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魔眼は夢をみる  作者: 聖堂 天音
第一章 異世界に生まれ落ちて
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第17話 二人の叔父さん(1)

 王都ヴァンの駅は首都にある駅だからか、エリュンの駅より大きくて立派な駅だった。

 駅の利用者をあてにした様々な商売も盛んなようで、駅前広場では大道芸を披露する者や軽食を売る屋台があるなど活気に満ちている。

 着いたホームに二人の叔父さんの姿がなく、代わりに一人の使用人が一通の手紙を携えて出迎えてくれた。

 手紙には叔父さんたちの居場所や、駅には居ない理由が書いていた。どうやら二人は今、ヴァンにあるバーツ公爵家の屋敷に居るらしい。

 最初は駅ホームで待ち合わせていたけど、エリュンで起きた騒ぎのせいで、待ち合わせはせず、部外者が入り込む余地がない屋敷に変更したようだ。


 ……いつ、その騒ぎに関する連絡が叔父さんたちに届いたのだろうか?

 そして、なぜその連絡手段で待ち合わせ変更を伝えず、置き手紙?


 いろいろ突っ込みたい衝動にうずうずしていると、ウヅキが「私はここまでですね」と言って俺たちとサクッと別れてしまった。

 王都にあるイステンスの大使館っぽい役割のとこに行かないといけないらしい。

 ウヅキと別れた後、ホムラも馬車の座席の数が限られることを理由に実体化を解いてもらった。

 駅舎の近くで待機していたバーツ公爵家の馬車に乗り、ヴァンの中心地にある貴族の屋敷が建ち並ぶ一角を目指す。

 そして30分ほどで着いたバーツ公爵家の屋敷は俺の想像よりこぢんまりとした建物だった。

 上位貴族の屋敷として相応しい雰囲気というか、格式高い感じはあるみたいだけど、一般住宅より少し広々とした部屋がいくつかあるだけの質素な雰囲気で、バーツ公爵領にある屋敷に比べてかなり差がある気がする。

 あくまで俺の個人的な感想だから、価値が分かる者が見たら圧倒される建物である可能性があるけど。


「ああ、この屋敷が小さいことが不思議なのね? 貴族のみが屋敷を建てることが許されている区画であっても、一つの家が使える広さは国によって決められているの。王都はこの国で一番住民の数が多いから、王家に近い高位貴族であっても好きなだけ広い土地を持てるわけじゃないのよ。外敵から王都を守る防壁があるから使える土地に限りがあるのよ」


 ああ、平和な日本で生きていた俺からすると街を囲む壁があるなんて窮屈そうなんだけど、壁が無いのは自殺行為なんだろうな。魔物とか魔獣がいる世界なんだし。壁があって窮屈になってるからたとえ貴族であっても屋敷が小ぢんまりとするのか。


 バーツ公爵は連れてきた使用人たちにいくつかの指示を出した後、二人の叔父の居場所に心当たりがあるのか、屋敷にいる誰かに居場所を尋ねることはせず、迷わずに真っ直ぐ歩いていく。その姿を見た俺は興味津々であとをついていくことにした。


 二人の叔父さんは中庭にいた。

 観賞する花や木が必要最低限しかない庭は無駄に広々とし過ぎてる印象だ。

 持てる土地の広さが限られるからこれは広さを演出する工夫のひとつなんだろうか?

 この世界の文化はたまによくわからない。


 二人の叔父さんは大粒の汗をかきながらかなり本格的な稽古をしていた。

 なんだ、このシチュエーション。

 バーツ公爵に初めて会った時を思い出す光景だ。


 父さんより少し若い印象の見た目だな。たしか弟二人って言ってたから若く見えるのは当然か。

 一人は金髪の長い髪にトカゲの尻尾みたいなのがある、ずいぶんと特徴的な若い男。ちょっとチャラチャラした感じの明るい雰囲気だ。バーツ公爵家の一員というか、貴族に見えないな。

 彼の手にはかなり洗練された現代的なデザインの銃が握られていた。


 ……は? この世界になんで銃があるの!?

 タジャールか!? またタジャールのアホな転生者が後先考えずに作り出したのか!?


 どっかの転生者がこの世界に持ち込んだと推測できる状況に唖然とする。剣の魔法と不思議な生物がたくさんいる世界に銃ですか……?

