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最弱がやがて龍を屠るまで。  作者: Shine
プロローグ
1/6

始まりも終わりも突然に

読みづらい場所などかなりあると思います、ご容赦を。


「……え?」


それは突然の宣告だった。

幾つかの夜を越え、稚拙なりにも死線を潜り抜け、ようやく新しい街へ辿り着き、みんなもやっと一息つける。

そんな、ふとした瞬間だった。


「…………」

「え、あはは、じょ、冗談だよな?」

「……っ」


何かに耐えるような表情を浮かべた勇者……スマルトは黙ったままだった。

その表情が何を表しているかなんて聞くまでもない。

彼女は……いや、彼女らは本気だったのだ。


「な、なんで急に……今までだって皆で何とか乗り越えてきたじゃないか!……それなのに……」


信じたくなかった。

こんな俺でも、誰かの役にたつことが出来るのだと信じていたから。

こんな俺を、受け入れてくれた仲間達だったから。


「……アナタ、今日までにどれだけ自分が死んできたと思ってるのよ」

「おい!そんな言い方……!」


勇者の表情に耐えられなくなったのか、口を開いたのは魔法使いのマリーだ。

それ聞いて戦士のウォルナットがマリーを止めようとしている。

しかし彼女の言った事は確かで、俺は両手で数えられる程の回数魔物との戦いに敗れてきた。

そう、俺は弱いのだ。

選ばれた血筋があるわけでもない。

優れた頭脳があるわけでもない。

並外れた力があるわけでもない。

そんな俺が今日ここまでやって来れたのは、単純に仲間に恵まれていただけの話。

俺達の旅はまだまだ途中。

それも魔王を討伐するための旅だ。

資金だってやりくりして、いつもカツカツの日々。

蘇生する為の教会へのお布施だってバカにならないのはわかっていた事だった。

むしろ今日まで、仲間の優しさに甘えていただけだったんだ。


「……足手まといで……悪かった」

「―――っ!!」


刹那、頬にジンジンとした熱と乾いた音が辺りに響く。

衝撃を受けて横を向いていた顔を戻して見れば、マリーが手を振り抜いていた、その瞳にはハッキリと涙が見て取れる。


「それだけだと思ってんの……!?このバカ!!」

「落ち着けって!」


なおも興奮気味のマリーをウォルナットが必死に押さえつけ、神妙な面持ちで語りかけてきた。


「金に困った、お前が弱いから、そんなコトじゃないってのはわかって欲しいんだ」

「いいんだよ、よけいな慰めの方がよっぽど辛い……」

「―――っ!!アンタが!!死ぬたび!!私達がどれだけ辛い思いしてきたと思ってんのよっ!!」


ぽろりと口から漏れた言葉に、再び激昂したマリーの叫びが木霊した。


「……もう……見たくないんだ……大切な仲間が死ぬ瞬間を……これ以上……きっと次は……耐えられない……許してくれ……っ」


そういって勇者は立ち尽くしたまま、大粒の涙をこぼし始めた。

これが俺と勇者パーティとの別れ。

弱いなりにも、今まで何も無かった俺が輝いてた時の終わりだった。




「……絶対、世界を平和にしてくれよ」

「お前の思いに必ず応える」


精一杯の笑顔で勇者パーティの証である聖石を返すと、スマルトは大きく頷いて決意を新たに俺へと告げた。


「アンタなんかにいわれなくても……っ、ぐす……」


俺を叩いた事なのか、感極まったからなのか、気が強い割によく泣くマリーは、トレードマークの大きな帽子で顔を隠しながらしゃくりあげるように別れを告げた。


「元気でな」


拳を突き出し、強張った笑顔を貼り付けたウォルナットに俺も拳を合わせる。

強面な割にコイツも面倒見のイイ兄弟分だった。



優しい仲間達。

どれだけ死を重ねても、俺の命を軽んじないでいてくれた。

弱い俺が悪いのに。

そのたびスマルトは、本当に辛そうな顔を浮かべながら

『守れなくてすまなかった』と言ってくれた。

薬草をしこたま買ってきたのはマリー。

ウォルナットは立ち回りと戦い方を教えてくれた。


それでも俺は、他の3人のように強くなれなかった。

俺が弱かった。

ただそれだけの話。


「……っぐ…………」

「ぅぅううううあああああああ!!!」


街まで送ると言う皆に『色々振り返ってみたいからいいさ』と言い訳して、草原の真ん中で周りの事などおかまいなしに泣き喚いた。





―――2日後



木の上で目を覚ました俺は、先日街で買ったフード付きのマントから顔を出し、木々の隙間から漏れる朝日を浴びていた。

革袋を漁って果実を取り出す時に、金貨袋が手に触れる。

それは勇者達が渡してくれた金が入っていた、おそらく持って2、3日と言ったところだろう。

自分達だって限界ギリギリだったろうに……。

感傷に浸った所で仕方ない、勇者一行として旅に出たからには今更家にも帰れないしな。

街で暮らすか旅するか、いずれにせよ金は必要になる。

今後の事について考えながら果実に齧り付いていると、下の方から声が聞こえてきた。

地上までの距離はおよそ人間五人分ほど。

魔物でも探知出来るのは稀であろうこの距離で、下にいる者達が俺に気づいたとは考えづらい。

木々を揺らさないよう注意して覗き込むと、フードを被った小柄な誰かが駆け抜けて行くのが見えた。

何かから逃げているようにも見える。

程なくして小柄なフードを追っているであろう人影が3つ下を通り過ぎていく。

装備は革製、武具は少ない。

状況を鑑みるに、ならず者が金欲しさに誘拐でもしようと言った所か。


「……ちっ……ったくよ……」


小さく一人ごちて、立ち上がろうとした矢先にハッとする。

今俺は一人であり、勇者一行でもなんでもないのだ。

勇者ならば何も言わず即座に行動に出ていたであろう。

魔法使いならばその場で火を射掛けていたであろう。

戦士ならば彼らの前に立ち塞がっていたであろう。


……じゃあ、俺は?

俺は一体何が出来るんだ……?


正々堂々挑んだ所で返り討ちに合うのではないか?

ちょっと小石を投げた所で誰が怯むというんだ?

3人も俺が足止め出来るというのか?

