第20話
「こ、こちらでございます……」
流石に、外交官の声は震えていた。
対する、私の国の外交官は。
「よく、大人しく牢屋まで案内されたな」
「別に。いつでも脱出出来ますので。
マスターなら、それをご存知な筈では?」
「うん。余計に暴れられていたよりよっぽど良かったから、助かったよ。
褒めて遣わす」
「はっ!何よりもありがたきお言葉!」
礼をする外交官に、確認しなければならないことがある。
「ところで、我が国への従属を求めたって話、本当?」
「……?
何を仰いますやら。マスターが『和平交渉』と仰られたからには、対等な立場であることが当然。
それを、その者が、『我が国に従属するなら、国として認めてやらんことはない』と申すもので、『断る!』と、ただ一言。
対応が、将軍が現れて襲われましたもので……申し訳ございません、手加減出来ず、殺害してしまいました」
「うん。
とのことで、私は自国の外交官の言葉を信じるけど、貴君の言い分は?」
「……」
しばらく、俯いたまま、黙って冷や汗を垂らすだけだったので、ここは一喝することにした。
「ゴーファス王国の国王への謁見を求める!
今すぐ!なう!
……意味は分かるな?
さっさと致せ!」
外交官は、黙って走り去った。牢屋は、内側から鍵を開けて、出て来てくれた。うん。手間が省けたよ。優秀な人材は好きだよ?
「じゃ、玉座の間の方に向かって、歩いていこうか。
邪魔しようと思った奴は、動くな。
これで、邪魔は入らないはずだから、のんびり行こうか♪」
流石に、牢屋からだと距離があったが、玉座の間の直前で、一団の人の1人を見たメイドの1人が私を制止した。
「少々、お待ち下さいませ!
こちらの女商人、女性だからと、以前に交易を許可してやり取りしたことのある商人のはずですが、中々の珍品を持ち込んで、少なからず利益をもたらした者であると、私の記憶にはあるのですが。
話しておいて、損は無いかと。
少々、失礼致します。
そちらの方、リミカ殿とお見受けしましたが、間違いありませんでしょうか?
私共は、『女傑国』の者です。
こちらが、我が国の女王様です。
よろしければ、少々、お話しをしていただけないかと」
気の強そうな、赤毛の女だ。だけど、キチンと、チャンスと見極め、ビジネススマイルを浮かべて話しかけてきた。
「『女傑国』の女王様であらせられましたか。
挨拶が遅れました、女の身でありながら、商人をしている、『リミカ』と申します。
以前、大きな取引をさせていただきまして、お陰様で、多大なる利益を得られました。
その際には、長き眠りに入っていたと伝え聞いておりましたが。ご無事でございましたか。
大変失礼かと思いますが、よろしければお名前を教えていただけませぬでしょうか?」
「いや、こちらこそ、どうやら私の知らない内に、大変お世話になっていたようだ。
『月読』と申す。
以後、お見知りおきを」
「『ツクヨミ』様、でございますか。
ああ、この国の国王にご用事でございましたか。
次は私共の番で、もうじきと聞いておりましたが、一国の王が緊急でご用件とあらば、私共はその後になりそうございますな。
ハハハ。お気になさらず。
自分の身の程は弁えているつもりでございますので」
「済まぬな。
……少ないが、取っておけ」
そう言って、私は黒竜の鱗を一枚、リミカに渡しておいた。
「これは……。
――この国、腐っておりますので、ご注意の程、慎重になされますよう」
「ああ、分かっている。
……そして、この国の国王と宰相も馬鹿だと分かった。
私はすぐにと言い、ゆっくり、歩いて参った。
私を迎える準備が、まだ出来ていないとはな」
「仕方なきことかと。
噂では、大魔王国の復興から、降伏勧告の使者が、今、参っているところと。
私も、30分はここで待たされているのですが」
「ああ、そうか。
なら、話は早い。
扉よ、崩壊せよ」
言葉では対象を絞っていないが、イメージでは対象を絞っているから大丈夫だろう。
目の前の扉が、崩壊して行った。
「何奴!?」
とは、大魔王国の使者。
「何だ、この無礼者は!?」
とは、ゴーファス王国の国王。
「やあ、大魔王国の使者殿。
あなたは、私のことを知っている魔族かな?」
「あっ、あっ、あっ……」
どうやら、知っているらしい。
「知ってるなら、後で話があるから、しばらく黙っててね。
……で、ゴーファス王国の国王殿。
説明がメンドクサイから、さっさと外交官から話を聞いて、事態を把握して?
