14話 その後のお話
清々しい朝が来た。
俺は勢いよく、起き上がる。外はまだ明るくなったばかりで街には人がちらほら歩いているだけだ。
いつも遅起きな俺がなぜこんな朝早い時間に起きているのか?
というのはうちの可愛いお嬢様のためだ。
誘拐事件があってから3日が経った。
だが、アイシャはあれだけのダメージ食らったことにより未だに体力が戻らない。
顔色が優れず、動くにも体が重い様に思わせるのだ。
本人はもう大丈夫と言っているが生活をしている様子を見ていると、とてもまだ安心できる状態ではなかった。
なので、俺がこの3日間アイシャの身の回りの世話を行ったのである。
といってもそんな大げさな事はやっていない。トイレの時は歩くのを手伝い連れてったり。食事の買い出しや食事の用意などなどだ。
これは俺の尊厳回復にも大切な事なのだ。
いつもぐーたらしてる俺もやればできるとこを見せなければ。
というわけで朝飯の準備をしなくてわ。
そう思い、俺が取り掛かろうすると部屋をノックする音が聞こえる。
誰だこんな朝早くから?
俺はドアノブに手をかけゆっくりと開く。
そこには見知った顔が五人いた。
ガジル、ザック、ラウツとその従者思われるもの二人だ。
いきなり朝早くにこの面子を見ると扉を閉めたくなったがラウツには大きな借りがある、流石にそんな失礼な事は出来ないと自重した。
「ほっほっ。朝早くからすみませんな~。例の件でお話ししようかと、今時間はよろしいかな?」
例の件とは商談の件だろう。いつ面会するなど予定を決めていなかったから、取り敢えずいいかと思ったがこんな急に来るとは思いもしなかった。
あ~まだ何にも考えてないよ俺。
それにこの爺さん凄いやり手な気がするし、考えなしに交渉に入りたくないというのが本音だ。
正直、行きたくない。今日は取り敢えずうやむやにするしかない。
「そうですか。自分も話をしたい気持ちは山々なんですが、仲間が未だにちょっと体調が優れないようで看病をしないと・・」
「お~それはそれは。傷が癒えないのですかな?」
「いえ、そういうわけではまだ痛みがあり、自由に体が動かせないようで」
「ならば、儂の使用人を看病に来させましょう。身の回りの世話ができる者と、回復魔法を心得てる者を呼びましょう」
そう言ってラウツはニヤッと笑みを浮かべる。
まずい・・・このままでは交渉の場に着かされる!
ここでなにか話題を変えなくては!!
そんな風に思っている中、アイシャにとどめを刺される。
「心配しなくても私ならもう大丈夫です!」
満面な笑顔でアイシャが答えた。
あっれー・・・これはもう不可避じゃね?
