第2話 魔眼の少女(2)
さて、ここで俺がいる国について、サクッと説明しよう。
俺がいるのはアヴィール王国という、国王が一番偉くて、次に貴族が偉いっていう、身分制度がはっきりと存在する国だ。それはアヴィールに限らず、この世界共通のもの。
つまり、前世の娯楽のように、小説の主人公のように好き勝手に生きていたらアウトになるってことだ。教科書とかでしか聞いたことがない、侮辱罪とかがマジであるんだよ?
捨て子としてスタートした俺には侮辱罪の存在は怖すぎる。
この国の軍事というか、町の治安や国防を担当する組織は伝統的な騎士団が解体され、より近代的な『アヴィール王国軍』という軍隊として生まれ変わったばかりらしい。
この辺からも分かるように、いわゆるヨーロッパの古きよき時代から激動の近代的な時代に移り変わる時期に来ている。
魔法があり、不思議な生き物もいるファンタジーな世界だけど、この世界は確実に前に進んでいる最中のようだ。
何度も言うが『異世界の転生物をリアル体験中だぜ! 魔法生物がいるぜ! 魔法も使えるぜ! 主人公は前世の記憶があるから内政チートもできるぜ! ラッキー!』と喜んではいけない。
列車とか街灯とか、近代的な文明の利器が既にあるのだ。
文明が遅れ気味の世界に転生する、あれとは違う感じがする。
便利な物が無いからこそ、主人公がいろいろやらかして、騒動が起きるのが物語の肝になっているはずである。
言い換えれば、既に近代化の波が生まれてる世界で転生する意味ってあるんだろうか?
神様とかが居るなら、俺に何を期待してるんだろうか、と馬車に揺られながら現在悩み中。
俺を養子にする手続きは何の滞りもなく完了し、俺はレギウスとアウローラの義理の娘となった。
現在はバーツ公爵家の当主に会うために馬車に乗り、バーツ公爵家の屋敷に向かってる最中なのだ。
公爵家の人なのに馬車移動なあたり、まだ自動車は生まれていないっぽいな。
「アオイはアヴィール以外の国のことをどこまでわかっているんだい?」
義父のレギウスが、穏やかにたずねてくる。
「ん~? 列車や室内の明かりとか、今までの生活を一変させる物や技術が北の大国から流れてきているってだけ」
「なら、その北の大国がその技術力と魔眼持ち、両方を活用した、新しい部隊を作ったと聞いてどう思う?」
……待て、5歳児にする話かよ。
まぁ、普通じゃないのはバレちゃってるから、仕方ないのか。
「今すぐの脅威は無いだろうけど試験運用と称した問題が国境付近で起きるのは覚悟したほうがいいかな?」
元の世界でも新しい兵器の運用に関する試行錯誤がスゴかったらしいからな。
新しい武器や戦術は一朝一夕に使いこなせるもんじゃないのだろう。
「その間に打てる対策は打つべきだと思う。特に列車を生み出すような技術者が、別の物を生み出してないわけがない」
元の世界のあの発明王だって有名なやつ以外にもいろいろ作ってたらしいから安心はできない。それでアヴィールが徹底的に痛めつけられる可能性もある。
「最善はその技術者の暗殺。理由は技術の発展の阻止」
「身柄の確保は駄目なのね?」
義母のアウローラも興味深そうに聞いてくる。
「そんなのやってしまったら、技術者の奪還を名目にその部隊がアヴィールを攻める口実を与えてしまう。暗殺なら証拠さえ残さなければ、犯人は不明だからいきなり戦争になることは無い……かな?」
「なるほど。だからこそ技術者の暗殺か」
「既に存在するものはどうしようもないとして、まだ構想を練ってるか、完成していない段階のものは潰せるはずだし」
てか、潰したい。主に俺がそれで戦場で殺されないために。
「本当に我が国の馬鹿どもにアオイの言葉を突きつけたい。なぜ、わからないんだ! と」
「噂でしか知らないが、そんなに深刻なのか? 古いもの好きは」
あ、俺の口調はこのままで良いと言われました。ただし、身内限定で。
まぁ、公爵家の関係者がこんな口調で社交の場に出たら駄目だよな。
古いもの好き。
列車に代表されるような近代的な機械類が苦手な年寄りの愚痴レベルのものから、徹底した機械嫌いまでを指す、古い時代の生活をありがたがる人間のことだ。
昔のほうがよかったと語って、昭和のよくわからん不便さをありがたがる、みたいな?