勇者達と一緒に行動していたからと言って、肩書すら無くなった俺は今やただの人だ。

自分の身すら満足に守れないのに、何を調子に乗って首を突っ込むというのか。


そうこう考えてるウチに、逃げていた小柄なフードが草に足を取られてコケてしまった。

その様子を見て追いかけていた3人も走るのを止め、じりじりと近づいていく。

俺にはどうする事も……。


「……けて……」


震えた声が風に乗せられ俺に届く。

か細い声だった。

その声を聞いた直後、俺は二振りの短剣を腰から引き抜き投射していた。

重力の影響も相まって、予想以上の速度で飛んでいった短剣は1人の男の首に吸い込まれるように突き刺さる。

離れた距離からでもわかる、あれは助からない。

それを確認したと同時に俺は自分の起こした行動に驚愕する。

何をやっているんだ俺は。

想定外、と言っていいのか想像以上と言うべきか。

魔物を相手取ることこそあれど、今まで人間を相手に、ましてや殺した事などなかったのだ。

勇者一行として動いていた頃は、こんな不意打ちもするわけにいかなかった。

いつでも正々堂々、正面から名乗りをあげ、人は殺さず。

それを一気に破った俺は、怒涛の如く押し寄せる不快感を必死に押し込め、全力で別の木へと飛び移る。


「なっ……だ、誰だ!!」


男の片割れが振り返り、短剣の飛んできた方を睨め付ける。

しかしそちらに俺はもう居ないし、男の見ている場所は俺の高さより遥か下だ。

殺す必要はなかったのではないか。

そんな苦い感情が、押さえつけた心の蓋を抉じ開けてくるが、すぐに首を振って意識を引き戻す。

俺は弱い。

イヤと言う程わかっている事だ。

手加減などを考えていたらこちらが殺される。


手元に残された武器は片手剣が一振り、これを投げては最後の一人に対処できない。

となると……投げられる物はこれしかないか。

意識がまだこちらへ向けられていない男の頭部へ全力で投げつけたソレがぶつかる。

ゴキリとイヤな音を立てて、男は倒れていく。

上手く無力化出来た事を祈りながら、確認する間もなく、最後の一人へ片手剣を構えて、背後の木を蹴りつけた。

最後の一人は仲間が倒れた事に意識が向いているようで、落下していく加速度を両手へ目一杯に乗せて頭上から剣を振るう。

その剣筋はまるで戦士の一撃を彷彿とさせ、男の頭を真っ二つに叩き割った。

とは言え、俺が自分の体重と高所からの加速度まで乗せた一撃と、普段ウォルナットが普通に振るう一撃が同じレベルなのだから

どれほど彼が常軌を逸しているかを改めて確認した。


「ぐぉぉおおお……」


地べたで頭を抑えて唸っている男の傍らに落ちているのは、先程投げつけた物。

それは、仲間達から貰った金貨袋だ。

口を縛り、小銭が多く入ったそれは、不意に上から投射される一撃としてはかなりの重さがあっただろう。

袋を拾いあげ、片手で回して中の小銭を端へと集める。


「な、な、なんだお前は……!!」

「……単なる俺の勘違いだったら、すまねぇな」


その一言と共に金貨袋を上から躊躇なく振り落とす。

ゴッ、という鈍い音の後に、小銭が弾ける音を残して、男は絶命した。

辺りを見渡し、全てが終わったのだと言うことを確認すると、