場所は変わって俺はラウツの言われるがままに彼の持つ屋敷に連れてこられてしまった。
屋敷は以前訪れた、魔術師ギルドの建物と同じくらいの大きさであり、中に入ると職員が慌ただしく動き回っていた。俺はその中を通り抜け、応接室に連れてこられた。
部屋の中には4、5人は同時に座れるであろうソファーがテーブルと向かい合わせに2つ置いてあった。
俺はその一つに座り、ラウツもまた向かい側に座る。そして、ガジルや従者たちで10人ほどが壁に立った。
「いや~、朝早くから呼び出してしまいまして申し訳ありませんな~」
ラウツは呑気な口調で謝罪してきた。本音を言うとそれならば呼び出さないでほしいと言いたいところだが、この老人には大変世話になったので無下には出来ない。
「いえいえ、で、何から話しましょうか?」
「そうですな~。聞きたい事はたくさんあるのですが、まず、あなたが考える商人について教えてもらいましょうかな?」
「私が考える商人ですか?」
「さようですとも。ハルトくん、君の意見を是非とも教えてもらいたいですの~」
俺はそう言われ頭を使い必死にこの質問のベストアンサーを考える。だがこの質問の意図が全くわからないので正直に答える事にした。
「物を売り、利益を出す職業?ですかね?」
少し、単純すぎる回答をしてしまったが、すかさずラウツが質問をしてきた。
「ほほう、具体的には?」
なんか入社試験の面接を受けてる気がしてきた。俺は面接はあまりとくいではない。
「えーと。例えば商人同士で流通ルートを固めて、規模をどんどん拡大して、新商品の繁栄をしていくとか」
言った瞬間、この部屋に沈黙が起きた。そして、ラウツの従者たちは真顔で俺の回答を叱咤する。
「甘い、甘すぎる!」
「夢のような話だな」
「それができたら苦労はしない」
なんか滅茶苦茶、罵倒されているんだが・・・・
だが、そんな従者たちをラウツが止める。
「ほっほっ。ハルトくんそれは確かに今の従者が言った通り、甘いぞ?なら少し儂が思う商人について語ろうかのう」
「は、はい」
「内容についてじゃが、我々商人一番投資に出し惜しみしない金はなんだと思うかね?」
俺はこの質問に一拍を置いて答える。
「商品への投資ですか?」
「残念じゃが外れじゃ。正解は『人を邪魔する金』と『人から邪魔されないようにする金』じゃ。お主は商人同士で協力してと言いおったが、生憎今の商人の社会じゃそうじゃないのじゃ。一時的な意見の一致があれば勿論協力はするが、基本はお互いを出し抜かれないため妨害をしあう。特に流通ルートを形成するというのは特に難しい、商人を相手にすれば流通ルートを活用するにのとんでもない額を吹っ掛けられるだろう。今の我々の競争は醜い、お互いの商品を売るために高め合うのではなく、お互いを出し抜かせないために足を引っ張り合うというのが正解じゃ。商売が大所帯になる程、敵が増える。なにも、今回の事件を起こしたオルト・ロウランのような商人は珍しくはないのじゃよ。まあ奴はお主を侮ったのと頭が少し足りんかったが」
ラウツは深刻な表情で語る。そして、また続ける。
「それとお主は新商品の繁栄と言っておったがそれも中々上手くいかんな。まず、新商品をいうものが中々生まれぬからのう、それでいて売れるという保障がないため誰もが気軽に投資をすることができないしのう。お主が売り始めた、ジャガイモなんかは食料であり、汎用性が高かったので別じゃがな。」
俺はまだこの世界の知識の浅さがもろに出てしまったようだ。気軽商人になろうと思った自分が世間知らず過ぎて恥ずかしく思えた。
「浅はかな考え、申し訳ありませんでした」
「ほっほっ。謝る事ではない。実際に協力して利益を出そうとする儂やガジルたちのようなものたちもおる。みんながみんなそのような者なわけではないからのう。まあ、気を付けた方がいいという話じゃ。額がでかければデカい程、妨害の恐れがあるのじゃ。それに敵は商人だけじゃない。貴族や王族、平民、全員が敵になることもある。それだけは覚えておくことじゃ。」
「はい、心しておきます」
