4話 初めての商談
アイシャとの一件があってから一週間が経った。
今、アイシャは命を狙われている。
そして、その火の粉が俺にも降りかかるかもしれないが、俺らの生活はあれから大きく変わることは無かった。
変わったことといえば、アイシャはフードを被り、顔を隠すようになったくらいだ。
今、彼女は外に出る時は常に顔を隠すようにしている。まあ、それが必要最低限の対処法だろう。
そこで、俺は彼女を日頃から一人にしないようにする、と相談したところ
「いざという時は魔法を使って逃げ切りますので大丈夫です」
と言ったので俺は彼女の言葉に噛み付いた。
「大勢に囲まれたら逃げ切れないかもしれないじゃないか!」
「そんな状況だとハルトさんは足手まといです。いないほうがよっぽど逃げ切れます!」
と見事カウンターを食らってしまった。
哀れ、俺。
自分の無力さにはわかっていたが、ここまできっぱりと言われると流石にへこむ。
だが、アイシャなりに俺を気遣ったくれたのと、自分の無力さをわかっていたので、ここは大人しく引っ込むことにした。
その代わり、心配なので、彼女が毎回1人になる時は彼女に注意しておく。
「気おつけるんだよ!もしやばかったら大きな声で人を呼ぶんだよ!」
それも最初の頃は、
「はい、大丈夫です!任せてください!」
と勢いよく返事してくれたものの、今じゃ
「はい」
と短く返事するだけになってしまった。彼女も言われ続けて、呆れてしまったのかなーと思った。
そろそろ、彼女の返事が、はいはい、になって尚且つ、うざそうな目線を受けるようになるのだろうか?
だってお兄さん心配なんだもん!まだ、13歳の子供が命狙われてると思うと不安になっちゃう!
彼女もあれからは自分を狙っている追っ手から会っていないと言う。
もう違う町を探しに行ったのだろうか?
でも、ここは油断をせずに警戒態勢を維持したほうがいいだろう。
そして、ジャガイモ売りの方は順調である。
前と変わらない売り上げを持続している。まあ、それも新商品のハッシュドポテトのおかげだ。
4日前に若干客足が悪くなってきたなーと思って、このハッシュドポテトを出したのだ。
新商品のおかげで客足は戻り、さらに客が増えたのだ。
ちなみにフライドポテトは秘密兵器であるため、まだ出さないのだ。
デビューは祭りか何かのイベントの時に、バンと出したいと思っている。
馬鹿売れ間違いないので、短期間で膨大な利益が欲しいのが本音なためだ。
逆に言えば、フライドポテトが最終兵器だ。
ジャガイモがいつまで売れるかまだわからない。
ちなみにじゃがいもの収穫の見込みはまだある。
今収穫している場所の他に3箇所ほど生えてるところは見つけておいた。
これでこのシーズンくらいは持つだろうと見込んでいる。
それでも早いうちに自ら栽培できるようにしとかなければと、最近思っているが土地が無い現状では、今は難しい。
まあ、それはあと少し経ったら考えることにした。
今日はじゃがいもを売る日だ。いつものようにじゃんじゃん売る。
この国には消費税やその他、税諸々があまりない。
商人とかだと通行税だとかが大変だとか?まあ、町暮らしのなんちゃって商人の俺たちには関係ない話だ。この前、たまたま税金を国の兵士が納税せよと言ってきたが、俺とアイシャで銀貨2枚、安いものだ。
今はその市県民税?みたいなものしか払っていない。
前の世界なんて厚生年金やら健康保険料やらでいくら取られたことか、給料明細を見る度に何度、税金を払いたくないと思ったことなど今や懐かしく感じてしまう。
この国はいい。収入がそのまま自分の手元に来るから非常に気分がいい。
まあ、その代わり老後もなにも保証は無いからな。稼げる時に稼がなくては・・・
そういうわけで、いつも俺らがジャガイモ売りに使っているスペースを占拠し、アイシャと二人で準備をし始める。
もう商売を始めて3週間、なんだかんだで定位置というものができた。
準備ができ、俺らがもう販売できるような姿勢をとると、町わ歩いてた人たちがどんどん集まってくる。
そして、ジャガイモを売りまくる。
始めてくる人には俺らはハッシュドポテトの試食品を食べさせてみたり、ジャガイモの調理法を教えたりと丁寧に接客をしていく。