全身が今更ながら震えだし、心臓が激しく脈打っている事に気がついた。

足など今にも膝を折りたいくらいの震えっぷりだ。


「は……はは……なんとも情けねぇ……」


ある意味初めての勝利、そして初めての殺人。

緊張が解けた瞬間、相手の頭をザクロにした感触が腕に戻ってくる。

よくよく見ると無茶をさせた影響か、片手剣は中ほどにビッシリと亀裂が入っていた。

込み上げる吐き気を抑えつつ、呼吸を整えると、倒れたままの小柄なフードがこちらを向いていた。


「……大丈夫……か?」

「……え?……あ」


時間にしてほんのわずか、10秒と掛からない間に3人を殺した。

偶然と幸運に恵まれたとは言え、そんな男を前にして怖がらないヤツなど普通は居ないだろう。

声をかけると小柄なフードはハッとして起き上がった。


「た、助けて……くれた、のか?」

「……一応、そのつもりだが」


声から察するに女の子だろうか、深めにかぶられたフードのおかげで表情まではわからない。


「……何故?」

「……なんでも何も……助けて、って言ったじゃねーか」


そう告げると彼女?は黙った。

なんだろう、こう……もしかすると村娘や奴隷などではないかも知れない、と考えてしまう。

気が動転しているのかとも思ったが、そんな様子は無く。

目の前で3人も死ぬ瞬間を見ていたにしては反応がおかしい。

そして何を考えついたのか、彼女は頷いて見せた。


「なるほど、もしや貴方は勇者か?」

「……い、いや……違うけど」


彼女の口から飛び出た単語にギョッとして一瞬固まった。

勇者ではないが、元勇者一行ではある。

それだけに反応に困ったのだ。


「違うのか……ともすれば珍しいお人よ、私を龍人と知って助けるとは」

「………………?」


再び彼女の告げた言葉に困惑する。

言われた言葉の意味が理解出来ず、思わず首を傾げると

それまで緩やかだった彼女の動きが途端に活発になった。


「なに?まさか……知らず助けたのか?」

「……いや、だって……フード被ってるし」

「…………あ」


フードの端を摘んで今度は彼女が固まった。

と言うか、もしかして今の話は聞いてはいけない類の物だったのか?


「……んんっ……それで、我を龍人と知って、何を望む」

「……何を望むも何も、知らなかったし、成り行きで助けただけなんだが」

「なんと、本当に善意の結果であったのか……」


取り繕い言葉を言い直す彼女ではあったが、こちらから要求する物は端から無く。

それを告げると至極驚かれたようだった。

再び何かを考える素振りを見せた相手は、頷き、フードを外して見せた。


「感謝を……私は龍人のヘイズと申す」

「……俺は……フォッグ……人間だ」


暴かれたフードの下から、緋色の瞳が顔を出す。

外気に露出された、白銀に艶めく長い髪に眼を奪われるも、頭頂部に生える骨のような物が見えた所で思考が止まる。

それが角だと理解するよりも先に、名乗り返した紹介で

未だかつて自分の種族まで言う機会があっただろうか、とどうでもいい事を考えていた。

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