「でじゃ、この話を聞いてお主これから目指す商人を聞きたいのじゃが?」
俺が目指す商人、商人になる以上俺がやる事は決まっている。
「私はまず料理の改革をしたい。そして、後々は生活を便利にするものを繁栄させて豊かな暮らしができるようにしたいんです」
「ほっほっ。随分おおきな話をしよったな。で、それはもう具体的に浮かんでいるのかのう?」
俺は頭を一指し指でトントン軽く叩きながら答える。
「自分の頭の中にはいくつもの新商品が浮かんでおります。それを活用していきたい。そして、できればラウツさんに流通ルートの確保と生産の量産を手伝ってもらいたい」
俺がそういうと従者が俺に言ってきた。
「お前先程のラウツ様の言葉を聞いておったのか?今流通ルートの形成や新商品を売り出すことは難しいと言ったであろう」
従者たちが俺の事を本当に馬鹿じゃないのかと呆れていた。だが、ラウツはそんな従者に窘める。
「まあ、お主たちそう言うでない。この男は実際にジャガイモを売って一儲けした男だ。十分信用に値するじゃろ。それでいてその新商品というのは具体的にいくつくらい浮かんでおるのじゃ」
俺は即答した。
「命が尽きるまでに全部世に出しきれるかといったくらいでしょうか・・」
「ほう~。それはまた随分大きく出たのう~」
これは嘘ではない。どれだけこの世界で実現できるかわからんが無数に発想があるのは確かだ。
ラウツは下を向き、髭を弄りながら考え込んでいる。そして、ゆっくり顔を上げ俺に言った。
「よかろう。その話を乗ろうではないか。流通ルート、量産関係ではなく、全面的にバックアップをしてやろう」
ラウツはニコニコと語った。俺はふと胸を撫で下ろした。だが、外野からのパッシングがまた飛んできた。
「ラウツ様!そんなに簡単に信用してよろしいのでしょうか!?確かに実績はあれどそう簡単に全面協力に徹してよろしいのですか!?」
従者の意見は正にその通りである。どこの会社にちょっと商売が成功した人間を全面バックアップする会社があるのだろうか。
そこは明らかに俺の信用が足りない。
だがラウツは従者に向かって堂々と答える。
「なに。あれ程の啖呵を切ったのじゃ。それ相応の覚悟はできてるはずじゃ。そうであろう?」
「ええ・・・・・」
ラウツの脅し交じりの問いに少し、後ずさってしまった。
俺は取り返しの付かない事をしてしまったんではないのだろうか?
「では、話を煮詰めていこうかのう~」
その後、俺は早朝から深夜まで拘束されるのであった。
城門前にて~
街の外れ、城門の外でバルテは立っていた。
「おーい、本当にお前もついてくるのか?」
声をかけてきたのは、冒険者時代からの仲間だったダルバスだった。
「僕が付いていきたいんだ。構わないだろう?」
「全くお前って奴は」
ダルバスは恥ずかしそうに頭を掻いていた。
その後ろにはかつてのダルバスと同じ冒険者仲間たち、それと20人程度の屈強な面構えをした男とそれらを見守る数人の兵士たちがいる。
「僕だけを仲間はずれにしないでくれるかい?」
「でも、いつ帰ってこれるかわかんねーぞ?」
「そんなの承知の上だ。早く終わらせて、またうまい酒を飲もうじゃないか」
ダルバスたちはあの誘拐事件と前にやっていた前科の罪により、逮捕された。
本来ならこの罪状は死刑にされるのが普通だがアイシャの弁護と主犯がオルト・ロウランという事、シュリムがある程度、目を瞑ったという事で、バルテを除く、ダルバス一行には不毛な地への村を開拓するという
刑を科せられてたのだ。開拓村ができるまで、永遠と作業を務めさせられる。
「簡単に言いやがる。一生とは言わんが10年、20年暮らしてくだけの金があるじゃねーか。それでしばらく暮らしてればいいじゃねーか」
「あのお金はみんなのお金さ。解放されたときに使おう。僕のお金じゃない」
「そんなことしたら俺らがわざわざオルト・ロウランのとこで汚ねえ仕事をしてた意味がねーじゃねーか」
バルテはかなりの金額の金を今所持している。その金はバルテのためにダルバスと仲間たちでオルト・ロウランに雇われていた時に稼いでいた金である。