平成の世のハイスペックな家電を無駄にこきおろし、アナログが一番とか、比較とか一切せずに決めつける、みたいな?
それが庶民の無駄な意地の張り合いなら、被害はそいつの家族限定だろう。家族からしたら迷惑極まりないが、国の迷惑にはならないよね。
ただ、国の上層部の思考回路がそんなんでは困る。
サービス提供が受けれないからパソコンを新型に替えたいです、と訴える社員の話をまったく聞かず金を出さない有害上司、という例が分かりやすいかな?
それで他国から、戦争したら勝てるんじゃないかと思われ、本当に戦争になって負けたら、そいつは発言の責任を取るんだろうか?
二人が必死に一部の上層部の態度に焦るのもわかる。
身分制度があるとはいえ、独裁ではない限り、軍隊の運用の仕方を変えるには、大臣とかの承認が必須だからね。
「北の大国が不穏なのに動かないのは不味い。バーツ公爵家当主は国王陛下の弟にあたり、多少の発言力はあるが必要以上に強く言えば、国を割る可能性もある」
バーツ公爵家って、そこまですごい家だったか!
いや、外国のお姫様の嫁ぎ先になるぐらいだから、凄い家柄なのは最初からなんとなくわかっていたけど。
「なるほど。北の大国と戦争になりそうな気配があるからこそ、国内でゴチャゴチャしたことをしたくないのか……」
俺の言葉に二人はうなずく。なんとなく国内の政治的な事情がわかってきた。
アヴィール王国の国王と、王弟であるバーツ公爵は兄弟仲が良いらしい。だからこそ、下手に国内の有力者と対立したくないんだろうな。
王族ではなく公爵になったのも、王の臣下だと内外にはっきり見せるために頑張った結果なんだろう。
王族のままだと影響力がありすぎて、国を割る可能性があるから公爵になったというのに、一部の貴族にそのせいで嫌われてるようだ。
王族だったころに甘い汁を吸おうと近づいた馬鹿か?
だからこそ嫌われることを覚悟で、ちょっと命令っぽく言っても素直に従わないのかな?
それで王家と公爵家を嫌うあまり、北の大国に呑み込まれてしまうと更にヤバくないか?
……今更ながらに気づいたが、この国、本当に大丈夫か?
北の大国が不穏なのに貴族が従わないせいで、戦う前からピンチってことだろ!?
「アオイには苦労をかける。5歳の女の子なら、まだまだ遊んでいる年だ」
たしかに普通ならそうだ。少なくとも、国の一大事に頭を抱える年じゃない。
「頭の固いやつのせいで無駄死にしたくないので、頑張ります」
現場の指揮官が戦争中、なんでも仕切れるわけでない。
ある程度は国の方針で作戦とかが決まっているため、俺に立っている戦死フラグを回避するためにはまだそんな動きがある、っていう程度のうちになんとかするべきだろう。
魔眼持ちは有事の際、頼りになる戦力扱いなので、俺の意見が完全に無視される心配はないはずだ。
……人の忠告をきちんと聞くやつが上にいるならな?
そこが絶望的な面子にならないよう、軍の偉い人を信頼できる人で固めることが大事だろう。
「もしかして俺が餌になって、状況を理解しない馬鹿を退職に追い込むのか?」
娯楽小説で使われていた、嫌な奴を追い落とすやり方をいくつか思い付いたが、貴族の常識や習慣も元の世界と同じではないはずだ。
本当に実行可能かはあとでゆっくり検討するべきだね。
「ああ、父も反対はしないだろう。陛下も変わることには賛成していらっしゃるからな」
おし、最高権力者の全面協力のもと、この国を変えれそうだ。頑張るとしよう。
そんな決意を固めたタイミングで、俺たちを乗せた馬車がバーツ公爵がいる屋敷に到着した。




