12話 少女奮闘
バルテはバイルに対して一歩も動けずにいた。
「おい、魔法使い。こないのか?」
バルテは話しかけられても返答せず、じっとバイルのことを睨んでいる。
「出方を伺ってんのか?悪いがそれならこっちから行かしてもらうぞ」
バイルは構えていた大剣を握り直し、一歩踏み出した。
だが、その瞬間後ろにいたダルバスがバイルに対して飛び込むように両手で抱き着いてきた。
「ま、待ってくれ!!そいつはちょっと気がおかしくなっちまったんだ。俺がこいつを今止めるから待ってくんねーか!?」
「黙れ!」
「グウッ!?」
バイルは抱きかかえられていた両手を力ずくで解き、ダルバスに横からわき腹に蹴りを食らわした。
その場からダルバスは部屋の壁に飛ばされた。腹を抱え痛みで姥貝ている。
そして、バイルはバルテの方へを向き直す。
「旋風!!」
「チッ」
バルテはこの隙を逃さずにバイルに対して杖を構えて風魔法を放った。突風が吹き部屋の真ん中に立っていたバルテの体はドアを抜けて部屋の外へ吹き飛ばされる。
バルテの体は5メートル程度飛ばされ、風が収まった瞬間、片膝をついて屈む体勢で着地する。
「火球!」
バルテの追撃は止まらない。今度は20センチ位の大きさの球体の形をした火がバイルに襲い掛かる。
バイルはそれを横に転がって避ける。飛んだ火の玉はどんどん小さくなり消滅した。
バイルが怯んだのを見計らって、拘束を解いたアイシャとバルテは部屋の外へ出る。
外に出ると道幅5メートル程の道がまっすぐ続き、周りは崩れた家や、木を簡単に組み立てた、簡易的な家が立ち並んでいた。
そして、道には異臭を放つ糞や生ごみが大量に道端に落ちている。
アイシャが閉じ込められていたのはスラブ街にある建物だった。
「ン、ハッハハハハハ」
ファイアボールを避けて、まだしゃがみ込んでいるバイルが突然立ったと思ったら笑い始めた。
「おいおい、その程度で俺と戦おうって言うのか?話にもなんねえぞ?まだその小娘の方がマシってもんだ」
「なんだと!?」
バイルは右手に持つ大剣を方に担ぐと気だるげに語りだす。
「お前その首から吊り下げてる冒険者のタグプレートを見るとCランクだろ?まあ剥奪されてるようだが・・・。俺もちなみに冒険者だったんだ。いちよソロでランクB⁺までだがな」
「ソロでB⁺だと!?」
その言葉にバルテは驚く。冒険者のランクでB⁺の+というのは通常のBランクとは違い次のランクへの昇進資格を持つBランク冒険者だということ。提示された昇進クエストさえ受かれば直ぐに次のランク、Aランクになれるのだ。よってAランクに近い実力を持つ者ということを意味する。
しかも、通常のランクというのはパーティでの実力も合算されることになっている。
それを、ソロで実力を認められるという事は実質バイルの実力はAランクでも上位に近いだろう。
バルテは焦る。予想外だ。ここまで実力者だと思わなかったと。
バルテは目の前の強敵を見ていると段々杖を持つ右手が震えてきた。額には冷汗がジワジワ出てくる。
「それに俺はこれでもリーラ帝国の騎士として育てられて来たんだ。対魔法使いの戦闘もお手の物ってもんだ」
そう言い、バイルはニヤニヤしながら肩に乗せた大剣を揺さぶってカタカタいわしている。
「まあいい。茶番はこれで終いだ。とっとと終わらしちうまうぞ。」
バイルはバルテの元へ踏み込んでいく。
「そうはさせない!旋風」
「そんな技に二度も食らうか!」
「グブゥッ!!」
バルテは腹に膝蹴りを食らい、地面に転がっていく。
「だからてめえなんざじゃ話にならねえつったんだよ」
バイルはバルテに近づいていき、大剣を振り上げた。
そして、その剣が振り下ろされる瞬間
「やめろ!ゴラアッッ」
怒声を上げたのはダルバスだった。そして、ダルバスは後ろから自分が持つ短剣でバイルの右肩に刺した。
「てめえ!!!」
バイルは大剣を左手に持ち替えてダリウスに剣を振り下ろす。
ダリウスは短剣を両手で抑え攻撃を防ごうとしたが短剣をたたき割り、ダリウスの体を斬りつける。
「ガァァァ!!!」
ダリウスはその場に倒れて痛みに悶絶する。体の斬られたところから血がジワジワと滲んでいき服が赤くなっていく。