ダルバスたちは自分たちの所為でバルテが冒険者をはく奪された事を悪く思い、仲間内でその罪滅ぼしをしようと稼いできた金だ。そして、ここ数年、ダルバスたちがバルテを遠ざけていたのは悪行に付き合わせたくないというのが本音だった。全てはバルテを思ってやった行動であった。事件後、バルテにその話をしたらしこたま怒られたのであった。
それ以来、参加しなくていいこの村、開拓に参加するという事を意固地になっていた。
「じゃあ、またよろしく!」
「たくしょーがねーな」
バルテ、ダルバス、そして仲間の面々はお互いの顔を見ながらニヤニヤしている。
だが、その時監視役の兵士たちから怒声が飛んでくる。
「お前ら何突っ立っている!さっさと先へ進まぬかあ!」
「じゃあ、行こうか~」
「「「「おう!」」」」」
こうしてバルテ、ダルバス一行は進むのであった。
ある騎舎にて
「シュリム、またお前あの大商人の手助けをしたそうだな」
「ん?ただの人助けだよ。誘拐犯の通報があったから騎士としての任務を全うしただけだよ」
ここはある北部貴族区にある建物の一つ、騎士団の専用の建物とそして、広い敷地を有す兵舎である。
騎士の寮を兼務しており、その庭では数十人の騎士たちが訓練で木刀を打ち合っているところだ。
その風景を横目に建物に背を預けながら、話をするものが二人。
一人は赤い鎧に身を包んでいる、茶髪の髪を前髪を残し横、後ろは短く切りそろえた青年シュリム・フローケルである。
今は退屈そうに腕を組み、立っている。
そして、もう一人は同じく赤い鎧を身に付けている、黒髪の少女である。
少女といっても顔立ちは凛々しく、どちらかというと女性という印象を思わせる。
身長も高く、180センチ近くあるシュリムより、10センチも変わらない、それでいてボディーラインはとてもスレンダーである。
腰近くまで伸びた黒髪は後ろで纏められていてポニーテールになっている。
黒髪の少女の大きな瞳は今シュリムを鋭く睨み付けている。
そして、少し荒い口調で発する。
「何を言っている。お前があの商人に大きく肩入れしているのは知っているんだぞ」
「あの人には大きな借りがあるんだ。ここに今僕がここにいるのはあの人のおかげでもあるしね。それに騎士として間違ったことをしているわけではないし」
「フンッ、この前騎士の中で貴族から賄賂を受け取ったものがいた。勿論、処罰後、騎士団から追い払ったがな。」
「僕がそいつと一緒と言いたいのかい?それは流石に侵害だな~」
「別にそういうわけではない。お前の事だ。そんな馬鹿な事はしないと思っている。だが、騎士団は今警戒している、いらぬ疑いをかけられぬよう気を付けろと言いたいだけだ」
「それはご忠告ありがとう。でも、それを言うなら君の方が崖っぷちじゃないのかい?」
「なに?」
シュリムの言葉により一層、少女は眉間にしわを寄せる。
「命令違反の件、団長に次やったら覚悟しておけって言われたんでしょ?」
「なぜその件をっ!?」
少女は一気にシュリムの方に身を寄せた。その勢いにシュリムは後ずさる。
「おっと。近い近い!」
「す、すまぬ」
「もう大分噂になっていたよ。この前は何をしたの?」
「貴族の家族を護衛中、その貴族の息子が宿屋の従業員に無理やり手を出そうとしてな。少しお灸を据えたまでだ」
それを聞き、シュリムは頭を抱えてしまう。
「なぜ、護衛対象に手を出してしまうんだ」
「なぜ?だと男に迫られ怯えている宿屋の少女を目にして、見過ごしていられるか!?殺さないだけマシだ。」
「相変わらずの正義感だね。だけど手を出さないで解決できなかったのかい?」
「罪を犯してるものを言葉で注意するなど甘いことは私はしない!」
「はあ~。そうかい。で、また護衛任務なんでしょ?しかも、六大貴族の一人」
「うむ。ルード・バン・オルロイン侯爵だ」
「また、ビックな人なんだねー・・・・問題は起こさないようにこれは僕からの忠告だよ」
「無論だ!」
そう言って少女は力強く振り返り、歩き去って行くのであった。
長らくお待たせしました。再開いたしますのでまたよろしくお願いします。