 銃が出てくるファンタジー系RPGゲームとかあるけどね?

 動力源不明の列車がこの世界に定着してる時点で予感はあったけどさぁ……?


 どうやら弾は元の世界のように実弾ではなく、魔力を弾の代わりにして撃ち出す仕組みらしくどうやら弾切れがない。ふむ、そこはファンタジーな世界らしく魔改造がされてんのか。こんな風にアレンジしてるということはそのまま再現は難しいということか?


 そんな物騒な武器を持つ彼と戦っているのは左右色違いの眼と犬っぽい獣の耳と鋭い爪を持つ、まだ青年と呼べるほどに若いの男だ。

 基本的に剣で戦うスタイルらしいが、たまに左手の猛獣の爪っぽいやつで狂暴な獣が敵に飛びかかるように攻撃する姿がなんだか格好いい。

 彼の獣耳は犬系っぽいんだけど、ウヅキから人狼はいないと聞いてるから違う系統の獣人なんだろうな。


「……父さん」


「なんだい?」


「兄弟で種族が違うことってあるんだ?」


「うん、様々な種族と異種族婚を繰り返す家系なら本当に稀だけれど起こることだよ。特に王族だと治める地に住む少数種族を庇護する目的でその種族の長の血縁者と婚姻することもあるし、兄弟で種族が違うことは特別おかしいことじゃないから以後発言に気をつけるようにね? 相手の受け取り方によっては差別発言になるから」


「はーい」


 様々な種族がいる異世界って複雑怪奇だなぁ……。

 親や兄弟で種族が違うからってすぐに血の繋がりを疑ったり、複数の妻を持ってて腹違いの兄弟なんだと思い込んではいけないってことだね。

 タジャールにいる転生者が結婚してできた子供が亜人獣人として生まれてきた場合、黎明はちゃんとその辺を説明してるんだろうか?

 異世界の知識を尊び、獣人亜人差別を率先してやってる組織だから不安だ。それに元の世界には「取り替えっ子」の話とかあったし、転生者が勝手に誤解する可能性もありそうだよね。

 

「訓練はそこまでにしなさい。新しい家族を紹介しよう」


 銃を持った叔父さん優勢になった瞬間にバーツ公爵がいきなり二人の間に割って入っていった。

 手には頑丈なロープのような物が握られており、バーツ公爵の手から勝手に離れると、まるで生き物のように動きだし、二人の叔父さんの足首を縛り始めた。


 危ねぇ! なんでわざわざ間に入ってくの!?

 あと、ロープの動きが本物の蛇みたいで怖い! 気持ち悪い!


「父上!?」


「……父さん、やめて……!」


 叔父さん二人もバーツ公爵の行動にびっくりし、動きを止める。


「手合わせに夢中になり過ぎだ」


「だからといって、これは無いでしょう!?」 


「怪我をしたくなかったのでな」


「普通に声を掛ければいいのに」


 二人の叔父さんはバーツ公爵の突拍子のない行動で冷静になったのか、武器を下げる。


「アオイ、二人に挨拶をしなさい」


 そう言うと指をパチンと鳴らし、ロープの拘束を解く。なるほど、これがバーツ公爵の魔眼の魔法なのか。想像以上におっかない。


「はじめまして、アオイです」


 俺は戸惑いながらも叔父さんたちに向け、淑女の礼をする。


「兄上から君の話を聞いた時は本当に驚いたよ。よく無事に見つけましたね。保護が遅ければ悪いやつらに捕まっていただろうに」


 トカゲの尻尾を上機嫌にフリフリさせながら中庭に遅れてやって来た父さんに声を掛ける。

 あれ? なんだか、顔が怖いぞ?

 父さんの手には一通の手紙が握られているが、あれが原因か?