じゃないと、城を崩壊させちゃうよ?」
「宰相!
どういうことだ!外交官がどうとか……儂は話を聞いておらんぞ!」
慌てて現れたのが、恐らく、この国の宰相だろう。フム……考え方は腐っているが、宰相としての能力は優秀なようだ。
外交官からの話が、宰相に伝わり、宰相から国王へと、伝言ゲームが始まる。恐らく、正確には情報は伝わるまい。
でも、その間に、こちらとしても出来ることがある。
「ねぇ、君」
大魔王国の使者に声を掛ける。
「大魔王国、大分立ち直ったんでしょ?
で、三国で和平交渉がしたかったんだけど、この国を見て、考えが変わったから、私の『女傑国』に『大魔王国』が従属、その更に下に、この国を『従属』させるって方針を変えても良いかな?
ああ、魔王さんに確認を取ってからで構わないよ?
近い内に、訪問させていただくから」
「……某めに、それへの返答をする権限はございません」
「だから、報せておいてね♪
あ、『傀儡の魔王を用意しても良いんだよ』、ってね♪」
「……相変わらず、恐ろしいお方だ」
そのやり取りをする間に、凡その情報は外交官から国王へ伝わったようだが。
「何だと!?
貴様、我が国一の将軍を殺しておいて、貴様の国への従属をせよと言うのか!
何たる卑劣……!
我が国は、貴様なんぞに屈せぬぞ!」
「あー、外交官さん、宰相さんに、正しく情報を伝えたよね?」
あちらの外交官さんは、必死になって頭を上下に頷く。
「で、宰相さん、その情報を聞いた上で、自分なりの解釈を国王に伝えたんだね?」
「それの何が悪い!?」
「で、国王さんは、宰相さんの言い分は全て正しいと判断したと」
「何が間違っていると言う!?」
「国王さん、外交官さんから直接、話を聞いた方が良いと思うよ。
断るなら、そろそろ怒るけど?」
外交官の必死の姿勢に、国王は仕方なく直接話を聞いたのだが。
「おい、新国の女王とやら。外交官に何を吹き込んだ?
生かしては返さんぞ?」
「あー、だから、国が腐ってるって言ったでしょ?」
その声は、後ろから聞こえてきた。
「成る程、そういうことね。
じゃあ、この国の国王と宰相なんて、死ねば良いのに。
……あー、やっぱり、対抗手段も用意していなかったんだね。
じゃ、この国の今後、大変だと思うけど、頑張ってね~♪
あ、リミカさん。良かったらこの後、ウチの国に来ない?
……護衛とかも、全員女性みたいだし、全員、荷物ごと転移させるからさ。
食事くらいは、ご馳走するよ♪」
「……1人、この国に残したいのですが。
なに、ツクヨミ様にも後々、役立つものと思われますよ♪」
「……」
この後の流れを、ちょっと読んでみた。
そして、私が欲しそうなものを考えると――
「ああ、なるほどな。
だが、役に立つと思うか?」
「そこは、あなたのやりようにございましょう」
「……そうか。
では、それを予約しておこうか」
「ありがとうございます。
精一杯、勉強させていただきますので」
とりあえず、この国との関わりは、今後、薄くなって行くだろう。
だが。
「私は、才能ある女が欲しい。
よって、リミカ殿に授けたいものがある。受け取っていただけるだろうか?」
「……?
タダより怖いものは無いと申しますが……」
「ならば、要らぬか?」
「……。
頂いておきましょう」
「では。
リミカ殿の能力を、最大限に。
特に、『神の目』の能力を、買う奴隷の能力を見るのに活用して欲しい。
それだけのつもりではあったのだが、簡単に死んで欲しくない故に、サービスした。
だが、心配するまでも無く、『神の目』スキルの才能以外は、大したことは無かった。
別に、サービスと言えるほどのものでもなかったようだ」
「……とりあえず、恐ろしい方と親しくしていただけそうなことは、分かりました。
加えて、訪問の方は、今回は遠慮させていただきます。
自らの目で、『商品』を見極めたいが故に」
「あ、そう。
じゃあ、『女傑国』の入国許可権も、あなたには与えておくよ。
いや。中々、今日は忙しかった。
私も、そろそろ帰って休むこととしよう」
「ご自愛なされませ。
それでは」
まぁ、今日は早めに掲示板に行くべきだと思うしな。
あとは、仲間を引き連れて、早々に帰国し、休むとしよう。