やはり、売れ行きは好調で、今日も昼間には売りきれる調子だ。
そんな時、俺らがジャガイモ売り捌く中、一人の男に話しかけられた。
「あのう。この後、お時間はあるでしょうか。もしよかったらお話を聞いてもらえませんかねー?」
その男は、全体的に細身でのっぽな顔して、小奇麗な茶色いジシャツと黒いズボンを履いていた。
俺にそう話しかけると不気味な笑みを浮かべらながら、お願いできますかねー、ともう一度問いかけてくる。
俺はその事を了承した。
今日もジャガイモが売り切れたら特にやることはないので断らなかった。
寧ろアイシャ以外の人と話す機会が無かったので若干嬉しかったのだ。
それに、アイシャが横で聞いても特に反応しないという事は刺客でもないはず。
仮に追っ手に依頼された刺客だとしてもここで無理に断った場合、逆に怪しまれる。
アイシャの顔もまだばれていない筈だ。もしばれていたらジャガイモを収穫する日に俺がジャガイモの
運搬している間に一人でジャガイモを採っているアイシャを襲ってるはずだ。
そして、俺らがジャガイモを売り終えた後、男にはある飲食店に待ち合わせしましょうと誘われていたのでその場所へと向う。
着くと男は飲食店にある、外に設置してある丸いテーブル席に座っていた。
男が俺らを見つけると
「ここですよ~」
と大声を出して俺たちを呼ぶ。その声を聞いて一気に周りから視線を浴びる。少し恥ずかしくなってしまう。
そして、俺らは男の対側の席へと座る。
座っている男の左傍らにはおきな木箱が2つほど重ねられて置いてあった。
そうして俺らが座ると同時に男は口を開いた。
「いや~お忙しいところ、つき合わせてしまって申し訳ありませんねー。ここは私のおごりなので好きなものを食べてください。」
「いえいえ、全然構いませんよ。じゃあお言葉に甘えて注文させてもらいます。」
そう言うと、俺とアイシャは鶏肉のステーキらしきものを注文をした。
遠慮?そんなものはしない。こういう時は素直に受け取っておくべきである。
男は片手にオレンジジュース?っぽい飲み物を片手に持ちながら、ちびちび飲んでいる。
どうやら相手は飯を食わないらしい。
店員が飯を持ってくるまでに俺らを呼んだ理由を聞こうと思い、男に質問する。
「で、自分たちに話とはどんなご用件でしょうか?」
「率直に申し上げると、あなたたちがやっている商売のお手伝いをさせてもらえないのでしょうか?」
この言葉を聞き、俺はついにきたか~と思ってしまった。
このジャガイモ商売は現在、毎回完売するほど人気である。あのあたりに住んでいるものなら間違いなく知っているほどの知名度を持っている。
これぼどの人気商売になっていたら、他の商人たちはどう思うであろうか?
そんなおいしい話があるなら是非ともその商売に手を出したい、と思うのが必然である。
俺が客が多い、西部の商人が多く集う市場を選ばず、東部の住宅街の小さい市場で販売する理由はそこだ。
他の商人たちに手出しをされたくなかったのだ。
そのためこうやって静かに商売をしていたが、やはり噂は広がるもの。
こうなる事は目に見えていたのだ。
俺の商売に噛まして欲しい、商人の接触の仕方も多分3つにわかれる。
・1つ目は俺らとの商売を一緒に関わり協力していき利益を出すもの・・まあ協力者だ。
・2つ目は俺らのこの商売を真似をするもの・・・まあ同業者と言っておこう
・3つ目は権力がない俺らから根こそぎ奪い商売ごと掻っ攫う・・・敵である。
この中で可能性があるのは2つ目か3つ目だと思ったんだが、この男を今の言い方を聞く限りだと1つ目だな。
一番いい関係が築ける相手だ。
まあ、まだわからない。これから聞き出していこう。
そして、俺たちは会話を始める。
「あの~、その前にお名前を聞いても?」
「あー、失礼しました。名乗るを忘れていましたね。私はオルト・ロウランと申します。」
「自分はハルト・ヴァーミリオンです」
ハルトはもちろん実名だが、ヴァーミリオンは自分がゲームをやる時に使っていた名前だ。
この世界だとカナイだと違和感を感じるのではないかと思い止めておいた。
というか異世界にせっかく来たんだからかっこいい名前をつけたいじゃん!
