第7話
まずは、紅百合さんのワールドへの進入許可を得て、街の冒険者ギルドへ行き、3つの依頼を受けた。
DMで、紅百合さんへと声を掛け、『まずは会いたい』と言われたので、「紅百合さんのところへ行きたいな」と言うだけで、紅百合さんの目の前に現れて、ビックリされた。
「(……何だ。まだお子様なのね)」
私の聴覚は、紅百合のその言葉を聞き逃さなかった。
……紅『百合』?年齢がもう少し上だったら、危なかったのか?
彼女は、紅色を基調とした和装の美女で、正直、男だったらお相手願いたい位だったのだが。
冷や汗を流しながら、依頼内容と、後で追加報酬について話すことを伝えた。
「……何で後でなの?」
当然の疑問だが。
「その報酬があったら、あの雑魚三種は敵じゃなくなります。
よって、その討伐という依頼を私が請け負うオイシサが無くなります。
私にメリットが無いなら、その報酬を与えるのは、貴女だけの一方的なメリットとなり、そんな希望を述べるなら、ホントに、情報に対する対価程度しか、提供するつもりがございません。
どう致します?」
「……追加報酬というのは、ぶっちゃけて言うと、何かしら?」
「武器です」
私は、そこは隠さずに公表することにした。
「……相当に強い武器なんでしょうね。
いいわ。
先に、あの雑魚三種を片付けて頂戴。
……あなたは特別かも知れないけど、正直、あの敵を全て相手にして勝つのは、18歳の身体を得た私にも、難しいの。
あとね。5年後。お互いにこのゲーム内に居たら、いつか声を掛けて頂戴。
天国を見せてあげるわ♪」
「……それは一旦、置いといて。
ホントに、良いんですね?」
「構わないわ」
「じゃあ……。
ゴブリンなんか、全て死ねば良いのに。
コボルトなんか、全て死ねば良いのに。
グラスウルフなんか、全て死ねば良いのに。
さて。確認に参りましょうか。……っと、その前に、謝礼です、受け取って下さい」
1億マナクルを、紅百合のインベントリに渡す。彼女は、少なからず驚いたようだ。
「……ちょっと待って。
確認の必要は無いわ。
称号で、その三種がこの世界から消え去った事が確認出来たわ。
流石に、システムは疑わないから、信用します。
……でも、後悔しないでねって、こういう意味だったのね……。
それでも、イチイチその三種が湧いて来るのを始末するのも面倒だから、かえって助かったわ。
……そういえば、リュートへの制裁って……」
「あ、その件ですが、奴が『ロリコン』扱いされているのを確認してかなり溜飲が下がったので、今後、協力しない、ということで妥協しようかと。
……イジメはしたくなかったもので……」
「……そう。
じゃあ、追加報酬の武器、って奴は?」
「……ここ、始まりの街ですよね?」
「そうよ?」
「じゃあ、こっちです」
紅百合を従え、街の噴水に行く。ここの水が、非常に純粋で使い勝手が良いのだ。
噴水の囲いの外から、水中に手を突っ込む。少し冷たいが、我慢だ。
「『アルフェリオン結晶』」
とりあえず、ボーリング玉位のアルフェリオン結晶を得た。これが、使い手の思い通りの形状をしてくれて、金属的な性質で、武器にするには丁度良いのだ。
「貴女の武器は?」
紅百合は、金属製の扇を開いて見せた。その先端には、刃が生えている。
「では、その形状へ」
色も半透明で紅く、鳳凰の模様を刻んだ。
「これでいかがでしょうか?」
「ちょっと、触らせて」
多分、硬さを確かめているのだろう。そう簡単に、破れたりもしないはずだ。そして、畳んだり開いたりも出来る。
「……十分ね。意外に軽いし。
ちなみに、防具の方も、1億マナクル払ったら、これ相応の防具、くれたりする?」
「……その和服に近い形状の物ですか?」
正式に、何という名の和服なのかは分からないが、裾を引き摺るような、室内で着る事を前提に作られたような、所謂、花魁と呼ばれる人達が着そうな和服だ。
「……8000万マナクルで良いですよ」
「あら。優しい坊やね。特別サービスを期待しても良いわよ♪」
「……私、少なくともリアでは30過ぎなんですけど」
「あら。私は50過ぎよ♪」
……勝てそうにないから、大人しく作ってしまおう。
柄は、紅紫の百合の花。体積が大きいから、これを自由自在に使われるような事態になると、ちょっとばかりチート過ぎる装備を作ったりも出来るが……これそのものが、そもそもチート装備だし、気にしないことにしよう。
「これでいかがでしょう?」
「早速、着させて頂くわね。
『装備変更』。
……あら。軽くて動き易いわ♪
で、防具としての性能だけど……。
……はぁ!?
ちょ、ちょっと!
……待って、待って。じゃあ、武器の方も――
……ちょっと!流石にこれは……」
「8000万マナクル」
私は、笑顔で両手を差し出す。
「……そうね。金額が金額だものね……。
ちょっと、感覚が麻痺しそうだけど、はい、代金。
で、聞きたいことが少しばかり――
……え?……逃げたの!?
ちょっと待ちなさいよ!
少しは説明を――」
そう、私は自分のワールドへ戻り、紅百合さんとリュートのワールドとの接点をブロックしたのだった。