だが、それだけは終わらない。バイルは何度も何度も倒れ込んでいる体に何度も蹴りを繰り返していく。
「ダリウス!!」
ダリウスが倒れているところを見た、バルテはダリウスの体に蹴りを入れているバイルに向かって杖で殴りかかる。
だが、気づいたバイルに顔を掴まれそのまま地面に叩きつけられる。
「血迷ったか馬鹿が!魔法使いが杖で殴ってくるなんてよ!」
ダリウスとバルテの二人は既に意識が飛び、地面に倒れ込んでいる。
「てめえらは、ここで大人しく寝ていろ!」
そして、バイルの目は金髪の少女に焦点を合わせる。
「待たせたな。アイシャ・メイア・オルネット。邪魔が入ったが今度はお前の番だ。よく逃げなかったな」
「私を守ろうとしてくれた二人を置き去りにして逃げるなんてできません」
「こんな時に人の心配とはお前も随分偉くなったじゃねーか」
「私は思ったんです。逃げるだけじゃ駄目だと」
「何をいまさら。強がっても俺には勝てずお前が死ぬだけだぞ。まあいいか」
バイルとアイシャとの距離は10メートル程度の距離。バイルは思いっきり踏み込んでいく。
だが、バイルの足は2歩目で止まってしまう。
バイルが踏んだ地面が泥沼と化し、どんどん足が沈んでいく。
「クソ!てめえ!泥沼をしかけやがったな!しかも、普通の土でカモフラージュしやがって」
土魔法の泥沼。それは文字通り地面を土の沼に化し、相手の動きを止めるなどに多く使われる魔法である。
なにより近距離戦闘専門の剣士のバイルにはこれほど有効な魔法はない。
「彼らに時間を稼いでもらっている間にこの辺り周辺を泥沼に変えさせてもらいました。対魔法使いの戦闘
に慣れているあなたでもこれなら効くはずです。大人しく降伏してください」
「全部計算してか・・・わかってるだろ?俺が降伏するわけねえだろ?」
「だと思いました。・・・それなら手加減はしません!大火球!」
アイシャが連続で魔法を唱える。1メートルサイズの火球が複数、バイルにめがけて飛んでいく。
バイルは必死に泥沼に埋まっている自分の足を引っこ抜こうとする。
火球が接触しようとした寸前、泥沼から脱出に成功した。
そして、地上での戦闘では不利だと思ったバイルはスラムの民家の壁を伝い、屋根へと上る。
「クソ、これじゃ俺が不利になっちまうじゃねーか。利き腕も塞がっちまったしよ」
そう言ってバイルは自分の右肩を見る。ダルバスが刺した右肩から出血している。
「まあ、いい。じゃあ俺も本気だすか。」
バイルは大剣と高く持ち上げ振り下ろす。その瞬間、風の斬撃が飛ぶ。
アイシャは反応に遅れ、そのまま吹き飛ばされ、対側に立つ民家の壁にぶつかる。
アイシャはゴホゴホと咽る。そして、バイルの方に向ける。
「別に遠距離攻撃はお前ら魔術師だけの専売特許じゃねーんだぞ。剣士も魔法を使えれば、剣に風を纏わせて、斬撃が撃てるってもんだ。まあ、俺のは斬るつうよりは衝撃波だがな。さあどうすんだ、自分で仕掛けた泥沼で逃げる事さえできねーだろ?」
アイシャにとっては絶体絶命だ。相手は俊敏な動きで自分の攻撃が当たらないのに遠距離攻撃もしてくる。
それでいて逃げ場はない。
もう無理か。そんな気持ちが湧いてくる。
「じゃあ、大人しく死ねよ」
屋根の上に立つ大男の大剣を持つ左腕が上がる。
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あれからどのくらい経ったのか・・・・
と言ってもまだ数分しか経っていないだろう。
アイシャの体は何度も衝撃を受け、体がボロボロになっていた。
体全身が痛み、意識が朦朧とする。
最初は治癒魔法を唱えようとしたが斬撃を暇を与えず撃ってくるためそんな余裕はなかった。
これだけ斬撃を食らってもまだ意識がある事を考えるとアイシャを痛めつけるために手加減しているのだろう。
そして、斬撃が止まった。アイシャは朦朧とした意識の中で正面を見る。
「お前をそう簡単に殺しはしないさ」
先程までアイシャに向けて斬撃を撃ってきたバイルはアイシャの目の前に立っていた。
「やはりお前を殺すにはこの剣でしっかりと感触を確かめなくてはな」
アイシャは朦朧と意識をした中で振り絞って声を出す。
