第10話
午前のお仕事を終えて、午後。
やって来ました、魔王城!
魔族っぽさを強烈に主張するその見た目が、少々、私の趣味とは合わないから、改築の必要はあると思うが、まずはここを塒とすることを目指したい。
まぁ、ここに来るまでに、数える程度の強敵を、私のコピーのオートマタで倒してから来たのだが、魔族の女性キャラが3体現れ、流石に目の前で殺すのは忍びないと思い、隷属の魔法をかけて、魔王城へ登場した。
「居るか、魔王!」
そう怒鳴って、玉座の間の扉を開けた。
「……中々、やってくれたようだな……!」
そう言った魔王は、中々のナイスバディの、女魔王だった。
「……はぁー……。
魔王も女かよ……」
殺すの、嫌だなぁ、と思って、魔王を眺めた。
「……女だと、舐めるのなら、死んでもらいましょうか。
……あら、ヤダ。裏切った奴も居るのね。
じゃあ、自分自身と戦って、勝てるものなら勝ってみなさいな!」
そう言って高笑いを始めた魔王の前に、私と、私が従える三体の魔族に似た影が現れた。
「……参ります」
「手出し無用!」
私のコピーらしき影を除く3体を、早々に切り刻む。多分、ただのコピーなのだと思って。
「……中々やるわね。
でも、自分自身を相手に、勝てるかしらぁ?」
そして、私のコピーは動かない。
「……」
剣を一閃し、首を切ると、私の影は消滅した。
「……あら。
自分の能力をコピーするのを防ぐスキルを、幾つか持っているのかしら?」
幾つかと言うか、見つけた限り全てだ。
「……困ったわね。最詠唱時間が丸一日だから、わざわざ妾の手を汚さないとならないじゃない。
わざわざ、人間如きに。
妾の方針を教えてあげるわね。
サーチ&デストロイ。
最初から、最大威力の魔法をお見舞いしてあげるわ!
喰らいなさい!『ノヴァ・ブラック』!」
インベントリの中で、最早兆の位に届いた数のクリアマナ1つが、弾けたのが分かった。
……そうか。そのレベルでようやく無効化出来るレベルの魔法か。
流石に、私も、直撃を受けたら、ダメージを受けていた。
「……『隷属化』」
私は、1つ、スキルを発動した。
「アハハハハハ!
そんなもの、妾よりレベルが高くないと、効果が――アガ……グ……キィィィィィィィ……!
て、抵抗しきれ……な……い……!」
堕ちて行くのを眺めるのも趣味じゃないし、女性を苦しめるのも趣味じゃない。
だから、一時的にとはいえ服従せずに済ませられる彼女に敬意を評し。
「スキル、キャンセル」
「グハァッ!
……ハァッ……ハァッ……ハァッ……。
……情けをかけたの……?
後悔するわよ……」
「あー……。
敵対しないなら、協調路線も考えていたんだが、徹底抗戦の意思を表示するのか?」
「……」
彼女は、しばらく沈黙した。
「お前の意見を聞きたい」
直後、四方八方から殺気を感じた。
そして、玉座の脇の扉から、強者の気配も察した。
「……これが、お前の返答か?」
とりあえず、『威圧』を発動させ、メンドクサイが、全滅も已む無しと行動を始めようとした瞬間。
「全員、待機!」
とりあえず、魔王が言ったことで、殺気は静まった。ほとんどが、ビビリながらの様子だったが。
「……あなたとは、敵対したくないわ」
「それがお前の意思表示か?」
魔王が頷く。
「宰相!控えているのは分かっているわ!
最上級のお客様を歓待するつもりで、会食の席を用意なさい!
……毒を盛る等、失礼があれば、あなたの首が飛ぶと思いなさい!」
玉座の脇の扉の奥の魔族が動いた。
「とりあえず、この三人を返すぞ。
反抗することは無いだろうが、屈辱で自害とか言い出しても止めろよ?
処分は無しで頼む。
じゃなけりゃ、三人とも貰う」
「……まず。
あなたは、何と呼べば良い?」
「月読とでも。丁寧に呼びたければ、『さん』付けしてくれ。『様』は何かヤダ」
「月読さん。
何故、妾を殺さなかったの?」
「……単純に、女を殺すことに抵抗があった。特に、目の前とあってはな。
私は、単に国が欲しかっただけだ。手軽だったのが、この城を奪うことだったんだが、多分、領土さえ手に入れれば、城を建てて国だと主張して外交で認めさせれば、国を得ることは、多分、可能だと思ったから、……正直、この城、趣味じゃないし、配下を揃えるのも、相当な時間がかかるからなぁ……」
「そう!配下よ!
妾の配下が、最近になって、急に大量に死に絶えたの、アンタの仕業でしょ?」
「恐らくな。
……多分、生き返せると思うが、その全員に、私の勢力に逆らわないと約束させることが出来るか?」
魔王は、しばらく考えてから答えた。
「ゴメンナサイ、全員は無理だわ。
知性より凶暴性の方が強い奴が多いから、命令しても人間に限らず、自分より下と見ているモノは襲うって連中が多い。
だから、人間とは敵対せざるを得ないの」
「なら、全員は生き返せないな。
どうしても必要な奴は居るか?凶暴性の無い奴ら」
ちょっと間を置いて。
「……宰相と相談させて頂戴。
正直、戦力として強い連中は、敵対させないことは難しい。
宰相なら、最低限必要な人材は分かると思うから」
「結局、会食に付き合ってからの話になりそうだな。
……ほらよ。三人の隷属化は解いたぜ」
その3人は、早速、魔王の前に並んで頭を下げていた。
謝罪の言葉でも述べそうだなと思ったが、その前に魔王が言い放った。
「良い、下がれ!
処分も下さん。今回は、相手が悪過ぎた。
これからも、これまで以上の忠誠を頼むぞ」
「「「はっ!!」」」
三人が下がった直後、宰相がやってきて、魔王に耳打ちした。
流石に、私に敵視の視線を送らない程度には出来る奴だった。
「とりあえず、茶の準備を先に進めたそうだ。
茶菓子など喰らいながら、少々話をしようぞ」
「悪くないな」
そう答えて、「出来る宰相だな」と、秘かに羨ましく思った。