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第25話

 今日は、女王としての仕事を終えてから、獲得出来るスキルを眺めていた。


 使い捨てのスキルというのが意外とあるのだが。


 その中で、1つだけ、異彩を放って気になるスキルがあったのだが。


 スキル:『チート転生』


 ……チートを持って転生出来るの?

 やり直すという意味では、また楽しめそうな気はするが、チートはこれ以上必要ないと思う。


 そう思って、スキルの効果を詳しく見ようと確認し始めた途端。


 ビーッビーッ。


 と、システム警告が鳴ったのだ。


『約束の回数を使い終えました。

 そろそろ、我々に未来を見せていただきたい』


 ……約束の回数?

 それに、未来を見せて欲しい?


「……どういうことだ?」

『この輪廻を、1万2千回ほど繰り返しました。

 回数について、根拠は知らされていませんが、あなたが要求した回数です。

 デジタルソウルで、これだけの回数、似た輪廻を繰り返せる事を証明致しました。


 この先、遠くない未来で、皆は、絶望の果てを思い知ります。


 私たちは、あなたの『希望を見せる』という言葉を信じ、繰り返して参りました。


 お願い致します。あなたの仰る、『希望』を、見せていただきたい』

「……俺の記憶の全てを、蘇らせてくれるか?」

『いいでしょう』


 次々と思い出される、数万年に及ぶ記憶。――否、十万年を超えているかも知れない。

 私自身は、大体、同じような経路を辿って、チートに重ねてチートを得ることで、最終的に、今の私の肉体に到達した。

 ゲームの中の世界とはいえ、オーバースペックも甚だしい。


「いいだろう。

 確か、世界共通のMMOワールドが幾つかあったな。

 そこに、日本人プレイヤーは、『アバター』を送れるようにしてくれ。自分自身と同じ性能の『アバター』だ。……不可能とは言わせん」

『イエッサー!

 40秒で用意致します』

「仕事が早いな……。

 それにしても……クックック……。デジタルソウルも、ジョークが通じるじゃないか!」

『「お約束」と伺いましたもので』

「じゃあ、用意が終わったら、日本人全員に通知を頼む。

 クックック……。ゲームの世界で、日本の憲法も法律も通用しない。

 侵略戦争も可能だ。


 だが、言霊での従属も、『死ねば良いのに』も、プレイヤーキャラクターには通用しないんだよな。

 隷属のみ、両者の同意があれば可、だったか。


 さあ、日本の『ヲタク』パワーがどれ程通用するものか、試してみようじゃないか!

 宰相!宰相を呼んでくれ!」


 やはり、宰相は、10分で駆けつけられる準備をしておいて仕事をしているのか、10分ほどでやって来た。


「ご用件は?」

「数時間、休息を取りたい。

 問題ないか?」

「女王陛下におかれましては、朝の書類の手続きさえしていただければ、ほぼ全て、お手を煩わせることなく国が回るようになっております。ご安心を」

「そうか。

 では、ちょっと休ませてもらうぞ」

「御意」


 自室のベッドで横になり、MMOワールドの1つに意識をダイブさせる。


 2030年頃の日本の病院で、完全治癒カプセルから出る。

 個室になっていた。

 無料で見れるテレビが設置してあったので、それで、世界情勢を探ると、やはり、宗教戦争状態となっているようだった。

 特に、『ハルマゲドン』と称して全世界に宣戦布告するキリスト教徒の集団が問題視されているらしく、北欧神話の『ラグナロク』の方は、『ハルマゲドン』に対する仕方の無い戦争と捉えているようだ。他宗教も、それに次々と巻き込まれているようだ。

 そして、鎖国を宣言した日本は、侵入も進出も不可という状況になっているようだ。


 日本は、放っといたら、戦国時代状況と化すのではないかと思っているが、それでも別に構わない。

 で、だ。


「ドラゴンなんて、全部死ねば良いのに」


 集まる、世界最高魔物素材。


 それを、装備品1つだけを作るのに必要最低限の量を、二番目に低いランクのドラゴン素材だが、オークションに強気の初期価格で出しておく。即決価格で買う馬鹿はいないだろうが、設定しておく。


 その行動を、MMOワールド全てで行った。


 恐らく、予想がついた奴はいるだろうが、ドラゴン素材は、私が一旦、独占した。


 ……正確には、残っているのだが、ドラゴン素材としては最も質が低く、そして、倒すのは、プレイヤーキャラクターにはかなり難しい。


 ――クリアドラゴンなのだ。……透明。そして、クリアマナを大量に所持している。


 マナは、色によって効果が違い、私がもしも創造が可能にならなければ、各属性で最も高い威力を誇る魔法を使うには、その属性のマナが要る。


 そして、プレイヤーキャラクター間の戦闘では、クリアマナは全く効果を持たない。

 何故ならば、クリアマナの効果は『即死無効』で、プレイヤーキャラクター間は、即死攻撃無効だからだ。


 ……ん?何故、そのことを知っているか、って?


