2話 魔法適正
目が覚めた。
久しぶりの快眠だった。
やはり仕事が無い日というものは心の安堵からかスッキリした気分で起きれる。
ここ何日かはジャガイモ売りに専念していた。
こっちに来てからある程度の生活のサイクルができていた。
まず、都市の郊外へと出て、ジャガイモの収穫に1日を費やし、次の日は丸一日収穫したジャガイモを売りまくるというサイクルだ。
ジャガイモを収穫する場所はここから2,3キロ離れていた。
そこでアイシャにジャガイモを採って籠に入れてもらい、俺が籠いっぱいのジャガイモを背負い
この宿屋へひたすら往復するというものだ。
この役割分担は、まだ幼いアイシャにそんな重労働をさせるわけにはいかないためだ。
大体一日で運べるのは5,6往復くらいだ。
おかげでこの数日筋肉がかなりついたんじゃないかと錯覚するくらいだ。
売るときも収穫したジャガイモをまた露店の方に運ばなくてはいけないし、客寄せ用の芋を蒸かしたりしないといけない。
仕舞には買ったお客が芋の大きさが少し小さいじゃないかと文句を言ってくる奴まで出てくる。
確かにあまりにも小さい芋には余分に一個つけたりするが、ちょっとぐらいの差なんて気にしてるほど暇は無い。
この数日間、精神的にも肉体的にも激務だった。
だが今日は違う休みなのだ。
丸一日ジャガイモを見なくていい。
それだけで今日は気分がいいのだ。
そうして、ベッドから起き上がると隣のベッドで座っているアイシャがいた。
彼女は既に起きていたようだ。
そして、彼女は俺が起きたのを見ると俺に向けてあいさつをしてきた。
「おはようございます、ハルトさん。もうお昼になってしまいますよー」
「ふん、アイシャ君、休日は昼まで寝ることは社会人として常識だよ?」
「え、そういうものなのですか?」
そんな言葉に彼女は本気で受け取ってしまってる。
まずい、これは彼女の教育上、悪いかもしれない。
「いや、まあ常識というよりはそうやってる人が多いってだけだよ。まあ働きつめた体を休めるためには重要なんだよ。」
「あ、そうなんですか」
そういうと彼女は納得したのか、笑顔で頷いてくれる。
彼女の笑顔が眩しい。なんか罪悪感が沸く。
「じゃあ準備して出るか!」
「はい!」
そして、俺らは素早く準備して、宿をでた。
目的地は魔術師ギルド。
魔力鑑定をしてもらうために、今いる場所から西に向う。
俺らが今住む都市、アルデミラン王国の首都ラプソルはかなり広大である。
山を背にして半径3,4キロくらいの半円を描くように石でできた5、6メートルくらいの高さの壁が囲っている。
この国の科学の発達は中世のヨーロッパ程度、そんな技術力があまり発達していない中、この壁を作ったのだから相当苦労したのだろうなと思う。
まあ魔法使ってるんだろうけど。
ちなみに俺はまだこの世界に来てから魔法を見たことがない。
アイシャにはこの世界に魔法はあるとは聞いているがまだ俺は目で見たことが無いから、今日魔術師ギルドで見れると思うと今から胸がどきどきする。
なんだろうこの気持ち
あっ。初めて飛行機乗るときに似ているかも。
ちなみに魔術師ギルドは都市の西部中央部に位置する。
都市は大きく3つに分けられてる。
まず東部は俺らが今いる位置だ。
主に平民の住宅や宿屋が多くある。
それにちょっとした八百屋など食料品を売ってる市場か、ちょっとした飯屋が並んでいる。
次は西部、ここは行商用の市場や各所役所や施設が多く並んでいる。
西部の市場は大きく賑わっている。
行くとたくさんの人と活気あふれる声が聞こえる。
ちなみに俺らがじゃがいもを売ってるのは東部だ。
なぜ、西部で売らないかというと正直怖いのだ。
俺は商売なんてど素人だ。
ここのルールも知らない。
いつ怖い人たちに睨まれるかわからないし。
確かに西部は売り上げは期待できるがリスクのほうがでかい。
というかそもそも毎回完売しているからここまでくる必要はないのだ。
そして山を背にしている北部、あそこは王城だ。うん王城だ。
この都市のどこからでも見える。
常に存在感を出すでかい白銀の城だ。
あのねずみがいる夢の国の城より10倍以上でかい。
正直俺のいた世界でこんな大きさの城は存在しなかった。
最初見たとき、すげーとしか言いようがなかった。
北部は城の存在がでかいが他はあそこは貴族区という話だ。
行ったことはないが王族と貴族の住居区らしい。
基本平民があまり立ち寄ってはいけないという話だ。
まあ行く気もないけど。
歩くこと15分ほど2階建てで横長な赤いレンガ造りの建物に着いた。
ここがラプソルの魔術師ギルドの支部。
緑色の三角屋根、壁のレンガから紫色の旗がぶら下がっている。
金色の刺繍で竜の模様が書いてある。
「着きましたね。」
「おう。じゃあはいるか。」
俺はそう言って建物の両手扉を開ける。
中は教会の大聖堂のような造りになっている。
まず目に入ったのは、人だ。
誰もがローブを身に纏い長い杖を持っている。
中央にはテーブルと椅子が並べられ、たくさんの人が座っている。
左には、杖や水晶など魔道具らしきものがカウンターに色々並べられている。
多分あそこは魔道具の売り場なのかな?