そう思っていたのだが、オルトは驚愕の表情を浮かべている。
「もしや、あのヴァーミリオンの血筋を持つお方ですか!?」
え、なんかすっごい驚かれている!そう思うとアイシャが俺に耳打ちをしてきた。
「ハルトさんはヴァーミリオンとは過去の大英雄の血筋を持つ一族です。昔大帝国を築いた人たちなのです。今でも多くの王族が存在します。その姓は非常にまずいかと!」
との事だ。非常に不味い事をしてしまったようだ。よりによって王族の姓を名乗ってしまうなど。
どうにか訂正しないと。ちょっと言い間違えちゃったくらいの訂正を考えないと。
「え、じゃなくてヴァリオンです。ちょっと噛んじゃいました。」
ちょっと苦しいかな~・・・
「そうでしたか・・・いやはや、名が高き一族が商人をやっていると聞いて驚いてしまいました。失礼しました。」
おし!どうにか乗り切ったぞ!これがもっと危ない相手だとどうなってたことか・・もし本物の前でそんな事をしたらやばかった。下手したら死んでいた。
ちなみにアイシャには俺が別世界から来たということを言っておいたので本当の苗字を知っている。
「で、こっちの子供はレオナ・ヴァリオンです。」
と俺はアイシャを指して紹介する。アイシャの本当の名前は安易に話すのは危ないので隠しておく。
「二人はご兄妹なのですか?」
「ええ、まあ血は繋がっていませんが。」
とりあえず俺は兄妹で話を通すことにしておいた。
「そのフードをつけているのも何か理由でも?」
「あ~この子は昔、大火傷をしまして顔に凄い火傷跡が残っていますのでこうやって隠しているんですよ。」
俺は顔を隠しているのを触れられないような理由をつけて回避する。
「そうだったのですか・・・すみません、聞きにくいことを質問してしまって。」
「いえいえ・・・そろそろ本題にはいりませんか?」
「そうですね、話がずれてしまいました。」
コホッとオルトは咳払いすると話を始めた。
「先ほど言ったように私にあなた方の商売を協力させてほしいのです。勿論、利益なんかもあなた方がかなり多くなるようにで」
「はあー。その目的はなんですか?」
「いえ、まあ簡単な話でいい商売をしているので私にも少し齧らせてもらえないかと」
そういうとオルトはニコッと笑みを浮かべた。
それにしてもこの男、いきなりぶっちゃけたなー。
もう少し何か言い回しとかしないのだろうか?それかこれが、この世界の商人の商談スタイルなのか?