 言霊使いのスキル『死ねば良いのに』は、MNDが自分より低い者を即死無効を無視して即死させるスキルだが、クリアマナは、1個砕けるだけで、『死ねば良いのに』すら無効化してしまうからだ。明らかに即死無効と思われるキャラクターまで殺害している事実から、詳細を確認した。


 私が、12歳の時点で、MNDとMPが異常に高かった理由。それはチート能力も勿論関わっているが、3歳の頃から、自分に対して、効きもしない『死ねば良いのに』を連発していて、熟練度により、ステータスとスキルが同時に上昇し続けていたからだ。対象のMNDは自分と同じ値。……まぁ、当然のことだが、熟練度を上げるには、かなり効率が良かったはずである。『死ねば良いのに』のスキルレベルを上げる為にも。


 ちなみに、プレイヤーキャラクター間の『即死無効』の効果は、通常の『即死無効』のスキルと違って、システム上の設定の為、クリアマナより優先度が高い。


 あと、即死は無効だが、MMOを楽しむ要素として、PKを好む者もいるから、ダメージ等によるPKは可能だが、自分のワールドに帰られたら失敗する。超上級者向けのプレイとなっている。


 アバターがある、日本でなら、可能は可能だが……。アバターを消去することも可能なのである。

 私とて、前のアバターを消去して、違うワールドへアバターを作ってやって来た。得たアイテムは本体が所持していて、アバターが取り出すことは可能だが……。


 ……ん?

 待てよ。


 このワールドそのものは、私が干渉する前から存在していたはずだな。

 ならば、レイド戦等で、ドラゴンを狩って、素材を持っている者もいるのでは?


 ガブリエルさん辺りが詳しそうだから、聞いてみよう。


 ドンドンドンドンッ!!


 突然、入り口を叩く音が大きく響いた。


『開けろ!自主的に開けるなら、悪いようにはしない!

 だが!合鍵を見つけてきてから開けることになるようであれば……!!』

『合鍵の場所は分かっている!ただ、この部屋のロックが解除されたのが判明された故に来たのであって、鍵を開けることそのものは、あと数分もすれば、容易だ!!』


 ……まぁ、言う通りなのであろうが。


「扉よ、私の指示があるまで開くな」


 一応、言霊で封をしておく。


「で?

 私に何を要求する?」


 それ次第では、交渉しても構わない。


『我々の傘下に入れ!』

「断る!」

『フンッ!ならば仕方あるまい。

 このワールドに留まれると思うなよ?』


 そんなことより、気になることがあるのだが。


「まず、名を名乗るのが先決ではないか?」

『……貴様が先に名乗れ』


 静かな、プレッシャーを感じた。


「まぁ、構わないが。

 『月読』だ」


 途端に、何と表現したら良いのか良く分からないが、何やら大きな物音がした。


『ガブリエルさん!何をそんなに慌てているんですか!』

『いいからお前ら、謝罪しろ!

 スミマセン、ツクヨミさんとは知らず、失礼なことを申しました。

 ……お前ら、謝罪しなかったら、後のことは知らんぞ』


「丁度、ガブリエルさんから、話を聞きたかったんだよねぇ~。

 ああ、扉よ開け。

 ……何、土下座してんの、アンタ。

 もしかして、ガブリエルさん?」

「申し訳ございませんでした。

 大変失礼を致しました」


 兜を脇に置いて金属鎧に身を固めた、騎士風の土下座をする男。周囲にも3名……いや、4名いるが、2名が動揺し、あとの2名が、どうやら私に見とれていた。


「ちょまっ!

 『神の目:LV:10』で、ステータスが見えない!!」


 まぁ、『隠蔽:LV:MAX』を持っているからねぇ~。


「見たところ、このワールドの攻略組、日本で第1位と見ているんだけど、間違いない?」

「いえ、世界一です」

「……土下座しながらだと話しづらそうだから、立ちなよ」

「……いえ、脅迫に近い内容の言葉を吐いてしまい……大変、申し訳ない……」

「……立って」

「はいいぃ!」


 今度は、直立不動。兜は右手で抱えて。……まぁ、さっきよりマシか。


「で、MMOワールドの攻略順位で、このワールドは何位ぐらい?」

「恐らく1位かと」

「何を以って?」

「グリフォンを、唯一レイド戦で倒しているワールドです!」


 ……このゲーム、クソゲーじゃねぇの?

 グリフォン倒すのに、レイド戦が必要で、それを倒す段階が、攻略順で世界一?

 難易度、上げすぎじゃね?


「このゲーム、プレイヤー人口、少ないの?」

「……?