「……大声で泣いていたところを町の衛兵に保護されたらしい」


 怒りを抑えた低い声にバーツ公爵が、仕方ないなと苦笑する。怒りの原因を知っているようだ。


「ああ、なるほど。彼らは定期的に町を巡回する任務があるからそのおかげで助かったのか。……うん。よかったね」


 俺に向ける笑顔がとても優しい。チャラチャラした印象はあるものの、その顔はバーツ公爵や父さんによく似ている。


「アオイ、彼はオリヴァー、一年ほど前からディジャス皇国で生活をしている。彼は見ての通り、ヒトの血を引く竜族だ」


 父さんはまだ静かに会話を続ける。叔父さんはそんな様子に気づかないのか、明るい口調で話し出す。


「やぁ! この国には竜族は皇国の関係者しか居ないから僕の姿にはびっくりしたかい? いくら貴族の異種族婚はよくあることはいえ、可能なら同族と結婚したいからね。僕に相応しいお嫁さんを探しに皇国に行ってたのさ!」


 その言葉が引き金になったのか、父さんの怒りが爆発した。


「……この馬鹿弟が! この報告はなんだ!? お前がメルヴィ皇女殿下と婚約する話を一方的に蹴った、と書いてあるが、お前の皇国行きはお前の望みを叶えるためためだっただろうが!?」


 どうやら叔父さんの婚約は政略結婚というより、個人の感情を優先した物だったようだ。

 額に青筋を浮かべた父さんが、説教をしながら叔父さんの頭を鷲掴みにする。


「兄上、いくなんでもメルヴィ皇女殿下は若すぎます。僕は年上が好みなのです!」


「ふさげるな! 皇国で相手を見つけて同族婚がしたいと言い出した時も腹が立ったが、我々が伴侶を自由に選べると本気で思っているのか!」


「それは重々承知しています! ですが、僕は年上のお姉さんと熱い恋がしたい!」


 言い切った!? なんで!?

 うーん、どうも前世の母とは別ベクトルで突き抜けた性格っぽいな。

 でも、なんでだろう……。

 なんでいきなり婚約をやめたんだろう?


「オリヴァー、その『建前』をメルヴィ皇女殿下に話して泣かせてないだろうな?」


 ん? 『建前』……?


 ため息をつくバーツ公爵の質問にオリヴァー叔父さんは真顔になり、「していません」と静かに答えた。


「皇国に出発する前に予定されていた、メルヴィ皇女殿下との謁見がそもそもできませんでした。どうやら先日、暴漢に襲われたらしく、皇族の方々としか話ができる状態ではない、と言われましたよ。ですから本人の同意が得られなくて婚約話を前に進められませんでした」


「おい? それをちゃんと報告しろ!」


「兄上、大陸北部の大国であるディジャス皇国の直系の皇女が襲われ、精神的に大変な状態だという話は表沙汰にはできない話です。書面に書き残して良い話ではない事をご理解頂きたいです。『婚約話はまとまりませんでした。原因は私が年上好きなせいです』を理由にするしかないでしょう?」


「まったく……。お前はそう言って婚約話がまとまらなかった責任を背負い、逃げるように帰ってきたという訳か。……そういう奴なのはわかっていたが……」


「『建前ながらも叱る』ことで『年上好きが原因』が事実と誤認される……。それが大事なので先ほどはありがとうございます。なので、できれば今度の夜会でも同じように人前で叱ってくださると助かります」


 ひぇ……。すみません、俺は本音だと思ってました。てか、サクッと夜会のイベント、増やしてない?


「……お前はそれでいいのか。メルヴィ皇女殿下となら喜んで結婚すると言っていただろう? 一度婚約が駄目になってしまったら、少なくとも数年は会うことすら難しくなるぞ?」


「……姫殿下は兄さんと同じく、二つの種族の特徴を複雑に受け継いでいる容姿に深く悩んで苦しんでいるとのお噂を耳にして、『その苦しみを理解できるのは自分だ。姫殿下をお救いしたい』って言ってたじゃないか」


 バーツ公爵と獣耳の叔父さんが心配そうに声をかける。だけれど、オリヴァー叔父さんは首を横に振る。


「……そうだけれどね。今はそっとするのが一番だと思ったから」


 オリヴァー叔父さんは先ほどのチャラチャラした印象のある笑顔に戻ったけれど、それは本当にそう見えるだけで心の奥では様々な感情が渦を巻いて嵐のように荒れ狂ってるんだろうか。


 ウヅキによると死刑になるみたいだけど、元凶、許さんぞ。


「あー! もう! 僕の暗い話をしてもつまらないか! えっと、アオイちゃんには既に婚約者が決まったんだよね? どこの誰かな? たしかヘルゼ辺境伯の親戚筋は同じ年頃の魔眼持ちが多かったはずだからそこかな?」


