれた。
本当に勝負はすぐに決まった。
養父が間合いを詰め、脇腹に剣を当てる寸前で止めたのだ。
審判役を務めていたジェームズが、養父の勝利を高らかに宣言する。
「相変わらずだな、レギウス」
剣を従者に預け、疲れた様子を見せない伯爵が笑顔で養父と握手をする。
「いえいえ、アヴィールの守護者と名高いルイス様に勝てたのは、まぐれに近いですよ」
「ははは、ようやく私から一本取れたのに謙虚なことだな」
脳筋同士、ずいぶんと気が合うようだが……へぇ、この世界には優秀な人に二つ名を付ける習慣でもあるのか……?
ん?
アヴィールの守護者……?
え……もしかして……ダニエルと結婚したら、荒事に巻き込まれる確率、上がる!?