なんかピンクのパンツらしきものも売っているけどあれも魔道具か?
ちょっと気になる。
あとで見てこようか。
そして、右側に4つほどカウンターがあり、あれは受付なのか?
それとも鑑定するカウンターなのか?
そう思うが、カウンターに文字が書いてあるが読む事ができず、なんのカウンターかわからない。
この世界では面白い事に言葉は通じるが字が読めない。
異世界転移、特有のご都合主義だ。言葉が通じるのなら字も読めるようにしてほしいものだ。
今後の事を考えると字の読み書きができるようにしなくては・・・・
そんなこと思っているとアイシャが声をかけてきた。
「ハルトさん。魔力適正鑑定は一番奥のカウンターらしいですよ」
「えっ。アイシャ字読めるの!?」
「あっはい。多少なら」
「お前がいてよかった!」
そういうと俺は思わずアイシャの手を握ってしまった。
アイシャさんは流石だね。あとで教えてもらおう。
そうするとアイシャに困ったような顔してしまった。
そうだよな、24歳の童貞に手を握られても困るよなー。
俺は手を離す。
「と、とりあえず行ってみましょう」
アイシャが慌てて歩き出す。
「そうだな」
カウンターにいるのは怪しげな真っ黒いローブを着ている老人。
カウンター中央に水晶が置かれていて手をかざしている。
「魔法適正をききたいのかな?」
老人が話しかけてくる。
「はい、ちょっと自分たち二人の魔法適正について聞きたいんですよ」
「ほうよかろう、2人で鉄銀貨2枚じゃ」
俺は老人に鉄銀貨2枚を渡す。
「じゃあまず、お嬢さんのほうからじゃ。水晶に手を当てておくれ」
老人に言われるとアイシャが右手を水晶に手を当てる。
そして、老人は水晶をじっと睨みつけている。
と思ったらいきなりハッとして叫びだす。
「お!おお!これはすごいぞ!!!その歳で凄い魔法容量と適正力じゃ!んん?一番の適正力が高いのは治 癒系かのう?」
おっ、ずいぶん老人が興奮してるなー、そんな凄いのかな?