まあ、俺は率直なスタイルは好きだけど。
話を進めよう。
「ちなみにあなたは私たちにどのような協力をしてくれるのですか?」
俺もめんどくさいのでもうぶっちゃけることにした。
「そうですね、これはあくまで私の考えですが、この商売の拡大ですね。簡単に今考えているのは、西部の商人市場での販売、ジャガイモを使った飲食店、各町への流通ルート作成、それと貴族にも定期的に売っていきたいですね」
とオルトはニコニコしながら語っていく。まあ、それは俺も考えていることだ。
「私の見たところ正直な話だとあなた方にはまだそれができないのではないのかと思っています。」
彼の言ったとおりだ。俺らはそれをやり遂げるだけの力を持っていないのだ。
彼は俺らにこの話を持ちかける前によく分析していたようだ。
そして、彼はまた語り始める。
「多分あなた方も考えてきたことでしょうがそれができない、そこで私の出番です。私は商人は勿論、貴族へのコネももっています。そして、最初の資金や人員についてある程度は用意ができます。で、その代わりですが私に少し利益をもらえればいいのです。」
よくわかっているなこいつは・・・ならあとは取り分だ
「ちなみに利益の取り分はどのくらいでお考えで?」
「私が4割であなた方が6割でどうでしょう?」
チョー美味い話だ。今の話だとほとんど事をこの男に任せているのに。
「そんなにですか・・・ちなみに私たちは役割はなにをすればいいんですか?それに、ジャガイモの数だって今生えてるものだけ。収穫できる数は決まっていますけど・・・」
そう俺が答えるとオルトは驚いたとばかりの表情を浮かべる。
「これは予想外ですね。ハルトさんならもう栽培方法をご存知かと思ったんですが・・・」
「いや、確かに栽培方法はある程度知っていますが何分育てる土地が無くて」
「それだったら問題ありません。私に当てがあります。」
彼は言い切った。この自信からすると間違えなさそうだ。
「ならお任せする事になりますね。」
「はい、是非とも任せてください。ちなみにそうなるとハルトさんたちの役割はその栽培の指導や調理の指導をお願いする事になりますね」
「それだけでいいんですか?」
そんなことで6割もらえるなんて嘘のような話だ。
「いえ、それが重要なのです。それにまだやっていない調理法もまだいくらかあるんじゃないんですか?」
この男は鋭いな。そこまできづくとは・・・・
「ま、まあ。」
「別に今言わなくてもいいですよ。商人として見せる必要の無い場面でカードを出す必要は無いのですから
できるだけ温存したい気持ちはわかります。・・・・となると我々の商談はかなり有益なものになるようですね」
「というか利益の分配はそれでいいのですか?私たちに多すぎるのではないかと?」
「いえ、そんなことはありません。私はこの話に噛ませてもらう身、少しの恩恵をもらえるだけでありがたいことなのです」
ずいぶんこの男は謙虚だな。もしかして本当にこいつはチョーお人よしなのか?
だが、現実的に考えればかなりありがたい話だ。なによりこの条件なら俺は肉体労働から解放される。
もう毎日重たいジャガイモ運をしなくていいのだ。
マジでありがたい話だ。
そして、オルトは急に立ち上がった。
「すみません。私から呼びだしといて悪いのですが、そろそろお暇させてもらいます。あっ、あとそこの木箱に、私からの少ないながらも差し入れがありますので、持っていってください。」
そういってオルトは自分の傍らに置いていた木箱を指差す。
そして、木箱の中を覗いてみるとたくさんの果物が中にあった。
「では、この商談を前向きに考えてもらえますでしょうか?」
「あっ、はい。そうですね」
「それならよかったです。では一週間後、同じ時間にこの場所でよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。」
「ここにお金を置いていくのでゆっくりご飯を召し上がってください。それでは失礼します」
オルトはそう言うと足早に去っていく。
去っていく彼を見守っていると丁度従業員が飯を持ってきてくれた。
俺らは食べ始める。そして、アイシャが唐突に明るい声で俺に向って言った。
「いい話ですね。これでもっと生活が安定しますね!」
彼女はこの話に加わるのは決まったようだと思っているようだ。
だが俺は違う。アイシャについて余り突っ込んでないとこをみて刺客ではないだろう、だがこの話は美味すぎる。あの勘のいい男がこの程度の利益で満足するとは思えない。
まず、奴はなぜ自分であれだけの力を持っておきながら、自らこの商売に手を出さなかった。
自分でやったほうが確実に利益がでるのに。
俺は栽培法を知り、調理法を知っていると奴はそう俺のことをよんでいたが、それを含めても金も権力も無い、俺らに力を使い無理やり取りこんでもよかったはずだ。
だが奴はそうはしなかった。何か裏がある。
これから奴の調査だ。