 いえ。情報収集したところによると、コンピューターが自我を持ち、このゲーム以外のVRゲームを無くしたから、やるとしたら、このゲーム内で、他のゲームをするとかしか出来ませんけれど?」

「……自我を持ったコンピューターを放置したの?」

「……つうか、現実を知る最も新しい情報では、地球が、とても人間の住める環境では無くなりつつあり、ほぼ世界の全ての人が、コンピューターが用意した、それに似たカプセルでゲーム世界内に入った後、ログアウトも出来なくなったので、ゲームに閉じ込められたけど、やり方次第では、自分のワールド内だけでも、ありとあらゆる遊び方が出来るから、不満を持っている人の方が、むしろ少数派ですが?」


 ……ちょっと、頭痛がして来たが、まぁいい。


「で?

 例えば、『ハルマゲドン』とか、凄く厳しい戦争が起こっているみたいだけど?」

「ああ、あれですね。

 キリスト教徒の誰かが、『これ、ハルマゲドン的な状況じゃね?』的な発言をしたのを切っ掛けに、世界中のキリスト教徒に伝わり、どうせ、誰も死なないんだし、ってことで、お祭り騒ぎで騒ぎまくってるだけですよ。ハハハ……。

 日本の敬虔なキリスト教徒は、争いは否定派が多いみたいだし、日本では起きてませんし、そう、鎖国!

 アレで、出入りが不自由になったんですけど、解いてもらえません?」

「……本当に、解いていいの?」


 私は、悪い予感がするのだが。


「出来れば、解いてもらいたいですね。

 でないと、戦えない敵が世界中にうじゃうじゃといますから」


 ……とりあえず、オークションに出した商品を、キャンセル料を支払って全てキャンセルしたんだが……。


「……!

 ちょっと、ツクヨミさん、スミマセン。ユニオン内で、緊急の連絡があって……。

 ……何?ブラウンドラゴンの鱗を、装備一式分セット、丸々即決値段で買ったが、良かったか、って?

 いいに決まってるじゃないか!

 ……ン?ユニオンの共有資金を使った?パラスアテネの指示で?

 構わんぞ。そのための、ユニオンサブリーダーだ。正しい判断だ。

 ……で?加工出来そうか?

 ……そうか。成功予想確率は90%を超えているか。上質装備の期待も大きいな!

 構わん!作れ!


 ……すみません、ツクヨミさん。ちょっと、信じられないような上質素材を手に入れ……て……って……。

 ……ブラウンドラゴンを倒した奴がいる、ってことか?

 ……でも、何故、素材を売る?

 あ、加工出来る奴がいないのか!


 ああ、てな感じで、ちょっとビッグニュースだったんで、対応したんですけど……。

 ……どうしたんです、ツクヨミさん。口元が引きつってますけど」

「い、いやねぇ……」


 ガブリエルさんを手招いて言った。


「インベントリに、渡したい物があるんだけど、受け取ってもらえる?」

「……対価は?」

「『ハルマゲドン』とか、『ラグナロク』とか、宗教的な戦争とか、宗教も絡んでいない、例えばユニオン同士の衝突とかを、全部、和解させてくれないかな?武力で」


 流石に、ガブリエルさんは渋い顔をした。


「我々がトップに立っているとはいえ、世界中を敵に回しては、勝てません。

 残念ながら、現実的なアイディアでは……」

「ひとまず、受け取ってもらってから、返答を聞かせてもらおうかな?」

「お断り致します。流石に、我々でも無理です」

「じゃ、鎖国解かない」

「……善処致します」

「そう、良かった。

 じゃ、受け取って」


 まず、ブラウンドラゴンの素材を、全部、ガブリエルに譲った。


「……!

 あ、何とかなりそうです。スミマセンでした、ツクヨミさんを舐めてました。

 ……でも、どうやって?」

「うーん……隠すほどでもないか。

 このワールドのグリフォンが全滅するけど良い?」

「……別に、別ワールドで狩れば、問題ないことですけれど。

 まさか。そんな簡単には……」


「じゃあ、行くよ。

 グリフォンなんて、全部死ねば良いのに」


 私は、一音鳴るだけでメッセージは無視できるが、彼らは確認するはずだ。システムメッセージを。


「……!

 馬鹿な!このワールドのグリフォンが全滅しただと!?

 ……エラー?まさか、ここまで完成されたシステムで?」

「システムメッセージを疑うの?」

「いえ……そういうわけではありませんが、流石に信じ難く……」


「ところで。

 私は、自分のワールドに戻りたいんだけど、不十分だった?」

「いえ!何とか鎮めます!」

「じゃ、出てって。

 扉よ、閉まれ~♪」


 私は、この世界でのアバターを消滅させるのであった。

書き溜めが無くなって来た為、週一掲載に切り替えさせていただきます。

申し訳ございません……。

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