「どうして、そこまでして私たち一族を狙うんですか?あの権力争いは痛み分けで終わったはずです」
「痛み分けだと。フンッ。関係ないものも殺しておいてか!?」
「どういうことですか?」
そして、バイルは淡々と語っていく。
バイルは貴族のオーリン家の三男として生まれる。二人の兄と一人の妹がいた。オーリン家は聖教会騎士団の騎士を多く輩出しているとして名を馳せていた一家だった。二人の兄は勿論、聖教会の騎士となり、流れ的にバイルも騎士になるように育てられていた。
だが、バイルはそれに反発し、とことん反抗をしていた。
その姿に両親と二人の兄の怒りを買った。顔を合わせれば口論になるのが常になっていた。
家族がみなバイルの事を嫌っていたが一人だけ違うものがいた。妹のミアリーだ。ミアリーは将来騎士ではなく、騎士団員の誰かの嫁に嫁がせられる予定だ。
その妹だけは騎士になれとは言わず、普通の兄妹のように接してくれた。
そんなバイルも自分の家族と呼べるのは妹のミアリーだけだと思っていた。
そして、ある日バイルは両親と大喧嘩をして、家を出て冒険者となったのだ。
冒険者となり、クエストをこなしていき、食いつなぐ生活を続けた。
その後、5年ほど経ってある日手紙が着いた。
次男からの手紙だ。嫌いな兄からの手紙だから読まずに破り捨てようかと思ったが、素直に封を開けて手紙を読んだ。
手紙の内容は簡単なもんだった。
(教皇の権力争いに加担して両親と長男が死んだ。このままでは妹も危ないからお前に守ってほしいと)
手紙を読み終えたバイルは急いで、リーラ帝国へと戻った。
そして、帰ってみるとバイルは驚愕した。
自分の家が黒ずみになっていた。まさかと思い、焼き焦げた家を散策する。
そうすると身の覚えのある手を見つけた。勿論、既に黒焦げになっている状態だ。
その手には自分が家を出る前に丁度、誕生日を迎えたミアリーに自分が贈った指輪はめられていた。
なぜ?なぜ関係ないミアリーが?と何度も自分の中で問い直した。
混乱した頭でバイルは答えを導き出した。
復讐してやると。
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「クソうるせえ。親父やお袋、それとバカ兄貴共ならどうでもいい。だが、なぜ。なぜ!無関係なミアリーまで死ななくちゃいけねえんだ」
話を聞いたアイシャは何も言えないでいる。
「それで、俺は屋敷に火をつけた野郎を見つけて問いただした。そしたら、その野郎はこの石の宿主だったから危険だと雇い主に言われて、やったって言いやがった」
そう言ってバイルは胸元から見覚えのある石を出した。
それはアイシャがアリエル教の儀式で体に宿された、魔石だ。
「こんな石っころを体に宿ってるから妹は殺された。俺はそいつを殺し、黒幕を聞いたらお前の親父だった。お前の親父は無関係の妹を殺した。だから俺は無関係でも手前を殺す。それが理由だ」
アイシャは息を飲む。この男の覚悟は本物だと。奪われた悲しみを決して許さず、復讐すると。
やったのは自分の父だが彼にとっては関係ないのだ。
「まあそういう事だ。だから死んでくれ。アイシャ・メイア・オルネット」
そして、バイルはアイシャに向けて剣を振り下ろした。
アイシャの体から鮮血が飛び散り、息が途絶える。
はずだった。
その瞬間バイルが振り下ろす大剣を剣で受け止められた。
「そうはいかないよ」
バイルの体に衝撃が走りそのまま地面へと吹っ飛んでいく。
そして、そのまま泥沼の中へ体が埋まっていく。
「グハァッ!!」
「君はもう終わりだ。大人しく投降したまえ」
バイルは何が起こったかわからず、叫ぶ。
「誰だっ!?」
声が聞こえる方に視線を向ける。
そこには赤い鎧に身を包んだ、茶髪の美青年が片手に剣を持ち、立っている。
「僕かい?アルデミラン王国騎士団3番隊隊長のシュリム・フローケルって言うんだ」
そう言って青年はバイルに向かって、微笑みかける。
どんどん更新ペースが落ちてきます。
すみません。次回はもっと早く上げられるようにします!
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