「ええと、イシュヴァレン伯爵の息子のダニエルです」


「は? 兄上、父上、本気ですか!? あのイシュヴァレン伯爵家の次期当主夫人にするつもりですか!? あの家の特殊性は二人ともわかっているんですか!? アオイちゃんには荷が重すぎるでしょう!?」


「オリヴァー、そもそも我々に魔眼持ちの捨て子が預けられている施設の噂を教えてくださったのが、イシュヴァレン伯爵なのだ。魔眼持ちの養子を迎える気があるなら、アオイを引き取ってくれないか、と」


「あのイシュヴァレン伯爵が?」


「ダルジア人貴族が同族以外に関心を向けないのは我々もよく知っている。そんな彼がアオイに興味を抱き、息子の伴侶にしたいと望んだ。……何らかの思惑があったとしても不思議ではないがそれは尋ねても答えてはくれないのだろう。ダニエル君の婚約者にするなら相応の家格のある家の子にする必要がある。だからレギウスに噂話を教えたのだろう。バーツ公爵家の一員であれば誰も文句は言えないだろうからな」


 おおぅ、俺が引き取られた経緯を初めて知ったぞ。そういや、孤児の魔眼持ちの噂を聞いてやって来たって言っていたな。


「イシュヴァレン伯爵がアオイちゃんに強くこだわっている……?」


 疑問符を浮かべて考え込むオリヴァー叔父さんには悪いが、たぶん、そんな悪いことは考えてなさそうだよな。

 俺が出会ったあの人は相当残念な脳筋っぽかったからな。

 単純に息子の相手は魔眼持ちの同世代であんまり変な背景が無い子がいいだろう、ぐらいにしか考えてなさそうな人だった。


「兄さん、考え事をするなら、俺の自己紹介をしていい?」

「ああ、すまない。いいぞ」


「うん、ありがとう。俺はヴォルフラム、言いにくいならヴォルフでいい。職業は軍人で、普段は東の国境を守ってる。使える魔眼の魔法は『自己回復』。どんな怪我をしても魔力が尽きない限り自分だけ治る。それだけ」


「軍人なら自力で怪我を治せるのはすごいことじゃ?」


「治せるのは自分だけ。仲間は治せない。治癒系ではハズレの魔眼」


「いやいや、なかなか倒せないって敵の視点から見たら凄いことだと思いますが!?」


 ゲームでもボスバトルで敵が体力回復する能力があると長期戦になるから、すごいストレスが溜まって大変なんですが!?


「やはりたった二年ではその暗い性格は直らなかったか。有事の際、魔眼持ちの治療に手間が掛からないことは重要なんだが」


「父上、やはり学園で何かあったとしか……」


 ヴォルフ叔父さんの自虐気味な言葉にひそひそと話をする、父さんとバーツ公爵。


 学園って魔眼持ちなら絶対通うっていう、あの学校?

 ……いじめでもあったんだろうか?

 バーツ公爵の魔眼持ちの息子なら目立ちまくるだろうし。

 よし、それとなく聞いてみよう。父さんたちも気にしてるし!


「ヴォルフ叔父さん! 俺に学園のことを教えて! 俺、そこに通うことになるから!」


「……え?」


「ああ、それはいいね。ヴォルフ、私はこれから挨拶回りがあるから、アオイの相手をしてくれると助かるな」


「……いいけど、何を話せば……」


「どんな設備があるとか、どんな授業があるとか、いろいろ!」


 さっさと言えと言わんばかりに、むぎゅっとヴォルフ叔父さんの足に抱きつく。これはまだ異性と認識されない、ちびっこの特権である。

 俺の中身を知るバーツ公爵と父さんは複雑な顔をしているが、二人の叔父さんは甘えてくる小さな子供がかわいく見えるようだ。


「よかったら、僕の皇国の土産話も聞くかい? 皇国の流行りのお菓子も買ってるんだよね」


「……それって甘いお菓子?」


「すっごく甘いよ! 大丈夫、ヴォルフの分もあるから! 焦らないで! それでは兄上達は挨拶回りをしてくるといい!」


「わかった。アオイを頼むよ」


「まかされた!」


 そう言って、父さんは母さんを連れて近所の貴族たちを訪ねて出掛けてしまった。


 俺は二人の叔父さんに挟まれる形で居間のソファーに座り、たまにお菓子を食べながら二人の話を聞くこととなった。

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