俺は老人にとりあえずを質問してみる。
「そんなに凄いのですか?」
「凄いも何も彼女は超級治癒魔術が使えるぞ!魔力量もその辺のベテラン魔術師より多い!」
「超級治癒魔術?」
「何じゃ知らんのか?魔法には階級がある。低級、中級、高級、超級、聖級、神級の順番で分かれておる」
「はあ~ん。それで超級ってどんくらい凄いんですか?」
「才能がないものがどれだけ努力をしても高級が限界といわれている。超級に達するには才能が必要なの じゃよ。ちなみに人が扱えるのは聖級が限界と言われておる。神級にいたっては人では無理だと言われて おる。まあ昔いた魔道王とアリエル教の聖女は使えたと聞いたことがあるが本当かは知らん」
「つまりアイシャは凡人がどんなに努力しても到達できない領域に達しているということですか?」
「そうじゃな。しかも才能もそうだがかなり修業を重ねてきたように見えるの~」
「えっ?」
アイシャの顔を見てみる。
彼女は物凄く気まずそうに下を向いている。
「隠していたのか?」
「いえ、そんなことは・・・・」
彼女はそのまま下を向いている。
「まあ、なんか理由があるなら特に聞かないし」
「すみません」
「謝ることはないさ」
なにか過去にあったのかと思ったが気にしない事にした。
誰にでも辛い過去がある。無理に掘り下げなくてもいいだろう。
そのうち彼女から打ち明けてくれるの待つか。
「いちよ聞きたいんだけど後、何が使えるんだ?」
「火を中級、水と土を低級、光を高級まで使えます。」
「は~ん」
相槌したが、どのような魔術でどんくらい凄いのか全くわからん。
だが、彼女は相当な使い手らしい。
「もういいですか?」
「おお、そうじゃな。もう手を離していいぞ」
老人がそう言うとアイシャが手を離した。
それにしてもこれは凄い棚から牡丹餅だな。アイシャがここまで魔術の実力者だったとは。
冒険者としても彼女はかなり重宝しそうだ。まあ、今まで使わなかった事を考えると本人はあまり魔法を使いたくなさそうだから強制はできないけど。
「じゃあ次は俺だな」
「そうじゃな。手を置いてくれ」
そうして俺は水晶に手を置く。
老人がまた水晶を睨みつける。
そんな状況になって2,3分程経った。
未だ老人は何も言わず水晶を見ている。
そして老人が口を開く。
「さて、困ったの~」
「え!?」
「ないんじゃよ。お主に魔力が」
「え、嘘!?」
「いや、ホントじゃよ。普通どんな生き物でも魔力は少なくてもあるものじゃ。だがお主には魔力というも のが無いんじゃよ」
えっ。マジかよ。俺の冒険者としての生活が・・・・・・。
まあ、俺はこっちの世界の人間じゃないからそういうこともありえるんだろうけど。
でもそれはあんまりな話だ。ちょっとあるんならまだ希望を持てたが一個もないんじゃしょうがない。
魔法が使えないとか俺何のために異世界来たんだよってレベルだよ。
うじうじしててもしょうがないか。
ならここは剣士ルートに変更か・・・でも、身体能力こそ別によくないし。だからといって今から剣の修業もしたくない。冒険者はあきらめるしかないのか・・・
俺が肩を落としていると老人がいきなりカウンターにある奥の部屋へ入り、違う水晶を持って戻ってきた。
「なんだ、さっきの水晶は不良品だったんですか?」
「違うわい!あれはあれで正しいのじゃ!」
「じゃあこの水晶は何ですか?」
「ちょいと特殊なやつじゃ。とりあえず手を当ててみろ」
そう言われ違う水晶に手を当てる。
老人はまたさっきと同じように水晶と睨めっこをする。
そして、老人の表情が一気に変わった。
いきなり老人は額に大量の汗を流し始め、顔色が悪くなっていく。
「なんてことだ・・・」
小声で老人が呟く。
「お主今日はもう帰ったほうがいいぞ」
「えっ?結果は?」
「ワシからは結果は言えぬ。だがお主に言っておこう。ここにはもう二度と来るのではないぞ」
老人の一言に俺はあほ面をかましてまった。
「なんでですか?」
「これもお主のためじゃ。ワシは見なかったことにしておく。だが周りが気づいたら危険じゃ。
これ以上魔術師ギルドには絶対関わってはいかんぞ!」
「すみません。理由を教えてくれませんか?」
「いや、話はおしまいじゃ。すぐにここから立ち去るがいい」
そう言うと老人はカウンターの奥の部屋へと行ってしまった。
さあ、どうするか・・・このことを周りにいる魔術師に聞いてもいいが、あの老人の態度があそこまで急変したのが引っかかる。
まあそこはおいおい調べてけばいいか。
まあ、俺には魔法適正がなかったがアイシャの実力がわかっただけで収穫ありだ。
とりあえず今日のとこはいいだろう。
「じゃあアイシャ。とりあえず外に出よう」
「あっはい」
そうして俺らは魔術師ギルドを後にした。